天つ乙女と毛獣〜舞台は房総半島、天女となりしある少女の運命と絆の物語〜(#あまおと)

読了目安時間:8分

エピソード:89 / 149

【あらすじ】 一気に劣勢に立たされていたすばる同盟の一同、タマヨリの決死の歌声を聞いて、いよいよサグメを追い詰めます。

【11】駆け引き、タマヨリの歌とともに

   さて、タキリ姫のは、サグメが操る”降っては戻ってくる”火縄銃の弾や鉄玉に未だに足止めされていた。  なんとか、火炎の鉄剣を使い慣れた手つきで振り払おうとするも、相手の勢いに押されつつあった。 (タキリ、どうすればいいの? 可愛い妹のタキツが彼女にそっくりなサグメって敵にやられているし、私たちが助けたくても足止めされてしまっているわ…)  彼女は一瞬だけタキツの姿を確かめ、もどかしそうな様子で自らに問いかけた。  タキリは、このとき、ふとやるせない思いを胸に抱かせた。  同じ実母の血を分け合った妹・タキツやいとこのミカヅチ・トヨタマ。自ら助けに行けないもどかしさ・悔しさをにじませたのである。 「はっはっは。あんたら、すばる同盟ちゅう集まりは、互いの絆のあらへん烏合の衆やんね。うちのいてるヨモツの鉄の絆で結ばれてる集団に比べたら、キツネみたいな群れの体をなさないもんと同じや」  サグメは、タキツの首を力の限り絞めたまま、間語を用いてすばる同盟の一同に言葉を放った。  流言をながし、すばる同盟のメンバーの心を揺さぶり、(えにし)で結ばれたの結束を揺らがせようと試みたようだ。 「うちらは、烏合の衆やないわ。タキリたちの絆に導かれて集まった平和を望み、すばるのふるさとを取り戻す希望を持ったすばる同盟や。あんたがそないなこと言うんやったら、うちが許さんわ」  タマヨリは、真面目さだだよう顔をしかめさせ、怒りのこもった口調でサグメに間語で反論した。  トヨタマとともにしきりに身体を動かして幾度も降り注ぐ手裏剣や鉄玉を避けていたタマヨリ。  目には見えない天女の絆で結ばれた同盟の仲間のやさしさ、平和を望む思い、それを脅かそうとするサグメに憤りの気持ちを抱いたのだ。 『7つの星の天女・天男、地に降り立ちて国つ神・人びととともに衣、食、住をともないて…』  そして、タマヨリは、意を決し、目をつぶり息を吐き出し、歌を歌い始めた。  歌を口ずさむ彼女。着衣の帯に備えていた短剣を利き手の左手に出して跳ね返し、歌声を少しずつ少しずつ高めていった。  歌は、余呉湖に降り立った先祖の古すばる天女。その故郷となるアマツホシの初代すばる王朝で語り継がれてきた王朝の成り立ちに関わる物語を詠った”王朝記伝”というものであった。  出だしは、空のかなたのすばると呼ばれる七つ星から七人の天女・戦士が降り立ち、地上にいる人間とともに森や山・川・海などの自然の営みや八百万の神々を大切にし、山・海・田の幸を得て生活を始めた話。  後半は、天女とともに住まう村のホオリという戦士とその妹で天女のカヤノメの二人が八百万の神々の神託を得て、人々と話し合いながら戦のない平和な国を作り上げようと武力を使うことなく、各地に散らばる村々や自らの属する村の長と話し合いを行い、アキツシマで初めての国・すばる王朝(初代)の成立に至るまでの軌跡をまとめたものだった。  歌声が耳に届き始めたころ、足止めされていたタキリやトヨタマの気持ちにも変化が現れ、息を吹き返しはじめた。  そのとき、 「そういえば、この歌どこかで聞いたことがあるわ。どこで聞いたのかな?」  タキリは、歌を耳にしてやるせない気持ちを吹き飛ばし、鉄玉などを避ける最中、タマヨリの口ずさむ”王朝記伝”を耳に挟み、何か思い出したような様子で頭の中に言葉を浮かばせた。  彼女として、その歌に聞き覚えがあるようで、記憶という名前の生まれてから今に至るまでの見聞きした内容を探っていた。  すると、 「姫様、これは伯母様やお母様が姫様や私たちに子守歌として詠いきかせてくれたものです」  トヨタマは、一瞬だけタキリの方向に顔を向け、タキリに間語で言葉を掛けた。  火縄銃の先にある剣で手裏剣などをはねかえしていた彼女。頭の中のある幼少期(すばる王朝時代)の記憶を探り出し、今まさにタマヨリの口ずさむ歌がヤカミ妃やヌナカワノメたちから子守歌として聞いたものだとタキリに伝えた。 「トヨタマ。確かに、お母さんや叔母様が私たちに歌いきかせてくれた子守歌だったわね」  タキリは、懐かしき幼少期の記憶の一コマを頭に思い起こして間語でトヨタマに答えた。  向かい来る鉄玉や弾を少しずつ火炎の鉄剣で黒々しい灰やドロドロとした液体の鉄に変えていた彼女。母親の口ずさんでいた子守唄とタマヨリの歌声を重ね合わせ、あの頃の懐かしさに浸っていた。 「これは、伯母様やお母さんの詠っていた子守歌だね」  ミカヅチもまた、おぼろげながら、タマヨリの歌声を耳に挟み、幼き頃の記憶を脳裏に思い起こさせた。  そして、 「僕、こんな惨めなままでいられない。タキリやトヨタマたちを助けないと!!」  ミカヅチは、身動きのできないもどかしさをまるでなかったかのように忘れさり、もがくように動き始めた。  背中に張り付いたままの飛杖を両手で離し、身体に残るすべての力をかき集め、サグメを懲らしめようと行動に移した。  ようやく、息を吹き返したミカヅチ。子守歌をタマヨリの語りに合わせて口ずさみ、戦いをするに必要な冷静さや判断力を高めさせた。 「姫様、兄様が動けるようになったようです。私たちも行きましょう」 「トヨタマ、そうね。サグメのこと懲らしめてあげましょう」  タキリ・トヨタマの2人もまた、ミカヅチやタマヨリに遅れまいと言葉を掛け合って動き始めた。 (サグメ。私、あなたには負けないわ…)  さっそく、タキリ姫はタマヨリのもとに駆け寄り、サグメの操る七つ星の手裏剣などを炎の剣のちからで溶かしはじめた。  手裏剣や鉄球などは、炎のなかをとおるうち、どろどろにとけてゆき、最後にはボロボロと壊われて地面に落ちていった。  タマヨリの周りを覆っていた障がい物がなくなり、いつでもサグメと戦える状態になった。 「タキリ。うちのこと、助けてくれたんやね。おおきに」  苦戦していたタマヨリ。かたわらにいるタキリの顔を一瞬だけ見つめ、歌いながらも嬉しさ溢れる気持ちのこもった言葉を掛けた。 「タマヨリ。私は、同じ仲間として当たり前のことをしただけだわ」  タキリは、おひさまのように明るい面持ちを頬に描き出し、タマヨリに間語で言葉を返していた。  歌を口ずさんだことで形勢を立て直し、敵・サグメを追い込める体制が整ったのだ。  これには、 「あかん、足止めしてたすばる同盟の奴らが息を吹き返しよった!?」  サグメも、思わず驚きの言葉を発した。  操りの術を用いて足止めしたと考えていたサグメ。タキリ姫たちがそれを破り、自らの元に近寄ろうとしている事実に驚いたようである。  すでに、サグメの手の届きそうなところには、タキリ・トヨタマのいとこペア、ミカヅチ・タマヨリらがいて、王朝公記の歌を口ずさ終え、じりじりと距離を近づけた。  そして、 「サグメ。私の可愛い妹や仲間、何も悪いことをしていない(大黒ふ頭の)一般人を身勝手にいじめたのだから、私やすばる同盟の仲間たちがあなたのことを懲らしめます」  タキリ姫は、青々とした炎を纏う鉄剣をぴんっと伸ばし、顔の表情や口調の中に怒りに似た気持ちを交えてサグメに言葉を発した。  その彼女の様子は、まさに、すばる同盟のメンバーを率いる主将にして、すばる王朝の次の国王になるにふさわしい雰囲気を周囲に漂わせていた。 「サグメ、覚悟しなさい!!」  勇ましき雰囲気を漂わせるタキリ。いとこのトヨタマを護衛役として傍らにつけ、火炎の剣をXや十の字形に振り回してサグメに攻撃を仕掛けた。 (うちは、あんたに負けるきがしないねん…)  サグメもまた、腰帯に忍ばせていた短めの槍を手に取り、目の前にいるタキリの火炎の鉄剣と武器を交えた。  サグメの槍は、鈍い鉄の大きな音を伴ってタキリの火炎を纏う鉄剣と交えた。  始めは、タキリの火炎の鉄剣と互角にわたりあえていた。  しかし、触れるたびに槍の刃先にひびが入り、ガラスが割れるかのように鈍い音を響かせて壊れ、一部は腰帯や腕・顔などに直撃した。  サグメの腰帯は、右斜めに切れており、玉袋の重みによって海に落ちた。  ついに、彼女はすべての武器を失い、槍のかけらの傷口の痛みからか、能力を使う余裕がなくなり、一気に劣勢にたたされた。  それとともに、 「タキリ・トヨタマ。へぼいんやから、大人しくヨモツ国の姫のうちに土下座して降伏するんやったら、シコメは殺さへんけとどうや?」  サグメもまた、劣勢にたたされている中で再びタキツの首を握りしめ、感情的にタキリたちを揺さぶろうと交渉を持ちかけた。 「サグメ。私は、あなたのようなあこぎなことしか出来ない人に土下座をする気はないわ」  タキリは、少し怒ったかのような表情を頬のキャンバスに描き出し、サグメの交渉を断った。 「敵、サグメは武器や能力を使えず、なすすべがなく弱っています。私が火縄銃を連射して敵を混乱させますので、兄様とタマヨリは手が離れた隙にシコメを助けてください。サグメは姫様と私とで取り押さえます」  トヨタマは、一時だけタキリたち一同の姿を見つめて間語で言葉を掛けた。  それは、サグメが劣勢となっている隙を狙い、タキツを助け出してサグメの身動きを取れなくする作戦の指示内容だった。 「トヨタマ。わかった」 「トヨタマ。うちとミカヅチでタキツのこと、助けたるわ」  ミカヅチとタマヨリは、タキリの言葉を耳にするなり、各々に決意めいた様子でトヨタマに語り返した。  二人は、同じすばるの天女・戦士の(えにし)で結ばれた仲間のタキツを悪しきヨモツのサグメから取り戻そうとする気概を心に抱かせていた。  トヨタマは素早くも手慣れた様子で弾を火縄銃に込め、サグメに照準に合わせて弾を連射した。  弾は、まっすぐな直線を描いてゆき、次々とサグメの身体の周りを打ち抜いた。  それには、 「あかん、あかんわ!? うち、すばる同盟のこと甘く見すぎたわな」  サグメもあたふたした様子で驚きの色を示し、頭の中に言葉を浮かばせた。  絶対に勝てると信じ、大黒ふ頭にて悪事を起こした彼女。  すばる同盟の一同をおびき寄せることに成功し、優位にたったものの、それを白い目で見下した故、痛い目にあってしまったことを心中で悔いた。 「サグメ、もうあなたは袋のねずみだわ。堪忍しなさい」  タキリは、明るき表情の中に勇ましさを宿らせたさまで、サグメの目の前にたち、言葉を掛けた。  目と鼻の先にいるタキリ姫。サグメがそそくさと逃げられないように自らの周囲にボール状の炎の壁を作り出していたのである。

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