天つ乙女と毛獣〜舞台は房総半島、天女となりしある少女の運命と絆の物語〜(#あまおと)

読了目安時間:5分

エピソード:58 / 149

SS8話 畿内へいっきない(上)

【01】修学旅行の朝

 日にちは進み、五月一七日。  中国上海で万国博覧会が開幕し、アメリカのスペースシャトル・アトランティスの最終打ち上げが行われた頃である。  百合子と綾子ら渡鍋学院附属中学校三年生は、その日から関西方面の修学旅行に出掛けることになった。  その日は、7時30分に東京駅丸の内南口地下にある団体集合場所で集合、同駅八重洲口にある新幹線乗り場に移動、9時3分発のひかり号岡山行きに乗車して新大阪に向かう予定となっていた。  百合子は房総半島の南端にある館山に住んでいて、流石に東京駅の集合時刻に間に合わないこと。  慌てず余裕を持って東京駅に向かうことができるよう、親友である綾子とともに東京都品川区大井にある綾子の実家に泊まった。  夜という名前の闇が明け、東の空は東雲色に染まっていた。  それは、まるで中学校の思い出の集大成である修学旅行の始まりにふさわしい朝であることを示すように黒々とした空を明るく染めていった。  百合子は、カーテンの隙間からかすかに差し込む明るい朝日を身体に受けながら身体を起こし、綾子と共に運動がてら近隣の西大井にある広場公園へと散歩に出かけた。  百合子と綾子の二人は、細い路地を突き当たったところで右に曲がり、立会道路沿いに歩みを進めた。  そのとき、 「あこちゃん。今日から行く修学旅行楽しみだね。」  百合子は、やや口角をさげて目を見開かせ、修学旅行のことで綾子に語りかけた。  彼女の語りからは、五日間ほどかけていく奈良・京都の修学旅行に胸おどらせている様子を読み取ることができた。 「百合子ちゃん、そうだね。」  綾子もまた、表情というキャンパスのうえににこにこと明るい笑みや口調を交えて百合子に答えた。  続けて、 「そういえば、東郷さんって最近見ていなかったけど、修学旅行にくるのかな。」  綾子は、右手を額の上に置きながらくりくりとした眼差しで百合子に語りかけた。  彼女は、時折言葉を交わすことのあった茜がいなかったことを心配し、修学旅行に参加するかどうか尋ねたようだ。  それに対し、 「あこちゃん。昨日の夜、茜ちゃんからメールが来て、修学旅行に参加するって、言っていたわ。」  百合子は、にこにことした面持ちでもの入れから携帯電話を手元に出し、届いたメールの画面を綾子に見せた。 「茜ちゃん、ここ何か月か姿見ていなかったから心配したけど、修学旅行にくるなら心配しなくてもいいね。」  綾子は、顔をうんうんと上下に動かし、腑に落ちた様子を顔に表して百合子に言葉を返した。 「あこちゃん。とにもかくにも、修学旅行は中学生最後の思い出になるものだから、思いっきり楽しもうよ。」  百合子は、ちょうど東の空に顔を出した梅干し色の太陽を思い起こさせる陽気な様子を顔や声に表し、綾子に語った。 「百合子ちゃん、そうだね。」  綾子もまた、顔の上ににこやかな喜色を浮かばせて百合子に答え返した。  百合子と綾子の二人の語り合う様子からは、これから始まる修学旅行への期待や喜びの気持ちが読み取れた。  そして、彼女たちは、立会道路をすすんでいき、西大井広場公園で折り返して綾子の実家に戻った。  時は過ぎ、時計の針は短いのが七、長いのが六を示していた。  場所は変わり、東京駅。  ちょうど、ラッシュアワーということもあり、丸の内や大手町などのオフィス街に向かう人々で賑わいをみせる頃であった。  改築復元工事の進む東京駅、地下、横須賀線・総武線ホーム。  久里浜方面から一本の電車が到着し、扉が開くのとともにホーム上は人々の雑踏で埋め尽くされた。  その人々の雑踏にまぎれるようにして、百合子と綾子の二人が電車からホームに降り立った。  ともに、制服姿で旅行カバンを肩に掛けた出で立ちをしており、サラリーマンや学生などの乗客の後を追うようにして足を前に進ませた。  二人は、先が小さく見えるほど長いエスカレーターをのぼり、左手に見える丸の内地下改札を過ぎ、修学旅行の待ち合わせ場所となる丸の内地下広場の団体待合所に赴いた。  団体待合所には、すでに数人の同級生と担任の教師が集まっていた。  その中には、くりくりとした愛らしい眼差しをした茜の姿があった。  集団の中にいた茜は、ちょうど目の前に現れた百合子と綾子の姿を見ながら歩み寄ってきた。  彼女の歩み寄る姿は、以前と変わらず活気に満ちたものであった。  そして、 「広瀬さん・中田さん、ご無沙汰しています。」  茜は、にこにことして明るい笑顔を顔のキャンパスに描き出し、百合子や綾子に語りかけた。  その表情からは、彼女がヨモツ国の王妃・クイーンという事実を察することはできなかった。 「東郷さん、おはよう。」  綾子は、口をU字の形に下げ、顔に喜色を浮かべて茜の元に歩み寄った。 「あっ、茜ちゃん。おはよう。」  百合子は口を少し開き、目を大きく開かせた状態で茜を見つめて語り返した。  このとき、百合子として、茜が宿敵・クイーンや妹のイチキであることをシコメ(紗久良)から知らされているためか、心の内に強くも弱々しいさざなみをたてつつも、久々に会えた喜びを抱いていた。  それに対し、 「広瀬さん、どうかされましたか?」  茜は首を右側に倒し、頭の上に疑問符を並べさせた状態で百合子に尋ねかけた。  茜として親友であり、テニス部でもダブルスを組む百合子がいままで見せたことのない表情をしていたのに気づいたようだ。 「いや、茜ちゃん、何でもないよ。私は、いつも通りだよ。」  百合子は、安房の地をさんさんと照らす太陽を思わせる笑顔を交え、なにもなかったかのようにして茜に振る舞った。 「きっと、私の思い過ぎだったのだと思います。お気になさらず考えていただければ幸いです。」  茜は、しっかりとした目つきに口角を下げた様子で百合子に答えた。  すると、 「百合子ちゃん、東郷さん。みんな待っているから行こうよ。」  傍らにいた綾子が百合子や茜の顔ををそれぞれ見ながら語りかけた。  これとともに、 「あこちゃん、そうだね。」 「中田さん、行きましょう。」  百合子と茜は、ドラマに出てくる主人公を思い起こさせるほど明るい笑みを浮かべて綾子に答えかえした。  そのときの百合子と茜の様子は、まさに(シコメのいっていた通り)生き別れていた実の双子らしい雰囲気を醸し出していた。  この後、百合子・茜・綾子らは、目の前の団体待合所にいた渡鍋学院三年A組・B組の担任の元に赴き、一団と合流した。  百合子は、この時点で後々起こるある出来事に気づく由はなかった。

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