ストーリービルダーズ7

読了目安時間:4分

エピソード:9 / 20

選択肢:まずは飲み物を片手に語らっていこう。 90%

デビュタントボール

 ダンスパーティーの日がやってきた。  カルアメルは朝から不安と緊張で胃の辺りが重いような、なんともいえない気持ち悪さを感じていた。それでも自分の目的のため、気力を振り絞って準備を進める。 (落ち着きなさいカルアメル、今のマルティン王子はまだ何もしていないのよ。国王殺害の犯人とも限らない)  そう心の中で自分に言い聞かせ、カルアメルはパーティーでジムライト公爵と顔を合わせることなくマルティン王子に接触する計画の予行をしていた。  ダンスパーティーには、宮廷で行われる格式の高い宮廷舞踏会や仮面をつけて正体を隠す仮面舞踏会など、いくつか種類がある。カルアメルは仮面舞踏会にして欲しいと思ったが、ドネープ侯爵はデビュタントボールとも呼ばれる、若い女性が社交界デビューをするための舞踏会を開いた。カルアメルの社交界デビューなので当然と言えば当然のことだ。デビュタントとはデビューする若い女性のことで、ダンスのパートナーとなる男性はエスコートと呼ばれる。よく「エスコートする」と言われるのがこれで、意味としては女性の護衛役になる。  この場合、エスコートをする男性が将来の夫候補ということだ。なのでカルアメルの個人的な気持ちとしてはジムライト公爵にエスコートしてもらいたいところだが、そういうわけにもいかない。そもそもこの時点で出会ったら公爵の方がカルアメルのことを気に入るとは限らないという恐怖があった。 「カルアメル様、お時間です」  よくあるデビュタントボールでは、デビュタントとして登場する女性は一人だけではない。同じように社交界デビューをする女性が数人~数十人と集まって行われる。日本で言うところの成人式をハイ・ソサエティ式に行うもの、というのがこのダンスパーティーだ。なので、今回のデビュタントもカルアメル一人だけではなかった。本来なら決まった時期に行うものを急に開催したにも関わらず、近隣の貴族令嬢が十人近く参加している。これはマルティン王子やジムライト公爵といった大物が呼ばれる会だからと、どこの貴族も全力で日程を合わせてきたのだ。令嬢達の親は、ビッグチャンスを与えてくれたことに感謝する者ばかりである。急なことなので参加者の総勢二十名と規模の小さなものになったが、参加する面子は宮廷舞踏会を思わせるほどに豪華だ。人数が少ないからこそ、チャンスも大きいのだ。間違いなく全員が王子と顔見知りになれる。これは彼女達の今後の人生において、とてつもないアドバンテージになる。 「わかったわ、すぐに行きましょう」  白の長手袋を装着しながら答えるカルアメルは、デビュタントの正装である純白のドレスに身を包んでいる。これは町でオーダーしたものだ。アンナの機転でデビュタント用のドレスを用意することができた。実はドネープ侯爵がこの日のために用意していたものもあるのだが、裁縫ギルドにオーダーした話を聞いてそっと倉庫に格納していた。  そんなわけでデビュタントボールが始まり、カルアメルはマルティン王子に接触するためドリンクのグラスを手にしていた。さすがにマルティン王子は人気で、多くのデビュタントが彼の近くに集まり、パートナーとして指定されるのを待っている。カルアメルの知るデビュタントボールとはまるで違う様相だ。まさか貴族の令嬢達がここまでガツガツと積極的に動くとは思っていなかったので、マルティン王子と語らうために近づくのは容易ではなかった。計画が上手くいかずに困っていると、一人の男性から声がかかる。 「初めまして、レディー。よろしければ私と踊っていただけませんか」  声を聞いた瞬間、カルアメルの背筋に電撃が走るような感覚があった。この声は何度生まれ変わろうとも忘れやしない。 「ジムライト様!」  しまった、と思った。マルティン王子に気を取られて、ここで会ってはいけないと思っていた相手の姿が視界に入っていなかったのだ。そして、自分が思っていた以上にこの邂逅を嬉しく感じてしまっている。涙があふれそうになるのを、首に力を入れてこらえた。 「おや、カルアメル様が私のことをご存知だったとは、嬉しいですね。どうでしょう、私の誘いを受けてくださいますか」  柔らかな笑みを浮かべて、長身の公爵が手を差し伸べる。優雅な立ち振る舞い、煌く金髪、吸い込まれるようなグレーの瞳。ここで断るのは不自然、というような打算も浮かぶいとますらなく、流れるように彼の手を取っていた。  しばらく、カルアメルには夢のような時間が流れる。計画は完全に失敗してしまったが、そんなことはどうでも良くなるぐらいに、愛しい人と踊る一時は至福の時間となっていた。マルティン王子の周りに集まっていた女性達は、うっとりした顔で公爵と踊るカルアメルの姿に羨望の眼差しを送っている。当のマルティン王子は次々と相手を変えてダンスをしているが、その誰とも多くの言葉を交わさず事務的な態度でパーティーの時間を過ごしていた。 「まあ、なんて楽しそうに公爵閣下と踊っているのかしら」 「うむ、カルアメルの印象を閣下に聞いてみるとしよう」  ドネープ侯爵とスクルード夫人は、満面の笑みで娘の幸せそうな姿を眺めるのだった。  ここで質問だ。マルティン王子と接触できなかったカルアメルは次にどう動く?

次の行動
  • まずは薬学の勉強に集中する。

    22%

  • アネモネのことをジムライト公爵に聞いてみる。

    33%

  • パーティー参加者に町で聞いた貴族の女性がいたか確認する。

    22%

  • マルティン王子が事務的な態度だったことについて、アンナに理由を調べてもらう。

    22%

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