東京から新幹線で2時間、実家近くの病院に着いた時には面会時間をギリギリすぎていたけど、家族だからということでどうにか通してもらった。 一時意識不明になった父さんは、俺が着く少し前に意識を取り戻したらしいけど、今はまた眠ってしまっている。 「わざわざ来てくれてありがとうね。お父さんも今は落ち着いてるし、ここはお母さんだけで大丈夫だから、あなたたちはもう帰って休んで」 ベッドで眠っている父さんを見ながら何て切り出そうか悩んでいると、母さんから声をかけられ、弟の陸と顔を見合わせた。 「父ちゃん、何かの病気なの?」 「それはこれから調べてみないと分からないけど、たぶん心臓か血管だろうって先生は言ってたわ。お父さんももう年だから、色々なところが悪くなるのよ」 たしかもうすぐ60だったか? そんなに老け込んだ印象はなかったけど、言われて見ると、だいぶ年をとったのかもしれない。 陸と母さんが話すのを聞きながら、そんなことを考える。 「由香に電話してくる」 しばらく母さんと話し込んだあと、陸はスマホを持って病室を出て行く。 「拓海は良い人はいないの?」 「こんな時に何なの?」 2人きりになった途端そんなことを聞かれ、正直呆れてしまった。どう考えてもこんな時に話す話題じゃないだろ。 「こんな時だからこそよ。お母さんばかりがいつもうるさく言ってるように感じてたかもしれないけど、本当はお父さんも拓海のこと心配してるのよ。拓海は強情で何でも1人でやっちゃうけど、本当は誰よりも寂しがり屋で1人じゃいられない子だから、早く良い人が見つかればいいねっていつも言ってる」 穏やかな口調で諭すように言われ、返す言葉が思いつかずに押し黙る。 知らないことばかりだ。いつのまにか父さんたちが年をとっていたことも、父さんが俺を心配していたことも。 「心配してもらわなくても、俺は一生一人で生きていくから」 「また拓海はそんなことばかり言って。無理にとは言わないし、拓海の気持ちが一番大事だけど、お父さんとお母さんの気持ちも少しは考えてくれると嬉しいわ。それに、拓海は本当に一人で生きていきたいの?」 「俺は……っ」 だったら、適当にその辺の女の人と結婚して孫を見せれば親孝行になるのか? 俺だって、誰かと支え合って一緒に生きていきたい。でも、俺は、俺には……。 未来への不安や期待に応えられない申し訳なさや色々な感情がないまぜになって、拳を強く握りしめる。 「ただいま〜。兄ちゃん、圭が来てくれたよ」 気まずい空気を壊すような陸の明るい声が聞こえてきて振り向くと、陸の横に圭が立っていた。 「来てくれてありがとう」 「当たり前だよ」 圭に声をかけると穏やかな笑顔が返ってきて、心がほっとする。 「あのさ、圭って兄ちゃんのためにわざわざ来たんだよね? なんか彼氏みたいだね」 俺たちのやり取りを見ていた陸の何気ない一言にその場が凍りつく。
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