「俺と拓海は性格は正反対ですが、好みや趣味がよく似てるんです。服の趣味も合うし、今日もたまたま履いてきた靴が同じだったんですよ」 初めてのソロライブが無事に終わった数日後、早めにスケジュールを終えて家でテレビを見ていると、少し前に収録した番組がちょうどオンエアされていた。 俺と広輝が2人で出演した収録を圭が真剣な顔で見ている。 「たまたま履いてた靴が一緒だったなんてある?」 「そういうこともある。メーカーから提供受けることも多いし、広輝とじゃなくても誰かと持ち物が被ることはよくあるよ」 ソファーにもたれかかり、テレビに向かって話しかけていた圭の隣に行く。圭もこちらを向いたけど、俺の胸元を注視していた。 「そのネックレス広輝さんのじゃなかった?」 「ああ、これな。この前の俺のライブの時に片方もらったんだよ」 付けているネックレスを持ち上げると、圭はジト目で俺を見てくる。 「ネックレスはペアで、スニーカーはお揃い? 何だよそれ。もう付き合っちゃえよ」 顔をそらし、あからさまに拗ねる圭に俺も小さく息をつく。 広輝がライブを見にきたことは圭にも言ってあるけど、ネックレスをもらったこととステージで一緒に歌ったことは言えてない。別に浮気したわけでもないけど、なんとなく後ろめたいところもあるし、実際広輝に未練がないかと聞かれればあると答えないといけないだろう。 「俺の彼氏はお前じゃないの?」 広輝からもらったシルバーのチェーンのネックレスを外し、圭の頬に触れると、今度は圭の方が大げさにため息をついた。 「彼氏の俺はステージの上でいちゃつくの禁止されてるのに、広輝さんとはペアのネックレスとスニーカーまで履いて、公共放送でのろけてるじゃん。おかしくなりそう」 「お前にも服あげただろ?」 「あれはいらない服をくれただけでしょ。拓海さんとペアのアクセサリーは一つも持ってない。どうせ俺とはファッションの趣味も合わないし、別にいいけど」 別にいいとは言いつつも、明らかにいいとは思ってない顔だよな。広輝からもらったネックレスを圭の前で付けていたのは、俺のミスだ。わりとめざといとこあるし、もう少し気を配るべきだったな。 「そんなに怒るなよ。それなら今度ペアのアクセサリーでも買いに行く?」 「いかない。前の人と同じことして嬉しいと思う?」 「じゃあお前は元カノとキスしたからって、次に付き合う彼女とはキスしないんだな?」 「そういうことじゃない」 だったら、どういうことだよ。 それを聞こうと思ったけど、テーブルの上に置きっぱなしだった携帯ゲーム機を圭がやり始めたので、俺ももう話しかけないことにした。 人前でベタベタするなとこの前俺が強めに言ったこともあるし、広輝とのこともあるし、最近圭の機嫌を損ねてしまうことがよくある。 俺の心が定まってないのが良くないんだろうけどな。 でも、——。たしかに広輝に未練はあるけど、俺の彼氏は圭だけだし、俺はちゃんと圭のことが好きだ。圭はそれが分かってないみたいだが、……。 ゲームに集中している圭の横顔を見ながら、どうしたものかと頭を悩ませた。
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