俺がゲイだってことは絶対に秘密にしておいて

読了目安時間:5分

エピソード:10 / 51

俺の気持ちを勝手に決めないで

「広輝さんと何かあったの?」  普段は運転席に乗っている愛車の助手席に押し込まれ、ぼんやりと窓の外を眺めていたが。ふいに話しかけられ、ハンドルを握っている圭の横顔を見る。 「何かって?」 「さっきキスでもしそうな雰囲気だったから」 「まさか。そんなんじゃないよ」  軽くため息をつくと、赤信号で引っかかった圭がじっとこちらを見ていた。 「気持ちを伝えないの?」 「伝えたところで困らせるだけだろ」 「そう?」 「そうだよ。本当にあいつのことが好きなら、諦めることが正解なんだよ」 「そう、なのかな。俺はそうは思わないけど」  ぽつりとそんなことを呟いた圭に何か言い返そうと思ったけど、ちょうど信号が変わったことで圭は視線を前に戻し、アクセルを踏む。 「好きな人が出来ても諦めて、一生恋人も作らず、誰とも結婚しないで生きていくの?」 「恋人はともかく、結婚は無理だろうな」  しばらくの間運転に集中していたと思ったら、前を見ながらも話しかけてきた圭に言葉を返す。 「何で?」 「何でって、分かるだろ。俺は同性しか好きになれないんだ」 「外国に行けば同性同士でも結婚出来るし、日本でもパートナーシップ制度があるよ」 「そうだけど、そういうことじゃない。芸能人なのに、俺の一存で簡単に決められることじゃないだろ」 「芸能人でも同性と結婚してる人だっているじゃん」 「それは海外の話だろ? 日本でもまぁいるけど……。俺たちみたいに異性の人気で持ってる人間だと、カミングアウトするのは難しいんじゃないか」  パートナーシップがどうの、同性と結婚してる芸能人もいるだのと言ってくる圭にまたため息をつく。一応お前も同じグループのメンバーなんだから、そんなに単純な問題じゃないって分かるだろうが。 「結婚したとしても、子どもだって出来ない」 「男女の夫婦だって子どもがいない人たちもいるし、どうしてもほしいなら養子っていう選択肢もあるよ」 「さっきから何なんだよ。そういうことじゃないって分かるよな? 一般人ならたくさんの選択肢があるのかもしれないけど、芸能人の俺にそんな選択肢なんてないんだよ」 「選べる選択肢は少ないかもしれないし、結婚することだけが全てじゃないけどさ。広輝さんに気持ちを伝えても困らせるだけとか、結婚は無理だとか、最初から全部諦めて生きてて楽しい?」 「……っ、楽しいわけないだろ。お前に何が分かるんだよ! 同性を好きになったことも、メンバーを好きになったこともないくせに。分かったようなことばっかり言うなよ」  そんなに怒ることじゃなかったかもしれないが、どうしようもなく腹が立った。  喉は痛いし、頭は熱で上手く回らない。おまけに隣に座っている年下のメンバーは、同性愛者の俺の気持ちなんて分かるわけもないのにさっきから分かるようなことばかり言ってくる。  色々なことが重なったせいかカッときてしまい、つい声を荒げてしまった。  滅多に声を荒げない俺がそうしたことに驚いたのか、チラリとこちらを見てきた圭と目が合う。 「分かるよ」 「は?」 「俺は同性愛者じゃないけど、拓海さんが好きだから。少しは分かるつもりだよ」 「いや、俺もお前のことは好きだけど。俺が言ってるのは、そういう家族愛みたいな気持ちじゃなくて」 「あ〜……! 分かんない人だな、ほんと。 拓海さんは、性的な対象として男の人を見てるってことだよね? 俺の拓海さんに対する気持ちもそうだよ」  同性愛者じゃないけど、俺のことが好き?  性的な対象として見てる?  ハンドルを握りながらも、たまに真剣な目でこちらを見てくる圭の話に理解が追いついていかない。 「でもお前は女が好きなんだよな? 男もイケるの?」 「どうだろ、自分でも気がついてなかっただけで男の人もイケるのかな。拓海さん以外の男の人にときめいたことないから分からないけど」 「なんだよ、それ。ドラマじゃないんだから、そんなことあるわけない」  基本異性愛者だけど、俺限定で男もイケるなんてありえるか? そんなの、ファンタジーの中だけの話だろ。 「そう言われても。好きになっちゃったんだから仕方ないじゃん」 「勘違いじゃないのか? 今はたまたま彼女がいないから、錯覚してるだけだよ」 「俺の気持ちを勝手に決めるなよ」 「え?」  今までは淡々と話していた圭のトーンが変わったことを不思議に思い、そちらに目をやる。こちらを見た圭の顔は、少し怒っているようにも見えた。 「拓海さんさ、自分がどれだけ魅力的かって分かってる? 普段爆イケでほとんど表情変わんないのに、たまに笑うとクソ可愛いし。かっこいいだけじゃなくて、綺麗だしセクシーだし流し目が超エロいし。それで俺の扱い基本雑だしそっけないけど俺を見る目はいつも優しいし、本当に落ち込んでる時はちゃんとフォローしてくれるとか何なの? そんなんさ、男だとか女だとか関係なく好きになるだろ。好きになるなっていう方が無理」  拗ねたような顔でこちらを見ながらも、いきなりまくし立ててきた圭にただただ呆気にとられる。こいつは何を言ってるんだ?としばらく呆然としてしまったけど、ふいに外を見ると、ミラーの目前に前の車が迫っていた。 「お……、いっ、圭!前!前見ろ、前!ぶつかる!」  大きな声を出して訴えると、ようやく前を見た圭が急いでブレーキを踏む。間一髪で衝突は避けられたけど、大声を出したことで不調だった喉は余計痛くなったし、まだ心臓がバクバクいっている。 「危なかったね」 「危なかったね、じゃないだろ! 下手したら死んでたからな。お前が俺に運転させられないって言うから送ってもらうことにしたのに、お前の運転の方がよっぽど危ない」  こっちは死ぬかと思ったっていうのに。ケロッとしている圭にムカついて言い返したけど、圭は一瞬ポカンとした後でおかしそうに吹き出した。 「ごめんごめん。でもさ、……くくっ。はは……っ、拓海さんのそんなに慌てた顔初めて見た」 「もういいから、お前は前だけ見て運転に集中して」  爆笑し始めた圭に呆れて息をついたけど、圭はまだニコニコしている。 「了解。さっきの話の続きは、また家に着いてからってことで」  まだ続きがあるのかよ……。  正直うんざりしてしまったけど、ここで言い争ってまたぶつかりそうになっても困るので、この場では口をつぐんでおくことにした。

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