深夜の公園には悩みが集まる

駆け出しYoutuber・荒川の場合

 社会人として働く傍ら、趣味のひとつとして動画投稿をしている荒川は、ゲーム実況者として活動していた。 始めた理由は単純で、もともとゲーム実況の動画を見ることが好きだったからだ。 チャンネル登録者は、活動を始めてからしばらくは誰もいなかった。 知名度のない人間の作った動画を見てもらうことは、想像以上に難しい。 それに僕は、最初こそゲーム実況をしていたものの、途中で飽きてしまい自分の声の入っていない動画も投稿し始めた。 なんでもそうだけど、自分はこれをやるんだ、という大きな軸が無ければ上手くはいかないものだ。 チャンネル登録者がいなくて、視聴者からの評価もコメントもない。 そんな状況になると、自分が動画を投稿する意味がどこにあるのか分からなくなってしまう。 動画を含めたクリエイターの中にはこういう感じで誰にも気付かれず、見てもらえないまま消えていく人たちもいるんだろうな、とその時悟った。  そんな僕に、転機が訪れる。 今までの僕ならハマるはずもなかった、アイドルを好きになったのだ。 有名なプロデューサーがプロデュースしているグループで、アニメ化やアプリ化までするという展開の早さ。 僕はそのうち、アプリでガチャを引く実況や、そのグループについての動画ばかり出すようになった。 それが僕の、軸となった。 チャンネル登録者は日を追うごとに増えていき、気づけば五十人。 自分の拙い動画が、少なくとも五十人に見られている。 そう考えると、始めた頃よりもやる気が増した。 何かを創るっていうのは、それを見てくれる相手がいて初めて成り立つものなんだ。 評価やコメントも付くようになったし、僕の承認欲求は満たされていった。 だけど、何故だろう。 最近、めんどくさくなってきた。 動画を作るという行為自体を、あまりしなくなってる。 「僕はもっと、色々なことを発信したいのに」    気がつくと僕は、公園にいた。 深夜、悩みながら適当に散歩していて、足を止めたらこの場所に来ていた。 「公園かあ、なんか昔を思い出すな」 最近はスマホばかり触っている僕だけど、学生の頃はそれなりに外に出て遊んでいた。 友達もいたし、時間もあった。 馬鹿みたいなこともたくさんやった。 それが今じゃ、真逆だ。 友達はいなくなり、時間がない毎日を送っている。 生活が困難になることを恐れて、やりたいことをする勇気が、あと一歩踏み出せない。 「つまらない人間だよ、ほんとに」 思わずため息をつく。 「そんなことないよ」 「なっ、お前は」 気がつくとそこには、僕が過去に親友と呼んでいた人間が立っていた。 「萩原……」 「残念だけど、俺は萩原本人じゃないよ。お前が心のどこかで縁を切ったことを後悔している人間の、姿形をしているだけだ」 本人じゃないのか。 まあそうだよな、あいつが今さら僕の前に現れるはずがない。 「後悔なんて、してるわけない」 僕はこいつに金を盗まれたんだ。 結局、友達じゃなくカモだった。 いいように使われてただけだったんだよ。 「ま、それはいい。それよりお前、動画投稿とかしてるみたいじゃねえか。どうだ、頑張ってるか?」 「うるせえよ。お前には関係ない」 別人だと分かっていても、つい言い方がキツくなる。 「なあ荒川。お前は多分、満足しちまってるんだ。これ以上、自分のチャンネルを大きくしたいという気持ちがない。もともと打ち込めるものがないお前には、向上心がないってわけだ」 「満足?」 「そうだ。確かにお前は動画を見るのが好きだったかもしれない。だけどな、見るのと創るのじゃ全然違うだろ?その大変さを知って、自分の限界を決めて、現状に満足してる。本当は、人生を変えたいとまで思っていたはずなのに」 確かに僕は、動画投稿をするまで、創る大変さが分からなかった。 だけど、たった数分の動画を作るのですら一時間以上はかかる。 手間がかかる割に、成果が見えづらい。 今はもう、あんなに好きだったゲーム実況の動画も見なくなっていた。 「やりたい時にやりゃいいんだよ。自分でやりたくて始めて好きでやってることに、やらされてるっていう義務感が付き纏ってしまったらそれは、本当に好きなものとは言えなくなる。確かに、動画を出さなきゃ視聴者は減っていくかもしれない。けどな、だからって無理にやる気を出す必要はないんだ」 そして最後に、こう締めくくった。 「好きだと思えることは、全力で楽しめ。死ぬまでずっと好きな気持ちを貫けるぐらい好きになれたら、それはきっとお前の人生にとって必要なものだ」

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  • 女子高生

    Ruming

    ♡500pt 2020年12月1日 21時41分

    とても励まされる内容ですね(*^ω^*)言葉の一つ一つに深く共感できました(特にビビっとを押した箇所)。自分の「これが好きだ!」という気持ちに正直に作ったものは、やがて生きる力になってくれる…と私も信じたいと思っています。

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    Ruming

    2020年12月1日 21時41分

    女子高生
  • 化学部部長

    アラン

    2020年12月2日 1時52分

    読んでいただきありがとうございます! 好きなものを好きでい続けて、なおかつやり続けるのは大変だと思います。 僕も好きなことを貫いて生きていけるように頑張りたいです。

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    アラン

    2020年12月2日 1時52分

    化学部部長
  • 女子高生

    Ruming

    ビビッと ♡500pt 2020年12月1日 21時35分

    《手間がかかる割に、成果が見えづらい。》にビビッとしました!

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    Ruming

    2020年12月1日 21時35分

    女子高生
  • ステラ

    桜 透空

    ビビッと ♡300pt 2020年12月26日 9時46分

    《「やりたい時にやりゃいいんだよ。自分でやりたくて始めて好きでやってることに、やらされてるっていう義務感が付き纏ってしまったらそれは、本当に好きなものとは言えなくなる。確かに、動画を出さなきゃ視聴者は減…》にビビッとしました!

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    桜 透空

    2020年12月26日 9時46分

    ステラ
  • 化学部部長

    アラン

    2020年12月26日 12時45分

    桜さん、ビビッとありがとうございます! 改めてそこの文を読んだら、自分に刺さりまくりました笑 僕も好きな部分です!

    ※ 注意!この返信には
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    アラン

    2020年12月26日 12時45分

    化学部部長

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