トゥーリとヌーッティ Tuuli ja Nuutti

読了目安時間:3分

ヌーッティと魔法のティーポット

1.カフェ・サンポ

 ある冬のお昼過ぎーーフィンランド首都ヘルシンキのルーネベリ通り。  暖かい陽の光が石畳の路面を艶やかに照らし出す。観光スポットが近くにあるルーネベリ通りは普段よりも閑散としていた。  その通りに面したマンションの一階部分に、アキの祖母が経営するカフェ「Kahvila(カハヴィラ) Sampo(サンポ)」がある。アキは予定のない日の休日にここのカフェの店番をしている。この日も午前中から店番を任されていた。  小人の女の子トゥーリと小熊の妖精ヌーッティもアキにくっついて来て人気の少ないカフェでアキの手伝をしていた。  アキは造り付けのL字型の大きなカウンターの中でグラスを拭いたり、コーヒーを淹れたり、厨房にいる祖母が運んでくるサンドイッチやケーキ、それにサラダなどをガラスのショーケースに並べたりしている。  トゥーリは、カウンターのワークトップの上で、洗いたてのキッチンクロスやタオルなどを丁寧に折りたたんでいた。他方、ヌーッティはというと、トゥーリと同じワークトップの上で、ヌーッティがすっぽり入れる大きさほどもあるティーポットを鼻歌混じりにクロスで磨いていた。  ヌーッティは息を吹きかけながら、焦茶色の陶器のティーポットをまじまじと見つめる。そして、首を傾げた。 「もしかしてこれは魔法のティーポットかヌー?」  側を通り過ぎたアキがヌーッティの言葉を耳に拾う。 「昨日の夜、一緒に観ていた番組のあのポット?」  アキはマグカップをカウンターの上に並べながら視線だけヌーッティへ向けて尋ねた。 「そうだヌー。魔法の妖精さんが出てきてなんでも願いごとを叶えるあれだヌー。ヌーッティも魔法のティーポットが欲しいヌー!」  それを聞いたアキは笑い、トゥーリは呆れた面持ちで溜め息を吐いた。 「ヌーッティは妖精なんだし、願い事を頼む役じゃなくて、ポットから出てくる妖精役がちょうどいいかもな」  アキの言葉を聞いたヌーッティはあることを閃いた。  その時、入り口のドアベルが店内に鳴り響いた。  アキは入り口に目を移す。 「いらっしゃいませ……って、なんだ、健か」  入り口には長身の男性が1人立っていた。 「なんだって何だよ。せっかく来たのに」  健と呼ばれた男性は、アキが日本に住んでいた時以来の年長の幼馴染みである。彼はヘルシンキにある大学院に留学していて、このカフェの常連客の1人でもある。 「今日はコーヒーじゃなくて紅茶にしよっかな」  言いながら健はカウンターに近いテーブルに着く。  アキは焦茶色のティーカップと銀のティーストレーナー、そして健が好きなレッドアップルのフレーバードティーの茶葉をさっと用意した。その間にトゥーリが赤色のホーローのケトルに水を入れてコンロの上に置いた。アキはトゥーリにありがとうと言うと火を点けた。  茶葉をティーポットの中へ入れるため、ヌーッティが丹精込めて磨いていたポットを手を伸ばした。すると、ヌーッティが指を一本立てて、しーっと潜めた声を出す。 「健をおどろかすヌー!」  ひそひそとアキへ向かってヌーッティは提案をした。  普段のアキならば、ヌーッティのいたずらを止めるのだが、いたずらされる対象が幼馴染みの健ということもあり、今回は2人で驚かそうということになった。こうして、アキとヌーッティのいたずら計画が始まったのである。  しかし、後に2人の身に降りかかる災難をトゥーリ以外の誰が予想できたであろうか。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • くのいち

    みぱぱ

    ♡1,000pt 2020年12月7日 20時52分

    後に2人の身に降りかかる災難って、ヌーッティは分かるけど、もう一人はアキ? さあ、どうなるのか楽しみですです!

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    みぱぱ

    2020年12月7日 20時52分

    くのいち
  • あかべこ

    御米恵子

    2020年12月7日 21時12分

    第二話以降、何人か初登場のキャラも出ますので、お楽しみに!

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    御米恵子

    2020年12月7日 21時12分

    あかべこ

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • wink killer もし、ウィンクで人を殺せたら――。

    貴方はその力、何に使いますか?

    226,100

    802


    2021年6月13日更新

    もしウィンクだけで人を殺せる力を手にしたら、貴方はその力、何に使いますか。 誰かを守るため? 自分を守るため? それとも――憎い相手を、殺すため? ☆★☆ 別れたはずの元恋人に殺されかけ、死の間際にあったある一人の少女。 そんな彼女が手に入れたのは、右目を瞑ることで人を殺めてしまう事ができる、wink killerと呼ばれる死神の力だった。 「この力は、大切な人を守るために使う」 少女はそう誓い、大切な者を守るために生きると決めた。 ――はずだった。 ※次回更新は6月13日(日)予定です。 ※小説家になろうにて前編完結済の作品の、リメイク版になります。 ※読者の皆さま、いつも温かいコメントをありがとうございます。 ※素敵な表紙絵は瑞樹くりむ様(@773_cream)に作成していただいたものになります。著作権は瑞樹様にあり、画像は小説表紙として使用許可を頂戴しておりますので、無断使用・無断転載はお控えください。 ※この作品には、本編ラストにハッピーエンド保証が付いています。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:4時間47分

    この作品を読む

  • クリフエッジシリーズ第一部「士官候補生コリングウッド」

    ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!

    4,000

    0


    2021年6月13日更新

    人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるクリフォードの士官候補生時代の活躍を描く。 アルビオン王国軍士官候補生クリフォード・カスバート・コリングウッドは哨戒任務を主とするスループ艦、ブルーベル34号に配属された。 士官学校時代とは異なる生活に悩みながらも、士官となるべく努力する。そんな中、ブルーベルにトリビューン星系で行方不明になった商船の捜索任務が与えられた。 トリビューン星系には宿敵ゾンファ共和国の影があった。 陸兵でもないブルーベルの乗組員たちは敵基地への潜入作戦を強行する。若きクリフォードは初めての実戦を経験し、成長していく。 ■■■ 登場人物 ・クリフォード・カスバート・コリングウッド:士官候補生、19歳 ・エルマー・マイヤーズ:スループ艦ブルーベル34艦長、少佐、28歳 ・アナベラ・グレシャム:同副長、大尉、26歳 ・ブランドン・デンゼル:同航法長、大尉、27歳 ・オルガ・ロートン:同戦術士、大尉、28歳 ・フィラーナ・クイン:同情報士、中尉、24歳 ・デリック・トンプソン:同機関長、機関大尉、39歳 ・バーナード・ホプキンス:同軍医、軍医大尉、35歳 ・ナディア・ニコール:同士官 中尉、23歳 ・サミュエル・ラングフォード:同先任士官候補生、20歳 ・アメリア・アンヴィル:同操舵長、兵曹長、35歳 ・テッド・パーマー:同掌砲手 二等兵曹、31歳 ・ヘーゼル・ジェンキンズ:同掌砲手 三等兵曹、26歳 ・ワン・リー:ゾンファ共和国軍 武装商船P-331船長 ・グァン・フェン:同一等航法士 ・カオ・ルーリン:ゾンファ共和国軍准将、私掠船用拠点クーロンベースの司令 ■■■ 小説家になろう、アルファポリス、カクヨムでも投稿しております。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:58分

    この作品を読む

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る