青の方向

「動かないで」  水槽から飛び出してきたかのような、淡青色の髪の女の子が、名波の前に現れた。  名波が誰もいないと思っていた、あのアクリルガラス箱の影に、実は一人。  少女らしさを残した痩せっぽち、星を浮かべたような親し気な眼差しで、 「あとちょっとで終わるから」 と小さなスケッチブックに、色鉛筆を握りしめている。  28歳のいい歳した男が一人水族館で歌を口遊む。――彼女の目に映る自分を想像して顔が一瞬で熱くなる。  逃げ出そうとする名波の袖を捉えると、 「表情が気に入ったの」と彼女は笑って言った。  彼女が描いたのは、水槽を泳ぐ魚、その向こう側、水疱や珊瑚の影にぼんやり浮かぶ名波の姿、まるで亡霊だ。  表情どころか顔なんて見えやしない。 「そのネクタイがね、あたし、群れに残されたお魚かと思ったのよ」  彼女は少し前のめりに、畳みかけるように名波に話しかけてきた。 「そうしたら、ずっと動かないじゃない。漂っているから眠っているのかと思ったら、人間だったのよ」   人間というのは、余所余所しい言い方に聞こえたが、名波のことのようだった。

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