俺がゲイだってことは絶対に秘密にしておいて

読了目安時間:4分

エピソード:12 / 51

俺を困らせる男たち

 メンバー会議を抜け出した日から三日が過ぎたが、今日はあの日以来にno limit全員が集まる日だった。  まだ喉には多少違和感が残るが、幸いにも熱はすぐ下がった。マネージャーの藤井さんには怒られるというよりも心配されてしまったが、とりあえず会議は二日後に改めて実施するということになっている。  身体の調子もだいぶ良くなって昨日は個人での仕事を普通にこなしていたが、あいつらと顔を合わせると思うと、今日は正直気が重かった。    泰志と康太———は問題ないとしても、問題は広輝と圭だ。広輝は広輝で顔を合わせづらいけど、それ以上に圭の方が気まずい。  何といっても、今まで弟のように思っていたメンバーとキスをしてしまったんだ。しかも、あれはただ唇を軽く合わせるだけのキスなんかじゃなくて———。  個人インタビューの順番待ちのために控え室でスマホをいじりながらも、頭の中は広輝と圭にどう対応するかばかりを考えていたら、ふいにドアが開く。そちらの方に視線をやると、赤と黒のボーダーのトレーナーを着た広輝と目が合った。  俺と目が合った広輝はよっと軽く手を上げながらも気まずそうに視線を逸らし、俺から少し離れた席に座る。 「拓海」  俺から声をかけるべきか悩んでいたら、広輝の方から声をかけられて顔を上げる。視線を合わせると、広輝は困ったような笑顔を浮かべていた。 「この前はごめん。拓海だって話したくないことぐらいあるよな。無理に聞き出そうとしてごめん」 「俺の方こそ悪かった。態度が良くなかったなって反省してる」 「態度が良くなかったっていうのは会議の時のこと? それとも、俺と話してた時?」 「両方」  少し離れた位置からじっとこちらを見てきた広輝と一度視線を合わせてから、そっと目を伏せる。 「もう少し自分の気持ちを伝えてくれたら嬉しいけど、口下手なのが拓海だもんな。それが困ったとこでもあるけど、可愛いとこでもあるし」  顔を上げると、いつのまにかこちらに歩いてきていた広輝と目が合って、ヨシヨシと頭を撫でられる。 「やめろ、セットが崩れる。これから撮影あるから」 「拓海まだセットしてないじゃん」  照れ隠しにそう言うと、笑われたあげく髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜられた。 「だから、やめろって」 「はいはい、もう行くよ」 「もう行くのか?」 「まだ終わってないんだ。拓海と話したくて、ちょっと抜け出してきただけ」  また髪を撫でてきた広輝に何と言えばいいか分からず、そっけなく「そうか」とだけ答える。    一通り俺の髪を撫でた広輝は満足したような笑みを浮かべて出て行ったけど、俺は閉まったドアをただじっと眺めてしまう。  だからさ、そういうとこだって。  親友にしてはやたら距離近いし、すぐに俺を特別扱いする。お前がそんなんだから、俺は何回も諦めようとしたのに、その度に簡単に引き戻されてしまう。  本当に困ったやつだ、とため息をついていると、広輝が出て行ったばかりのドアがまた開き、今度は薄いピンクのセーターを着た圭が入ってきた。  ……おいおい。俺に休む暇はないのかよ。  視線をそらしてスマホに熱中している振りをしたけど、そんなことをしても無駄だったらしく。隣に座った圭にさっとスマホを取り上げられた。 「拓海さん、元気になったんだ?」 「おかげさまで」 「俺のキスのおかげ?」  嫌味混じりに答えたはずだったのに、にっこにこで顔を近づけてきたでっかい犬みたいな男に面食らってしまう。 「そんなわけ……、っん」  ないだろ、って言ってやろうと視線を合わせた瞬間、ちゅっと唇を重ねられて言葉が紡げなくなる。 「いきなりキスしてくるなって」 「キスしていい?」 「ダメに決まってる。誰かに見られたらどうする気だよ」 「誰にも見られないとこならいいんだ?」 「そういう問題じゃ、」  また話している途中に唇にキスをされ、目の前の年下の男に怒るのを通り越して呆れてしまう。 「お前グイグイくるよな」 「こうでもしないと、拓海さん俺のこと見てくれないじゃん」 「そんなことないって。今見てるだろ」 「これからは広輝さんだけじゃなくて、俺のことも見てくれる?」  大きな目でじっと見つめられ、不覚にも胸が高鳴る。告白された経験は何度もあるが、今までこんなに熱く口説いてくるやつはいなかった。何でそんなに俺がいいのか分からないけど、……。 「……分かったよ。ちゃんと見るから」 「本当?」 「ああ。だから、キスはもうやめてくれ。本気で誰かに見られる」  誰かに見られるということも心配だが、そんなに何度もされると俺の心臓も持ちそうにない。 「うん、ここではもうしない」 「ここではとか、意味深な言い方するのやめて」  そのあともくっついてくる圭との距離を取るのに苦労したけど、自分の順番が回ってきてようやく解放される。  ……なんだかな。休憩してたはずなのに、どっと疲れた。  広輝といい圭といい、どうして俺を困らせるのか。  今後のことを思うと先が思いやられるけど、とりあえず今は目の前の仕事をこなすしかなかった。

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