下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興

読了目安時間:4分

エピソード:70 / 132

事前策

 下総国 古河の陣 小山犬王丸 「ふははははは、今頃父上たちは慌てふためいているであろうよ。なぜなら兵糧が土くれに入れ替わっているのだからな。これも犬王丸の献策のおかげよ」  晴氏が会心の笑みを浮かべる。 「いえこれは加藤一族と晴氏様の協力がなければここまで効果は出なかったでしょう。私は古河の兵糧を相場の倍で買い占めるということを提案したに過ぎません。もし晴氏様が城内に味方を残してくれなければもっと手間取っていたはずです」  俺が提案したのはかの豊臣秀吉が鳥取城攻めの際におこなったという兵糧の買い占めだった。俺は秀吉同様城下のあらゆる場所で米を買い集めて城内の備蓄を少なくさせようとした。これが成功した要因は城内を自在に侵入できる加藤一族の実力とこちらに内通している人間を複数古河城に残していた晴氏の判断が大きかった。加藤一族と内通している者たちが結託して内密に兵糧を売り払い、代わりに土の入った米俵を運び込んで入れ替えた。ちなみに買い取った兵糧はこちらのものになったので刈田狼藉はせずに済んだ。 「儂も古河城を出る際に兵糧を少し拝借してやろうと思っていたがさすがにばれると家臣に止められたわ。だが犬王丸のおかげで儂がしたかったことができたわ」 「晴氏様は私の策に思うところはなかったのですか?金に物をいわせるような真似になってしまいましたが……」 「別に何も思っておらんぞ。まあ、中には金で釣るなんて賤しい策だと思う者もいるだろうが、そもそも内通も似たようなものであるし、有効であれば使えるものは使うのが儂の考えだ。それに金は賤しいものと思ったことは一度もないぞ」 「ありがたきお言葉、感謝いたします」 「そういえば兵糧を買い占める際に我ら以外の人間も積極的に兵糧を売り飛ばしていたと聞いたな。戦があるというのに軽率な真似をするものだ」 「大金は人を惑わせますから。特に目先にしか目が向かない人間ほど目の前に大金を積まれれば積極的に売りましょう」 「なるほど、その心理状態を利用した策だったか。お主も若いのに侮れんことをするものよ」  晴氏は愉快そうこちらを見る。俺はそれに気づかないふりをしながら段蔵から受け取った情報を晴氏に伝える。 「ですがおかげでこちらの想定を超える量の兵糧を得ることができました。おそらくではありますが、古河城の兵糧はひと月分残っているかどうかでしょう」  そしてその予想は的中していた。このときはまだ知らなかったが、兵糧が枯渇したことを知った高基は愕然とする。さらに兵糧を担当していた者が裏切り姿を消したことにも大きな衝撃を受けた高基はふらふらとしながら後は他の者に任せると言い残し部屋に籠ってしまっていた。  一方古河の陣では古河城攻略にあたって軍議を開いていた。この軍議にはかつての関宿城攻防戦を彷彿とさせる豪華な面々が顔を揃えていた。  総大将に足利晴氏、その横に俺こと小山犬王丸、小山右馬助、宇都宮勢から芳賀高経、結城からは将来の義父にあたる政朝と義兄にあたる政直・政勝兄弟、簗田からは当主高助らがずらりと並んでいた。  北関東でも実力者ばかりの陣容に俺も柄になく緊張していた。すでに事前策で功を挙げていたことは皆に知られている。政朝らは流石というような表情を、高経は奇妙な表情をこちらに向けている。高助に関しては表情が読めない。  そんな空気を知ってか知らずか晴氏が話を切り出した。 「ではこれから古河城攻略について話し合いたいと思うが、まず儂からの案として他勢力に介入される前に迅速に城を落としたいと思っている」  晴氏の提案にまず宇都宮勢の大将を任されている高経が戦国時代に似つかぬ巨体を揺らして同調する。 「晴氏様のおっしゃるとおり早めに城をどうにかしたいのは同じ考えでございます。収穫期を控えているのであまり長い在陣は各々方も難しいでしょう」  高経のいうとおり諸大名たちはしばらくしたら収穫という農繁期に入るので長期間陣を構えることは難しい。それでも食糧的には数ヶ月は在陣可能だったが積極的に兵糧攻めを主張してこなかった。そうなると晴氏のいうとおり早期に城を攻めるほかないが、古河城は前を太日川という天然の水堀に守られた堅城で周囲も太日川の水を引いているため攻め口は限られてしまう。正攻法では落としづらい城だ。皆が口を開かない中、段蔵からの情報を得た俺は周囲の様子を見計らい、口を開けた。 「たしかに古河城は堅城。しかし事前の策で敵の士気が低くなっている模様で兵糧もひと月分を切っているようです。そこで提案なのですが、城に内応を呼び掛けて内部から切り崩すのはいかがでしょう。晴氏様、古河城にはまだ晴氏様の息がかかっている者は残っていらっしゃいますか」  すると晴氏は意を理解したという風に得意げに笑みを浮かべて、軍配に手を伸ばした。 「もちろんだ。兵糧担当は城から逃げたらしいがまだまだ人は残っておるぞ。父上も高実も味方を見誤っているらしい。誰が敵で誰が味方なのか判断できていないようだ。もしかしたら犬王丸の忍の者の実力なら簡単に内から城門を開かせることは可能かもしれぬな」

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