天つ乙女と毛獣〜舞台は房総半島、天女となりしある少女の運命と絆の物語〜(#あまおと)

読了目安時間:7分

エピソード:27 / 149

【04】幼きころのおもひでを胸に~双生の妹・イチキ姫とのかをあわせ

 百合子は、芳夫・美香といっしょに雑談をしながら食事をした。  たわいのない親子としての話、学校や職場での話に及んだ。  さて、時刻は11時15分。百合子たちは、美香特製のお弁当と和菓子を食べ終えた。  それとともに、 「お母さん、ありがとう。いつものお母さんのお弁当もおいしいけど、このお弁当ほどおいしいものはないと思うわ」  百合子は、美香に対して満足げな表情で弁当についていい評価をした。  彼女は、ミシスランの三ツ星レストランの食事をしたばかりのお客を思わせる様子だった。 「百合子、ほめてくれてありがとう」  美香は、これまた照れ臭げに頬をピンクに染め、大人しい眼差しで百合子に言葉をかえした。  続けて、 「ねぇ、お父さん。せっかく、小金井に来たのだから、おじいちゃんのお墓にいってきてもいいかな?」  百合子は、目線を右側にうつし、やさしくもうったえかける目で芳夫に求めてきた。 「百合子、行っていいぞ」  芳夫は、気前のいい父親らしい表情で彼女からの求めに応じることにした。    こうして、百合子は、美香・芳夫と一旦別れ、養祖父の墓参りにいくことにした。  百合子は、美香から線香・ライターを借りたあと、さくらのふぶきが舞い、やまぶき・たんぽぽなどの花が映える小金井公園の桜並木をなだめつつ、五日市街道脇に掛かる小金井橋を通り過ぎた。  彼女は、清らかな水の流れが美しい玉川上水の南側の土手を三鷹の方向に向けて歩いた。ちょうど、玉川上水沿いを三鷹方面に少し進んだ先にある墓地を目指したのである。  その途中、 (やまざくらを見ていると、心洗われるようだ。まるで、館山での獣の戦いが幻だったかのように思えるわ…)  百合子は、ヤマザクラが競うようにして咲き誇る玉川上水沿いの桜並木で足を止め、うっとりと魅了された様子を見せていた。 「そういえば、私。向こうのアマツホシの世界にいたとき、妹やいとこたちがいて、一緒に桜木の下で遊んでいた気がする。たしか、トヨタマと誰だったかな? 今になって名前が思い出せないわ…」  百合子は、何か思いに更ける様子で桜を見つめ、地球に来る前のすばる王朝のタキリ姫だった時や遊び相手の記憶を一部ひきだそうと試みた。  遠くも懐かしい幼い頃の記憶。抜け落ちたピースを拾うようにアマツホシのすばる王朝の王女・タキリ姫だったころの記憶。  つまり、ヤマザクラことツチザクラのもとでいとこや妹と遊んだ記憶、かくれんぼをして母親や乳母に怒られたこと。今となっては断片的に途切れている記憶を思い出そうとしたのである。  なかなか思い出せず悩んでいるさなかのことだった。 「タキリ姉様、お久しぶりです」  どこからともなく、天上の方向から昔の名前で呼びかけられた。  声は、女の子のものでパンのようにやわらかくしっとりとしており、語り方は百合子に似ていた。 「あなたは、誰かしら?私のことを知っているのなら、いますぐ姿を表して!!」  百合子は、その声を聞いて四方八方あらゆる方角に顔を動かして警戒し、少し強くてききとりやすい声で女の子に対して呼びかけた。  百合子の呼びかけに応ずるように、声の主が桜木の幹陰より現れ、その姿を見せた。 【04】幼きころのおもひでを胸に~双生の妹・イチキ姫とのかをあわせの挿絵1  姿を見せた人物は、百合子と同じ天女。タキリ姫でいる時の百合子と色違いの緑色の冠・首飾り・着衣などの出で立ちであり、細くくびれた部分にまかれた細い腰帯は、彼女の変身時の姿と同じすばる王朝の王女であることを示す蜜柑色であった。  容姿や語りかたは親友の茜にうりふたつにして、異なる点としては、髪が濃茶色、色白の肌、緑色の瞳、手に持つ弓矢くらいだった。 「あれ、茜ちゃん。どうして、ここに…!?」  その姿を見た百合子。目の前に親友の茜がいると考え、その名を発した。 (もしかして、茜ちゃんのはなしていたことは本当だったのかしら…)  以前、茜の発した言葉を思い出した百合子。少し驚いた様子でいたのだ。  すると、 「タキリ姉様、私のことをお忘れになられてしまいましたか?」  声の主こと双子の妹というイチキ姫は、ほとほと困った様子を顔に描きながら、まどろっこしいほど丁寧な口調で百合子に言葉を掛けた。 「あぁ。あなたは、イチキね。私の学校の友達に似ていたからわからなかったわ。お久しぶり」  タキリ姫である百合子は、昔のことを思い出し、ようやく目の前にいる少女を双子の妹・イチキ姫と認識した。  彼女は、このとき、閉じ込めていた箱から宝石を取り出すように記憶を思い出していた。  さて、百合子は彼女に近寄ろうと、天つ乙女の祝詞を唱えて茜色の出で立ちの天女であるタキリに姿を変え茜色の羽衣をあやつり、妹のイチキ姫のいる枝に身体をおろした。  そして、 「タキリ姉様。私たちと別れ、この地球という星に来てからどうなさっていらしたのですか?」  イチキ姫は、明るく誠実そうな顔で、タキリ姫に尋ねてきた。  その顔には、黒々しい雰囲気が一切なく、まさに両親の血を分けた妹として相応しい表情を浮かべていた。 「イチキ。私はね、千葉の房総半島の相浜という場所に流れ着いて、そこで星を見に来ていた夫妻に保護されたの。それからは、夫妻の養い子の百合子としていままで過ごしてきたの」  タキリは、頭の中にあるすべての記憶を引き出し、はきはきとした聞き取りやすい声でタキリ姫に答えた。  続けて、 「それなら、イチキはどうしていたの?」  タキリ姫は、ふと気になった様子で顔を30度ほどかしげ、妹であるイチキ姫に尋ねた。  これに対し、 「タキリ姉様。私は、母様や叔父様・叔母様、トヨタマ・ミカヅチと獣から逃れるため、国の中をさまよっていました。しかし、ふとしたことから、獣に見つかってしまい、長いこと暗闇の中で眠らされていました。その後、時を見計らまして獣の元より脱出し、いまは鋸山というところの麓の町で住んでいます」  イチキ姫は、うるうるとした目つきで、姉のタキリ姫に対して別れてからの話を語った。  そのとき、彼女の目つきは、やさしげでくりくりとしていて、さながら親友の茜をも連想させた。 「へぇ、そうなんだ。大変だったね」 「イチキ。意外にわたしとあなたが住んでいるところって近いのね。私の親友も、そのあたりに住んでいるの」  タキリ姫は、ひまわりの花のようににこやかな表情やねぎらいの意を交え、ゆっくりとはきはきした聞き取りやすい口調でイチキ姫に答えていた。 「タキリ姉様。獣を倒し、すばる王朝の再興を目指し、指導者として活動をしていらっしゃると、風の噂でうかがいました。それはまことのことでしょうか?」  イチキ姫は、再びやさしげな眼差しでタキリ姫を見つめ、首を傾げて耳で伝え聞いたという噂の真偽について確認を求めた。 「イチキ。半分あっているけど、半分ちがうわ」 「私は、国の王様になるための権利を持っていて、それを用いて敵の獣と戦ったわ。でも、国の再興ということまでは、どうしようか迷っていて、決断ができていないの」  タキリ姫は、明るいながらも悩むような物言いでイチキ姫に答えた。  タキリ姫は、この時、有名な考える人の像と同じポーズをとった。 「タキリ姉様、そうなんですか。王位継承権を持っていらっしゃるというのは、私から見てとてもあこがれるものです」  イチキ姫は、3回ほどうなづいた後、目にうらやましいという気持ちを表してジワジワと近寄り、タキリ姫に答えた。 「イチキ。久々に同じ両親の血をわけた双子の姉妹同士、顔を合わせることができた。だからこそ、私の仲間として一緒にハイドたちと戦ってくれるかな?」  タキリ姫は、明るい表情をみせて仲間にならないかイチキ姫に誘ってみた。  このときのタキリ姫は、聡明そうながらも、従妹であめふり国のトヨタマのようにハイドらと戦う勇ましい天女や指導者らしい雰囲気を顔のあたりに漂わせていた。  それに対し、 「申し訳ありません。私ですが、あいにく用事があって、タキリ姉様の仲間に加えることはできません」 (はぁ、こやつ平和ぼけしてる、どれだけ無頓着なことやら…)  イチキ姫は、顔という名前のキャンパスに表情を浮かばせぬまま、姉・タキリ姫からの誘いを断った。  そのとき、彼女はこころの中でタキリ姫のことを皮肉り、少しだけ敵対心をむき出しにしていたのである。 「イチキ、そうなの。用事があるのなら仕方がないわね」  タキリ姫は、やるせない表情に残念な心の気持ちのまじえてイチキ姫に言葉を返していた。  タキリ姫・イチキ姫の双子姉妹は、約一時間ほど玉川上水の清水の流れを背にして山桜の枝の上で会話をした。  その内容は、昔のすばる王朝での話や地球に来てからの話がメインであった。  タキリ姫は、彼女との会話を通し、自らがすばる王朝を再興に導く指導者、また次期国王の継承権を持つ唯一の人間ということを強く意識するようになる出来事となったのである。  そう、まさか妹・イチキ姫があの人物だとは知るよしもないまま。

※小金井の地に現れたイチキ姫。姉の百合子・タキリ姫に協力できず、別れた理由ですがこの先の話(シコメ姫こと紗久良の来訪・京都 奈良修学旅行パート)にて明らかになります。 引き続き、天つ乙女と毛獣を読み進めていただけると幸いです。

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