「成人式、中止になったんだって」
「え、マジで」
ニュースの内容を伝えてきた母親の言葉に、僕は驚いた。
成人式が中止になることなんてあまりない。
だけど同時に納得もしていた。
「今、ウイルスが流行ってるでしょ?その影響」
「大勢の人間が一箇所に集まれない世の中だもんね」
僕は成人式に行くつもりだった。
仲の良い友達はいないけど、あの日あのとき関わっていたみんながどんな大人になったのか、純粋に興味があったから。
それにもしかしたら、自分が昔好きだった人間と再会できるかもしれないし。
というかまあ、こっちが本音なんだけど。
だけど今年は、世界中に蔓延したウイルスのせいで中止になってしまったらしい。
正直ショックだった。
なんていうか、これから起こりうる未来の可能性が消されたような気がして。
「はあ……」
十二月の深夜。
寒さに絶えながら僕はひとり、公園のベンチに座っていた。
なんだか胸がモヤモヤしていて落ち着かない。
成人式がなくなったことがそんなにショックだったのだろうか。
「あの……間違ってたら悪いんだけど。もしかして、新田くん?」
そんなことを考えていると、いつの間にか隣に座っていた女性が声をかけてきた。
「そうだけど、君は……?」
「覚えてないかな?滝本陽菜だよ。ほら、同じ委員会入ってた」
「えっ、マジで?ちょ、それは」
「?なに慌ててるの?」
彼女は、僕が中学生のときに好きだった人間だ。
会話する勇気も、仲良くなる勇気もなかった僕は、ただ遠巻きに彼女を見ながらニヤニヤしているだけの人間だった。
今考えると、気持ち悪いな。
「ごめん、なんでもないよ。外で毎朝、挨拶してたよね。校門の前に立って」
「そうそう!懐かしいねえ、冬は寒かったなあ」
「そうだね」
「あとさー、風が強い日に私のスカートが捲れた時。新田くん、全力で目を逸らしてたよね」
「いや、それは、その。なんかごめん。気づいてたんだ……」
「当たり前だよ。女子はそういうの敏感だから」
そう言って彼女は笑った。
数年ぶりに見る笑顔は、深夜でもやっぱり眩しかった。
「そもそもなんで滝本さん、こんな深夜にここに来たの?なんか今、普通に話してるけど」
僕は純粋に不思議だった。
彼女はいつもキラキラしていた。
こんな深夜に公園に来る理由が分からない。
「成人式さ。中止になったじゃん?私、行く予定だったんだよね。振袖も用意してた」
「僕も行こうと思ってたよ」
「そうなんだ。じゃあ私と同じだね」
彼女はまた笑った。
笑顔が似合うとつくづく思う。
「だから、なくなったのがショックでさ。なんかやる気もなくなっちゃって、気づいたらここに来てた」
「なんだ。じゃあ、僕と同じだ」
「え、ほんと?」
「うん」
「だけどよかった。新田くんに会えて。成人式に行く理由の中に、新田くんのこともあったからさ」
「僕に?」
「実は私、中学のとき、新田くんのことが好きだったんだよ?全然気づいてなかったでしょ。しかも、そのことをずっと引きずってきた」
マジかよ。
僕と滝本さんは両想いだったってことか。
「だから会いたかった。会って、また話がしたかった。今度は委員としてじゃなく、友達として」
「滝本さん……」
「まあでも、新田くんは私のこと別に」
「好きだよ」
「……え?」
「僕も滝本さんのことが好きなんだ。中学の頃から今までずっと、そう思ってる」
「はあー。ぜんっぜん気づかなかったよ。そっか、私たち両想いだったんだね。もっと歩み寄ってればよかったなあ」
「付き合おうよ、僕たち。これからの未来を二人で創っていこう」
「もう。いきなり何言ってんの?まったく、会わないうちにカッコよくなったね」
雪が降っていた。
まるで二人の再会を祝うように、頭や肩に降り掛かる。
「クリスマスだね」
「最高のクリスマスになったよ。ありがとう、新田くん」
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