天つ乙女と毛獣〜舞台は房総半島、天女となりしある少女の運命と絆の物語〜(#あまおと)

読了目安時間:4分

エピソード:72 / 149

【03】怒りと涙のせめぎあい~芹奈の思いとともに

 勉強は順調に進み、11と12の針を示すころとなった。 「たつくん、ありがとう。そろそろ休憩しよう。」  百合子は、ニコニコとした明るい気持ちを顔のキャンバスに描き出し、白竜に語りかけた。  彼女として、勉強が一段落してほっと一息つきたいと考え、彼に言葉をかけたようだ。 「ゆりちゃん、そうだね。一段落したことだし休もう。」  白竜は、優しい男の子らしい喜色に満ちた表情や口調を交え、百合子に答えた。  彼もまた、百合子と同じく一息つきたいと考えていたようで、彼女の提案を断ることなく受け入れることにした。  これに続き、 「紗久良ちゃん。芹奈疲れたから一緒に休んでいいかしら?」  芹奈もまた百合子たちと同じく、自らの疲労を感じ取ったため、紗久良に休みを取ることを提案した。  それに対し、 「新田はん、ええよ。うちも休みたい思うてたとこやから、休もうや。」  紗久良は、しあわせに満ちたと思えるほどの明るい表情を顔や口調に表し、芹奈に答えていた。  こうして、百合子・白竜と芹奈・紗久良の四人は、いっときの間だけ休憩を取り、一息つくことにした。  休憩を取った四人は、それぞれに最近起きた出来事を交えて語り始めた。  その中で、 「広瀬さん。そういえば、クイーンという人、知ってる?」  芹奈は、利き手を頬に置き、頭で物事を考える仕草を交えつつクイーンについて百合子に尋ねかけた。 「新田さん、知っているわ。私を付け狙う宿敵のような人物なの。」  百合子は、頭の上に自らが見たクイーンの姿や人物像を浮かべた後、真剣さ漂う物言いで芹奈に答えた。  それに続き、 「うちも知ってるで。もともと、うちはヨモツの姫・シコメやったから、ちょくちょく会っていたで。」  紗久良は目をキラキラと輝かせ、あどけなさ漂う愛らしい声で芹奈に語った。  敵にあたるヨモツ国の元王女・シコメだった紗久良として、自らが知るクイーンの人物像を芹奈に話したかったようで、自らの出自とクイーンについて知っている事実を明かした。  すると、 「紗久良ちゃん。あなたもあのクイーンと同じヨモツの仲間だったのね。」 「許せない。3か月前、白竜くんのことをいじめ、私を消そうとしたクイーンの仲間が目の前にいるなんて、信じられない!!」  芹奈は突然眉をしかめて紗久良を睨みつけ、怒り気を顔や言葉に表した。  彼女と目の前にいる白竜もまた、えにありし天女の一人である尾花と同様に、クイーンに襲われたことがあるようだ。 「えーん。もううち、ヨモツと縁切ってお姉さまと同じすばるの一員なんに、強く言われるやなんて嫌や。」  紗久良は、芹奈の態度が豹変するなり、怖さから目に涙粒を流し、それに怯える様子で言葉混じりに大泣きをし始めた。  彼女として、自らの出自を明かしたため、芹奈が雷を落としたことに恐れをなす一方、ヨモツとのつながりを断ち、事実を必死に伝えようとした。  このため 「芹奈ちゃん。彼女は、もうクイーンの仲間ではなくて、僕たちと同じ地球の人間として生きている。だから、安易にクイーンの仲間だと責めるのは止めよう。」  白竜は、険悪さ漂うムードを察し、生真面目な様子を顔の上に浮かべ、怒り気満ちた芹奈に心の限り説得を試みた。  続いて、 「うち、ほんまにぱちこいてへんよ。新田はん、古すばるの天女なんやから、ぱちこいてる疑うてるんやったら、記憶覗いてもええよ。」  紗久良は、両目のまぶたの奥から止まることのない涙を流しながら、芹奈に向けて言葉を用いて語りかけた。  紗久良として、母親・ヤカミ妃の言葉に応じてヨモツを見限り、姉であるタキリこと百合子と同じすばる王朝に属している事実を必死に芹奈に伝えようと試みた。  その直後、芹奈はふつふつとわかせていた怒り沈める一方、疑念の念を漂わせて自らの利き手を紗久良の左手に重ねさせた。  紗久良もまた、芹奈が手を重ねるのを見計らってまぶたをゆっくりとつぶり、脳裏に残る数多の記憶を流し込んだ。  まず、6才の姿で酒樽の中から取り出されて生まれた記憶。  侍女として仕えていたトヨタマや養父であるミタマ、夢に現れて自らのことを心配し、さまざまな知識や言葉などを授け育ててくれた実母・ヤカミ妃との思い出。  次に、12才の誕生日にヨモツ国の姫君ながら母国に反旗を翻し、必死にヤカミ妃を助けようとするものの、ゲアシオの用意した毒蛇に噛まれて倒れた出来事などを芹奈の脳裏に映し出した。  それには、 「紗久良ちゃん、何も考えず疑ってしまってごめんなさい。」  芹奈も紗久良に対する疑念の気をすーっと忘れ、本当にすまなそうな様子を顔に表し、深々と頭を下げて謝った。  これに対し、 「新田はん。謝ってくれたら、うちはそれでええねん。」  紗久良は目から流れ出る涙をぐっとこらえ、あどけない女の子らしい表情や語りで芹奈に答えた。  それは、お互いにわかりあえなかったことをわかりあえた瞬間であった。

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