深夜の公園には悩みが集まる

ネット自警団のリーダー・黒須の場合

 ″漆黒の守護者″と名乗りネット上で活動している黒須(くろす)は、「正義の剣」というネット自警団のリーダーを務めていた。 ネット自警団というのは、YouTuberや芸能人がネットで炎上した時に、その悪事を徹底的に叩く集団のことである。 その結果イベントを中止に追い込んだり、活動を辞めさせたり、そういうことを目的としている。 初めは一人で行っていたが、だんだんと賛同者が増え、今や五十人ほどの規模になっていた。 だが人が増えれば、一人で統率できなくなる。 学校の集会で、校長の話を誰も聴いていないのと同じように。  深夜の公園で、俺はブランコに腰掛けた。 冷たい風が、全身を駆け抜ける。 「俺、何してんだろうな」 最初はただただ気持ちよかった。 他人の非行を匿名で好き勝手に叩いて、それに共感して一緒に叩くネット上の人間たち。 それにより困っている有名人の態度。 最高のストレス発散になった。 自分は間違ってない。 そうやって正義という盾を振り翳していた。 けど、最近気づいた。 これがただの自己満足であるということに。 俺たちは裁判官じゃない。 ただ、一日中ネットに蔓延るクソ野郎だ。 炎上した人間がどれだけ悪いことをしていたとしても裁く権利はない。 俺たちの行為には、なんの意味もないんだ。 叩かれるのは炎上した側のせいだ、と思っていたけど、それはいじめっ子の考えと同じ。 自分を正当化するための言い訳だ。 だけどそれが分かった時には既に、自警団はもう歯止めが効かない状態にあった。 俺の考えの変化などつゆ知らず、好き勝手に誰かを傷つける。 誹謗中傷のようなことも平気で行い、悦に浸る。 最近、誹謗中傷によって自殺した芸能人がいた。 だけどそれでも、自警団のメンバーたちは理解しようとしない。 自分たちがしている行為が、人を殺める可能性があるということを。 「せめて俺たちの集団だけでも止めないと。これは俺の責任だ。俺の自己満足が、あいつらを間違った方向に導いてしまった」 そのとき、見知った顔が目の前に現れた。 「よう」 そいつは俺の親友、白川(しろかわ)だった。 「お前、こんな時間に何してんだよ」 「それはこっちのセリフだ。風邪ひくぞお前」 白川は、俺の隣の空いているブランコに腰掛ける。 「俺は……。ちょっと、考え事してて」 「正義の剣だっけ?それだろ」 見事に言い当てられたことに俺は驚いた。 俺は自警団のことを、白川に話したことはない。 「お前、なんでそれ知って」 「たまたまお前のスマホの画面が見えた時に、アカウントが映ってたんだ。最近、お前の手に負えないぐらい暴走してるよな」 「ああ、そういうことか」 「しっかしお前もよくやるよな。俺はさ、誹謗中傷とかしてる奴の気持ちが分からん。よほど人生上手くいってない人間なのかね」 「正義の剣には、そういう奴が多いかもな」 実際、人を叩くようになる原因には色々ある。 だが少なくとも、自分の人生が上手くいってて毎日楽しく生きてる人間は、見ず知らずの他人のことを気にしたりしないだろう、と俺は思う。 自分の人生に納得いっていないから、そのストレスを発散するために他人へ暴言を吐く。 俺もそうだ。 「お前、あいつらを止めたいんだろ?だったら協力してやるよ」 「本当か?」 「最近、悲しいニュースが多いからな。嫌でも目に入ってくるんだ、正義の剣の情報が。あいつらはもう、それぞれが好き勝手暴れ回ってるだけだ。お前の作ったチームは崩壊しちまった」 「そうだな。だから終わらせなきゃならない」 「やろうぜ。俺たちで」  冷たかったブランコは、いつの間にか二人の熱で暖かくなっていた。 まるで、二人の想いと同じように。

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