下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興

読了目安時間:4分

エピソード:85 / 132

ひとりの男の夢

 下野国 祇園城 小山犬王丸  地固めを終えた晴氏がついに義元討伐に動き出した。今回の号令では宇都宮の他に佐竹や小田といった常陸勢に声をかけており、自らも高基と義元を討つために出陣を決めたようだ。小山は義元の領土から距離が離れていることもあり、今回の号令には含まれなかった。皆川を攻めたばかりだったので兵役が増えることを避けられたことは幸いだった。  義元は一度佐竹を退けたことでその名声をより高めた。それまでどっちつかずだった国人から臣従を受けたり、結城から離反した多賀谷とも結んで勢力をさらに拡大させた。高基は表立って何かするということはなかった。書状を用いてこちらに味方するよう呼びかけることもなく、何をしているかまったくの不明であった。こちらが晴氏方と理解していて避けているのか、本当に動いていないのかはっきりしていない。  しかし晴氏にとって高基を奉じる義元の存在は今後に向けても目障りな存在であった。もし義元単体の反乱なら晴氏は関与することはなかっただろう。だが古河城で高基の身柄を確保できなかった晴氏にとって高基とその残党が関東に居残っているのは看過できないものだった。だからこそ今回の討伐では晴氏自ら出陣し、北関東の有力者を率いて義元を討とうとしている。  その中でも気合が入っていると思われるのは佐竹義篤だろう。義篤は自らの弟と庶兄に反乱を起こされ鎮圧どころか戦にも敗れてしまうなど失態が続いており、家臣の求心力が低下しつつあった。叔父をはじめとした一門からの後援もあってなんとか家を保っているが、最早義篤に後はなかった。もし今回も鎮圧に失敗してしまったら義篤が当主の座を追われるだけでなく佐竹の家も瓦解する可能性もあった。そのため義篤にとって今回の戦は正念場だろう。当主として家臣や家族を統率できなかった義篤に非があるとはいえ、若き当主には酷な現状で思わず同情してしまいそうになる。しかしこれを乗り越えられなければ佐竹の未来がないのも事実だった。  また結城家も今回の討伐に参戦するらしい。ただし義元ではなく義元と結んだ多賀谷の討伐ではあるが。結城家から離反して高基派の義元と結んだことは結城家として看過できないものであった。さらに情報を調べてみると多賀谷の寝返りは常陸の小田家が糸を引いてきたらしい。まさかそこで義元と結ぶとは小田も思っていなかっただろうが、そのこともあってか小田が参陣する部垂ではなく下妻への参陣を決めたようだった。  近隣勢力が義元討伐に参戦するなか、小山は皆川や小山の統治に注力していた。皆川領は今のところは安定しているようで大きな問題は発生していない。ただしこちらが唯一懸念しているのは小山領と皆川領を含めて最も北方に位置する平川城の扱いだ。  元の城主は平川成明であの宗成と一緒に暗殺された宗成の弟であり、彼には後継ぎがいなかった。今は暫定的に平川成明の旧臣たちが統治しているが、平川城は仮想敵である壬生綱房の壬生城と目と鼻の先にある小山にとって重要な拠点でもあった。できれば信用できる人物に平川城を預けたいが、平川の旧臣の扱いや誰に任せるかまだはっきりしていない。  これ以上重臣を祇園城から離すことはできれば避けたいところであり、ここにきて小山の人材難が露呈してきた。しかし下手に新参を雇えば以前のような対立につながりかねない。皆川の旧臣から選ぶにしても信用できそうな相手はまだおらず、また重要拠点に皆川の人間を入れるのには不安があった。  そんなある日、俺は夢を見た。それはひとりの男の生涯のようだった。  男は武士であった。若い頃から才気を発揮し仕えている主から諱を頂戴するなど信頼を勝ち取っていた。しかし若い彼は自分の姿が他人からどのように映っているかまだ理解できていなかった。男は家中から嫉妬されていたのだ。そしてその中でも長老格の重臣のひとりに謀られてしまう。その重臣は主に男に関する諫言をおこない、主の男への信用をなくすよう仕向けた。その策謀は成功してしまい、男は主から謀反の疑いをかけられる。男は必死に潔白を主張するがすでに男の言葉は主に届かなかった。男は己の城を追われて兄の伝手で越前国の永平寺へ逃れた。そこで僧になった男は世俗から離れた生活を送っていたがその胸の中では武士の心が燻っていた。その男の名は──。  そこで俺は目を覚ました。なんだったんだあの夢は。夢にしてはあまりにも現実的すぎるし具体的すぎた。そして何故だかわからないが、これがただの夢ではないと直感したのだ。目を覚ましたと同時に俺は段左衛門を呼び寄せる。 「急で申し訳ないが越前国の永平寺である人物を探してきてほしいのだ」 「……越前国でございますか?」  段左衛門は困惑した様子であったが俺の真剣な表情と説明に態度を改めてこの突拍子のない依頼を承諾した。 「わかりました。北陸に地の利がある者を急ぎ向かわせましょう」 「すまんな。そうだ、書状を渡しておこう。何かの助けになるかもしれん」  そう言うと俺は紙を取り出し、自分が何者であるか、夢の内容などを記し、段左衛門に託した。書状を受け取った段左衛門は「御免」と一言残しその場から姿を消す。  夢で見た人物を探せという世迷言のような命令にも段左衛門は顔色変えずに応えてくれる。そのありがたさに感謝しつつも彼らに報わなければと加藤一族への新たな褒美の準備を進めるのだった。

「面白かった」「続きが気になる」「更新がんばれ」と思ったら評価、感想をお願いします。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 解放詠唱アマテラス

    ホラー×バトルな霊能ファンタジー!

    30,300

    120


    2022年5月26日更新

    妖怪や幽霊の目撃談が多く、住民のほぼ全員がその存在を信じている架空の地域、鷹宮県。そんな場所を舞台に、霊的な存在を支配する王、その力の一部である霊王眼を宿す少年、白神リクは戦いの日々を送っていた。邪悪な妖怪を殺し、さ迷う霊をあるべき場所に導くために。 そんな日々の中でも平穏な時間にはごく普通の日常がある。しかし、百鬼夜行を引き起こそうとする邪悪な陰陽師の一族、赫喰家との戦いに巻き込まれることになったことでリクの日常は一変。 彼らの野望が達成されれば、妖怪や悪霊の大群が日本中に溢れかえり、下手をすれば世界の危機となる。 それを止めようとするものと、協力する者達の争いより鷹宮県は混沌を極めて行く。妖怪、霊能者、神々、果ては西洋の魔術師までをも巻き込む、壮大な霊能戦争の舞台として――

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:42分

    この作品を読む

  • 龍を討つもの、龍となるもの

    愛してはならない者同士の恋愛劇

    38,100

    190


    2022年5月28日更新

    敵である龍を討つために西の果てから龍が支配する世界にやってきたものの、 龍を護衛する役目を就いてしまった男がいずれ龍となるものである女と出会ってしまう。 今はまだ出会ってはならないもの同士が出会ってしまい、気づいてはならないものに気付いてしまい、 そして抱いてはならない感情を抱き合う。 ふたつの龍を巡る闘争の世界において交錯する宿命の物語。

    読了目安時間:3時間12分

    この作品を読む