放恣クトゥルフ神話短編集

読了目安時間:9分

エピソード:42 / 99

理由

 え? 肉食べない理由? 別にないって言うか……ベジタリアン? 違う違う。そんな主義主張とかじゃないんだって。食わず嫌いとかでもなくってさ。ガキのころは食べてたから。なんとなくっていうか……。  こう、さ。肉ってさ、死んでるじゃん? それって気持ち悪くないか? 俺それがなんかすごいダメでさ。食べらんないんだよな。  うーん、切っ掛けって言われても、別に俺としてはないっていうか。母親はさ、「思い出さなくていい」とか言うんだよね。それって気色悪いじゃん?  でも、なんも覚えてないんだわ。強いて言えば……。  いやいいって。たいしたことじゃないし。話すようなことじゃないって……それでもいいってんなら、喋るけどさぁ。オチとかないからな?  従兄弟がさ、いたんだよ。父方の従兄弟。もうすっごいヤなやつでさぁ。めちゃくちゃ嫌いだったんだよね。何かされたとか、うん、ないわけじゃないけど、それ以前の問題?  目つきが嫌い。人を見下すような目ぇしてさ。だったら自分はどんだけお偉いんですかー?みたいな。大学落ちてさ、スポーツインストラクターんなるって言ってさ、それも途中でやめてさぁ。で専門学校通うって、でもやめてまた別んとこ。全部親の金だぜ。少しは努力しろよって思うじゃん。  そんな男に馬鹿にされる謂れはないってやつ? でもさ、別に俺だけじゃなくてさ、世の中全部馬鹿、みたいに感じてたのかも。そういうやつだった。好きになれるわけないだろ? なのにさぁ親戚じゃん? どうにもならないって感じ。  そんでそいつがさ、専門学校通うのにちょうどいいからってうちに下宿してたんだよ。  俺、帰りたくなかったもん、そのころ。あいつが家にいるって思うだけで家ん中が臭いような気がしてさ。臭い? いま思えばどうだったんだろう……俺なんで臭いとか思ってたんだろうな。妙に腐ったような臭いとか、思ってたんだよね。  そんだけ無茶苦茶やってりゃ当然だけど、あいつ実家とはうまくいってなかったんだわ。なんでか金だけは出してくれてたみたいだけどさ。父親とは血が繋がってなかったらしいしね。  うん? そうそう、母親の方が俺の親父の妹。父親はあいつが近づくだけで嫌がるとか聞いたな。母親は変に怯えてたみたい。愚痴ってる電話とか親父に来てたよ。  父親違いの妹とはうまくいってたみたい。あいつの味方はその妹くらいじゃない? 実の父親は誰かわかんないとか聞いたかなぁ。妹の父親?  うん、それが、さ……。その、叔父さんじゃ、なかったらしいんだわ。不倫の子供ってそんな堂々と育てるか? わかんないよなぁ。  複雑な家庭だから歪んだ? ないって。あいつははじめからそういうやつだったってだけだと思う。  そんなやつがうちにいるんだもん。帰りたくなんかないって。でもさ、うちの母親からすればさ、旦那の家のことじゃん? 点数稼ぐのもあるしさ。キャンプしようとかなったんだよ。たぶん夏だよな。うん、そうそう、夏だった。暑くて嫌だったんだ。思い出したなぁ。  うちの近所にさ、川があったんだよね。けっこう広くて川辺とかも広々しててさぁ。あの辺の連中はそこでバーベキューとかやってたよ、普通に。  で、母親が行こうって言い出した。俺たち家族三人とさ、あいつとでさ。あと誰がいたっけなぁ。よく覚えてないわ。なんか大勢でわいわいやったような?  当然さ、俺は行きたくないって言ったんだけどね。何が悲しゅうて気味悪い従兄弟とバーベキューなんかしなきゃならないんだよ、なぁ? まぁ、母親に説得されてさ、仕方なく。小学生くらいだよ、たぶん。嫌々でも行ったんだし。  そんな年齢だしね。行けば楽しかったよ。休みの日だしさ、知ってるやつとかいたし。何よりバーベキューうまかったしね。そのときはまだ俺、肉食えたんだよ。普通に食ってたわ。  腹一杯になってさ、その辺に学校の友達とかいたし、そいつらと遊びたいなぁと思ってたんだけど。  あいつがさ、遊びに行こうって言い出したんだよ。そうそう、思い出したわ。うん、すごいイヤで忘れてた。うちの両親としてはさ、色々あるじゃん? 従兄弟同士仲良くしてよ、くらいには思ってたと思う。  で、しょうがないし、従兄弟について行ったんだよ。もう未練たらたらだよね。友達いるんだもん、そこに。でもちょっと興味はあったな。  何かって? あいつさ、この辺はよく遊びにくるんだって言ったんだ。学校どうしてんだよって言ったら薄ら笑いしてた、と思う。うっわ、思い出したじゃん、気持ち悪!  あぁ、うん、ありがと。大丈夫。もう一杯水ちょうだい、うん。でさ、あいつが言うにはさ、洞窟があるって。小学男子には心惹かれる響きだろ? すごい気になるじゃん。明日は学校で自慢して友達と探検に行こう、とか思うじゃん?  それ考えてなかったら、俺、行かなかったと思う……。うん、思い出してもさ、気持ち悪い……。なんだろうな、これ。あいつの表情がさ。にやにやでもないんだよな、馬鹿を見下してるってんでもそのときはなかった、気がする。じゃあ何って? それがわかれば気持ち悪くないって。  たぶんさ、そのせいなんだよ。あいつがさ、洞窟が見えた辺りかなぁ。怖いかって言うんだよね。唇歪めてさ。それがすっげえムカついて。そんなわけねぇじゃんって言い返して。  あいつはそうかって言ってさ、洞窟に入って行ったんだ。俺? そりゃついて行ったよ。前にあいつがいるんだもん。振り返ってさ、俺を馬鹿にしてるんだもん。「子供には早いか?」とか言われたらついて行くだろ?  まぁ……正直、怖かった。あいつがいるのが気持ち悪かったのもあるっていうか、それがたぶん一番なんだけど。  でもさ、洞窟ってこんな風なんだなって。うん? どんなって……うーん。音、かな。変に反響してさ、聞き取りにくいんだ。あれ、なんの音だったんだ……。いまになるとすごい不思議っていうか……あんな音、どこからしたんだろう……。  かつんかつんって音。うん、乾いた音、かな。小石とかじゃない。小枝の方が近い、かな。でも違うと思う。かりっていうかがりっていうか。そんな音も混じってた。なんて言うんだろう……噛み砕く、みたいな。  あと、臭い。そう、臭い。洞窟に腐ったもんとか、あるわけないのにな。あったら怖いって、そっちの方が。  でも、なんか臭かった。え? あぁ……そう、かも。うちで嗅いだ臭いと、近いかも? もっとなんていうんだろう、黴臭い、かな。腐った動物の死体に黴生えたみたいな感じかも。知らねぇよ、そんなの。知ってたら怖いだろー? 想像だよ想像。  ん……でも、正しかった、の、かも? わかんない。そう、うん、なんだ、えぇっと……。  たぶん、気配、かな。そうだ、気配。洞窟の奥からさ、なんかいるって感じがして。  あいつに聞くのとか、嫌じゃん。だから奥の方見てさ。そんな俺をあいつは……笑ってた、ような、気がする、かも。わかんないな……。  だってさ、怖かったんだ。俺、思い出したわ。すごい……怖かった。なんだったんだろう、あれ。なんかいた。絶対いた。でも、覚えてない。見た気もするけど……。  奥の方でうずくまってたナニか、は見た、ような気がする。それが何かは全然思い出せない。思い出したくない、かな。  それがさ、かりかり音させてた。そうだ、うん。そいつだったわ。少なくとも、生き物だったよ。  あれなんだったんだろうな。白いもん持って、齧ってるような。え? やめろよ、骨とか気持ち悪いだろ!  うん、まぁ。それからあんま覚えてないっていうか思い出せないっていうか。それが立ち上がったような……わかんないや、ごめん。  あいつはその間ずっと俺の近くにはいた、と思うよ? それもよくわかんないけど。そうそう、悲鳴が聞こえたんだよね。俺が思い出せるのは、そこまでかなぁ。  そのあと? 入院してたわ。そんときもすごい不思議だったんだけど。気がついたら病院って感じ。母親も怪我しててさ。聞いたらあいつが俺が洞窟の裂け目に嵌っちまったとか言って助けを求めたとかさ。  あり得ねぇって。俺がヘマしたのはあったかもだけど。あいつが俺を助けろとか絶対ないもん。だいたい母親の怪我なんだったんだろうな。  入院中に食べられなくなったんだ。え? だから肉。病院食で出るじゃん? もうダメ。食えない。ひどいときは見ただけで吐いた。  肉って死んでるじゃん。腐ってなくても、そのうち腐るじゃん――。  そんときはそんな風に思ったわけじゃないよ? ほとんど反射。肉見る吐くって感じだもん。俺だってわけわかんなくてさ、なのに母親は「思い出さなくていい」とか言ってさ。  その台詞の方がよっぽど怖いっつの。俺なにがあったんだよ、なぁ?  まぁさ、別に肉食えなくても平気だし? 困んないじゃん。焼き肉行こうぜとか言われるのだけかな、困るの。  あいつ? それからどうしたかって? ――どうしたんだろう。え? なんだこれ。全然、気にしてなかった。  だってさ、嫌なやつっていっても従兄弟だし。両親まだ生きてるし。話題? うん、上がらなかった……誰もあいつのこと言わないな、そういえば。  あいつの妹のことも、聞かないかも。俺だって話してて思い出したくらいだし。変だよな。なんでだろ。うちに下宿するくらいだから、たぶん親戚の仲はよかったはずなのにな。法事とかでも、見ないし話題にもならないし。  あと覚えてること? だからないって。切っ掛けっていえばそれくらいかなぁって話だよ、いまのだって。なんで肉食えないって、洞窟関係ないって。  関係、ないよな? でも、うん。どう、なんだろ。あの日、母親はなに見たんだろな。俺に思い出すなって、どういう意味だったんだろ。  って! よせよ、もう。びっくりするだろ。いきなり電気消すなよ、もう……。あ。  え、いや。うん、なんでも……、うん、だから、さ。まぁ、なんていうか……暗いので、思い出した。明かりつけて。暗いのイヤだわ。  あのときの洞窟の奥。なんかいたっぽかったやつ。化け物って感じだったような、気がする。なんだろ、あれ。  変なでかい犬、かな。違うけど。そんなんじゃないけど。かがんでさ、膝立ててさ。手に白くて長いの持ってさ。骨でもいいよ、もう。って、そう、かも。マジでそうかも。骨、かな。骨かも。肉、ついてたかも。腐った肉。それ持った手はさ、人間じゃないんだよ。化け物だから当然? かもな。鉤爪っぽいの、見た。気が、する。赤く光る目とか、牙とか。  そんなはずないわ。そんな近くまで行ってないわ。違う、違うって。――なのに、なんだ、これ。なんか、口ん中に突っ込まれたような……、それで、吐いたかも。それでも突っ込まれて。何度も何度も。  え……なんだよ、それ。やっと思い出したのかって、どういう意味だよ!?

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