天つ乙女と毛獣〜舞台は房総半島、天女となりしある少女の運命と絆の物語〜(#あまおと)

読了目安時間:8分

エピソード:38 / 149

【10】戦いの序章~さらわれし綾子・翔太

 さて、百合子たち一同は、道なりに足を歩ませ、予定通りに明治神宮の原宿口についた。  代々木の森といわれるこの場所には、かの明治天皇をまつる神社であり、竹下通りなどのある原宿から歩いてもそう遠くなく、身分証明書・拝観料などがいらず、手軽に入れることから近年では外国から来日した旅行客や若人向けのデートスポットとして認知されている場所である。  百合子たちは、いろいろな思いを心に抱いて足を運んできたであろう老若国籍男女を問わない人々で賑わいを見せる原宿口の天高くそびえ、俗世と神の世界との分かれ目となる大鳥居を打ちすぎ、明治神宮境内へと足を進めた。  鳥居から先の参道は、近隣を通る山手通りの車道と同じ縦横に列を成して並んでも多少の余裕を感じられる幅員かつ社方面向けて緩やかなアップダウンが続き、神聖な場所であるためか白色や灰色がかった砂利石がごろごろと敷き詰められていた。  参道の両脇には、萌黄の色からすがすがしい緑の色に移り変わりつつある代々木の森が広がり、さながら絵画の世界からそのまま出てきたと思えるような情景だった。  百合子・綾子・紗香・翔太ら四人は、この春らしい清々しさ漂う参道の景色を見てのびのびと楽しい気持ちに浸り、引き続きその先にある本殿に向け、すたすたと足を進ませた。  そうしているなり、百合子に付き添っていた翔太が進めていた足のペースを早め、ズボンの物入れに忍ばせていたカメラをさっと取り出した。  そして、 「あや姉。二年くらい一緒に写真撮っていなかったし、お姉ちゃんや豊玉さんと仲良くなれたから景色のいい所で記念写真でも撮ろうよ」  翔太は、道をふさぐ紅白のパイロットコーンのごとく綾子の前に立ち、手元にカメラを出した上で黒い穢れのない清らかな瞳と口調で声をかけた。  彼は、記念撮影をしたいと思ったため、綾子に近寄って声を掛けたようだ。  そのとき、綾子はふと進めていた足をとめ、腰から上をくの字に折らせてこう返した。 「翔ちゃん、写真を撮ったのは二年前のお台場以来していなかったわね。良い機会だから、私たち二人の写真と紗香ちゃんや百合子ちゃんも含めた四人の写真をそれぞれ撮りましょう」  綾子は、翔太に対してうんうんとうなづいて同意する仕草をしながら記憶を辿るようにぽつりぽつりと言葉を返した。  彼女は、胸の奥にちくちくとした痛みを覚え、しばらく翔太と記念写真を撮っていないのを悔い改め、この場にて写真を撮ることにしたのであった。  綾子は、百合子たちを写真撮影という名の渦に巻き込んできりきりと動き、カメラを託して撮ってもらえそうな人を探した。  しかし、時間のタイミングが悪いためなのか、百合子たちの周り50メートル付近とそれ以遠には、一人の女性しかいなかった。  なお、その女性は、国営系列の日本公共放送協会、KHKの朝のニュース・おはようございます日本に最近登場したばかりの鈴村奈々子アナウンサーに姿が似ており、胸の裏辺りの位置まで伸びる亜麻色の髪をゴムひもで整えて右肩に乗せて帽子を被っており、柔らかい色合いのサングラスをつけ、白のブラウスと空色のさわやかさ漂う出で立ちを身にまとっていた。  綾子は、翔太の手を引き、距離にして一〇メートル程度原宿口に寄った位置にいるブラウスとスカートを纏う女性に近寄った。 「すみません。このカメラで写真を撮ってもらえますか?」  綾子は、太陽を思わせる明るい喜色を顔の上に浮かべ、女性に対してカメラを見せつつ頼み込んだ。 「まぁ、いいですよ。」  ブラウスとスカートの出で立ちの女性は、はきはきとした元気さが感じられない小さな声とサングラスの下に見える表情で綾子に答えた。  ブラウスとスカートの彼女は、一〇年以上どこかの山の山林の奥に人知れず閉じこもり、人との接触のない環境で自由自適に研究をしてきたマッドサイエンティストな研究者をおもわせる態度で綾子に接していた。 「では、お願いします。」  翔太は、ゆったりとして余裕の感じられる足どりににこにことして癒されそうな面持ちを顔に表し、手元にあるカメラを女性に貸し渡した。  そのとき、紗香は、どういう訳かブラウスとスカートの出で立ちの女性を見つめていた。  それは、悪しきものがこの場にいて警戒するようなものであり、以前館山においてあめふり国の戦闘天女のトヨタマとして従姉のタキリ姫と協力し、ヨモツのハイドらと戦ったときと同じ眼差しであった。 「まずい、あの女性はヨモツのハイドが変装している。このままだと、連れ去られる」  紗香は、差し迫った空気をすべての五感を用いて嗅ぎ取り、何者かに背中を押されるかのようなテキパキとした速さで女性にするすると近寄った。  彼女は、そのとき、読書友達となった綾子、その彼女が実弟のように可愛がる翔太を女性に変装しているであろうハイドに明け渡したくないという気持ちを頭のなかにめぐらせていた。  それとともに、女性はまずいという雰囲気を察してか、借りたカメラを叢に捨てた。 「ヨモツ一の裏切り者のトヨタマ、ざまあみろ。こいつらは、人質として連れて行く。悔しければ、この森の奥にくるんだね」  女性は、自らの一メートル手前に迫っている紗香に何となくふてぶてしい面構えで言葉を放ち、弾らしきものを地面に打ち付けた。  彼女の投げた弾は、紗香の50センチ手前においてパンッという小さく破裂する音を立て、紗香や百合子のいる周囲100メートルほどを閃光の空間に変えていった。 「あぶない!!」  紗香は、とっさに声を張り上げて判断をし、身体をぴんっと伸ばして石畳みの面に伏せさせ、頭を首の方に丸めて光を見えないようにした。 「眩しい、痛い。一体、何が起きているの!?」  百合子は、周囲を海原のごとく満たす光を目に受けて針みたいにちくちくと目の奥にある網膜に痛みを覚えつつ、もそもそとした苦言の交じる言葉を口に出した。  彼女は、めまいを感じるほど眩しいと思ったか、利き手である右手に力を入れて持ち上げて左右の目に被せ、こちらもまたその光を遮った。  例の女性の放った発光弾らしき明光は、時計の針にして長い方の針が一目盛りの半分程度、すなわち時分に換算して2分30秒ほど続いた後、霧が晴れるようにして消えていった。  百合子は、明光が消えたのを見計らい、目の辺りに置いていた腕を下ろし、光によりちかちかとする目を右左と動かして見渡した。  手前五〇メートルには、砂利の敷かれた地面に伏せている紗香の姿があったものの、ブラウスとスカート姿の女性とそれに連れ去られそうになっていた綾子・翔太らの姿はすでになかった。 「紗香ちゃん。ああ、どうしよう。あこちゃんと翔太くんが連れ去られてしまったわ!?」  百合子は、心が太平洋の荒波に押し流されたかのような様子を浮かべて立ち尽くして紗香にしゃべりかけた。 「広瀬さん、あこちゃんたちを連れ去った女は、まだこの辺りにいるはずです。手遅れにならないうちに変身して追いかけましょう」  紗香は、意外なほど冷静な表情ながら余裕を感じさせるゆっくりとした口調で百合子に答えた。 「紗香ちゃん、わかったわ。さっそく、行きましょう。」  百合子は、もやもやとしたものが晴れてはっきりと納得したかのように頷いて紗香に語りかけていた。  百合子と紗香の二人は、ただちに綾子らを連れ去った女性の後を追うため、天女に姿を変えることにした。  はじめに、二人は、肩で風を切るかのようにして草むらに赴き、頭の上にもくもくとわきあがるすばる天女としての呪いを唱えた。  なお、その呪いは、凡人には聞こえない程度の小さくかすかな声で粛々と唱えられていた。  それから数え、30秒の時間が経過した。  一瞬、星の光を思わせる大きな閃光が彼女たちを包み込み、それぞれ和服に似た出で立ちの姿に変わった。  百合子は、茜色の羽衣と着衣をまとい、艶やかな首飾りや三枝にわかれた王冠を身に付け、手にてかてかとした輝きを放つくろがねの剣を構えた火炎の能力の使い手、天女のタキリ姫となった。  また、紗香は彼女とは色違い、真紅色の同じ出で立ちに鉢巻き状の冠を頭に付け、火縄銃を用いた空戦(空の上における戦闘)に持ち味のある天女トヨタマとなった。  その二人の佇む姿は、まるでこの神宮を穢れのあるものから守る女神をも思わせるものであった。  そして、タキリ姫は、右手に握られたくろがねの剣を空高くのばし、気持ちを落ち着かせるため、まぶたを閉じ時間をかけてゆっくり深呼吸をした。  トヨタマもまたタキリ姫に同調し、気持ちを落ち着かせて深呼吸をするべく目をつぶった。 「トヨタマ、あこちゃんたちを助けに行こう」  タキリ姫は、心の状態が落ち着いたのを見計らい、閉じていたまぶたをぱっと開け、トヨタマに対して話しかけた。 「タキリ姫様、分かりました。いきましょう」  トヨタマは、いつでも戦いに臨めるようにすべく両手で火縄銃を構え、目をパッと明けて生真面目さ漂わせる素直な表情でタキリ姫に同意し答えた。  そのトヨタマの様子は、主君に忠義を尽くす従者を思わせる様子を漂わせていた。  言葉を交わし合ったタキリ姫・トヨタマの二人は、ゆるやかな弧を描く羽衣を用いて身体をふわふわと浮かせ、空の上に向けて伸びる雑木林をかきわけて進んでいった。  そう、2人にとって他の者に付け替えることの出来ない大切な(綾子・翔太)を助けるために。

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