【03】バスの中で～ハイドの気 漂いしバスガイド

　 百合子・綾子・茜たち渡鍋学院三年生の一同は、ビジネスマンや旅行客に紛れるかのようにしてひかり号岡山ゆきから降り、新大阪駅のホームに足をおろした。 　新大阪駅は、つい二時間前にいた東京駅とは行き交う人々の容姿や雰囲気も異なっていた。 　具体的には、東京や千葉では割とほりの深い顔立ち、つまり縄文顔よりの顔立ちの人々を多く見かけるが、ここ関西の新大阪駅ではほりが浅くて平べったい弥生顔の顔立ちの人々を多く見受けられた。 　また、話す言葉も”ほんま”・”おおきに”・”うち”などといった妹・紗久良がいつも会話で使う関西方言の言葉やイントロネーションとなり、まさに関西に来たということを肌身通して感じ取ることができた。 　百合子たち修学旅行の一団は、とことことした足取りで階段を降り、コンコース階におりて新幹線の改札を抜けた後、駅一階にあるバスターミナルに向かった。 　バスターミナルには、大阪市営や京阪神急行電鉄などの公営・私鉄のバスが集い、さながら東京でいう上野駅や品川駅のように”賑わいのある場所”であることを物語っているようだった。 　さて、新大阪駅バスターミナルに集うバスの中に、二台のバスがあった。 　そのバスは、バスターミナルの端にある団体客用の乗降場に停まっており、車体には奈良の若草山に群生するシカをモチーフとしたレリーフが飾られ、朱色とオレンジ色のライン、”ＮＡＲＡ　ＢＵＳ”の文字、奈良ナンバーのナンバープレートが目立っていた。 　これこそ、百合子・綾子・茜たちが修学旅行で５日間ほど乗ることとなるバスである。 　新幹線を降りてきた百合子たち渡鍋学院三年Ａ組・Ｂ組の一団は、ツアーコンダクタの後を追う形でバスの停まっているバス乗降場に向かった。 　まず、百合子・綾子らＡ組クラスの一同は、前よりの一号車。 　茜の属するＢ組クラスは、後よりの二号車の車両におのおの分乗した。 　さて、渡鍋学院三年生修学旅行の一団を乗せたバスは、時計の両針が１２を示す頃、新大阪駅のバスターミナルを発ち、修学旅行の一日目の目的地となる斑鳩寺、世にいう法隆寺に向けて走り始めた。 　バスは、地下鉄御堂筋線・北大阪急行線沿いを走る道路を北進し、かつて１９７５年の万国博覧会にて会場となった万博記念公園を横目に見て吹田インターより近畿自動車道に入った。 　そのとき、バスの車内では、バスガイドが見所解説をしながら自己紹介をしていた。 　はじめに、 「皆さん、長旅お疲れさまです。私は、奈良中央交通の山都あゆみと申します。入社したての新人ゆえ、慣れないところもありますが、どうかよろしくお願いいたします。」 　バスガイドこと山都あゆみは、顔の上に緊張という名前の色を描きつつマイクを片手に持ち、綾子や百合子らＡ組の一同に語りかけた。 　それと共に、車内にいるＡ組の生徒たちは、両手を胸元に持ってきてパチパチとたたき、顔の上に喜色を表した。 　まさに、初めて会った人と接するにふさわしい雰囲気がバスの車内に漂っていた。 　しかし、百合子だけは何故かいまいちパッとしない様子を浮かべた上で、力なさそうな拍手をしていた。 　そして、 「何故かはわからないけど、山都さんっていうバスガイドの人、ヨモツ国のハイドと同じ気が漂っている。」 　百合子は、座席にして６～８列先にいるあゆみの姿を見て思わず頭の上に考えを巡らせた。 　彼女として、以前館山や代々木の明治神宮にて姿を表したハイドたちと目線の先にいるあゆみの雰囲気がほぼ同じということに気づき、警戒し始めたようである。 　そのため、 「百合子ちゃん、どうしたの？　拍手に力が入っていないようだけど。」 　彼女の様子を察した綾子が、首を右左に傾げながら百合子に尋ねかけた。 　綾子の表情には、親友として百合子を気遣う様子が見て取れた。 「あこちゃん、そっ、そうだっけ！？」 　百合子は、顔のうえにあたふたとした仕草を浮かべた後、まるで何も起きていなかったかのような語りで綾子に言葉を返した。 　その様子は、まるでボケを入れたよしかわ興業の女芸人を彷彿とさせるものであった。 「ぼけてるやないかーい。なんっちゃってね。」 　綾子は、ニコニコと明るい笑みを顔に浮かばせ、大阪芸人のようなツッコミを交えて百合子に小声で語り返していた。 　二人の語り合う様子からは、和気あいあいとした女の子同士の明るい語らいや親友に相応しい雰囲気が感じられた。 　さて、そうしているうち、バスは富田林市付近で西名阪自動車道に入り、奈良県の斑鳩寺(法隆寺)に到着した。