プリンセス・フィスト 〜サフィア姫のわくわく覇王ランド建国記〜

読了目安時間:5分

エピソード:17 / 21

意地の女

 メジュームの大通り、噴水の広場に剣戟の高音が楽器じみて響き渡る。  かたや必死の形相で攻めに回り、かたや涼しい顔をして受けをこなす。  その攻防は表情こそ変わらないものの立場において数度の入れ替わりを経て、なお続いていた。 「フフフ、まさか魔剣プリムスターに続き邪槍ピュアフィアー、ネフトの破刃剣まで弾かれてしまうとはね!」  正直に言えば目の前の悪魔は戦士としては弱い。  身体能力自体は普通の人間よりはあるようだが、武器の扱いにおいては素人に毛が生えたようなものだ。  だが、武器を捨てる前提で扱い、いくら弾かれても気にする素振りも見せないというのは異質で対応しづらい。  今も三本のコレクションが地面に転がっているというのに気にせず四本目を振り回している。 「狂棍ラージャのお味はどうかね!」 「いくら武器が良くても、それを扱うものが三流ではなッ!」  メイスの先端重量を活かした大振りの一撃、しかしわかりやすく振りかぶっては軌道も読めてしまう。  何合かの打ち合いの後、体捌きによるフェイントにひっかかったイデスが間合いを誤り、私ではなく地面を派手に砕きながらも頭を差し出す姿勢で隙を晒す。  そこを狙い、水の魔力を強めつつ大上段からの斬撃を放った。  普通であればそこで決着する流れだ。  だが、目の前の相手が一筋縄ではいかない事はよくわかっている。 「……そっちかッ!」  殺気を感じ、咄嗟に剣の振りよりも身の捩りを優先する。  脇腹を掠めていく殺気の正体。 「ピュアナンタラ!」 「邪槍ピュアフィアーだとも」  先程まで石畳の上に転がっていたはずの槍がひとりでに動き、こちらを攻撃した。  で、あれば。 「武器を操るとはまた、厄介な能力を……」 「生憎、私は運動が得意ではないのでね!」  魔剣と短剣が同時に浮き上がり、こちらへ切っ先を向ける。  二本の業物は同時にスタートダッシュを切り、恐ろしい速度でこちらへと迫る。  咄嗟に左側の魔剣と自分の間に水の壁を作り出すが、当然ながら強度が足りずに貫かれる。 「一瞬でも、時間差が出来ればいい!」  飛来する短剣を上半身の反りによって間一髪で躱す。  数瞬遅れて来た魔剣は身体の反りをバネのように活かした斬撃を以って下へと叩き落とした。  そうして再び肉薄するチャンスを作り出し前へ出ようとすれば、槍を投げんと構えるイデスが不敵に笑ってみせる。 「私は語りたがりでね……  この邪槍には恐ろしい毒の能力があるのだよ」  その言葉が鍵となったのか、一瞬視界がズレるような感覚に襲われる。  一瞬で襲い来る寒気と痛み、だがまだ動ける。  そのまま前へ出れば、投げつけられる槍を屈んで躱す。 「いいのかね、激しく動けば毒の周りは早くなる……  そうだな、数分で動けなくなるだろうか」  構わない。  その意思を剣に込めれば、右腕による槍投げの動きを前振りとした左からのメイスを立ち上がりざまに弾き返す。  そうして大上段から斬りつけようとした所で、再びイデスの手に武器が現れる。 「本来ならば不意打ちに使ったほうが強い能力なのだがね……  君と私ほどの実力差があっては防戦一方にならざるを得ないようだ」  今度は反りのある刃が特徴な細身の片刃剣。  名前を言っていないのでわからないがこれも恐らくは魔剣とかその類なのだろう。  問題はそこではなく、イデスの能力とコレクションによりキリがないほど武器が出てくる所だ。  防がれた事でカトラスが跳ね上がる勢いを利用し後方へ跳躍、迫って来ていたらしいプリナンタラを躱しつつ距離を取る。  その着地の瞬間、地面に着いた足首から力が抜ける感覚に思わず膝を折る。 「妖刀浅瞑まで使わされた……が、君もそろそろ辛くなってきただろう。  私はまだまだコレクションを残しているし、同時に扱う事も出来る。  私は寛大なのでね、今なら目の前で回復に専念しているのを見逃してあげようじゃあないか」  しつこく譲歩をして来るのは戦闘に対する自信の無さだろう。  そして何かしらのブラフの可能性もある。  毒とは言ったが、単なる毒性であれば水の魔力によって治癒する事は可能だ。  だがコレを取り除く事は出来ていない、せいぜいが毒に干渉するのではなく身体の方を強くして毒の進行を遅らせるくらいしか効果がないのだ。  そしてヤツは「毒がある」ではなく「毒の能力がある」と言った。  となれば、ピュアフィアーとかいう名前からして恐怖や思い込みを実体化させる能力の可能性も── 「言っておくがコレはマジな毒である、私も誤って刃を触った時は3日ほど寝込んだ」  ダメかー。  なんか切っ先から毒液っぽいの垂れてるし、私の水で癒せないのは単に高位の毒だからなのだろう。  そう考え込む間に水の魔力を練り上げていく。 「……回復に集中するつもりかな?」  答えの代わりにカトラスを鞘に納める。  それを見て安心したか、武器を次々と手元へと集め始めた。 「返事くらいし給えよ……目まで瞑って、そこまで毒が辛いという事かね?  まあいい、これで私は妹の所に行かせてもら──」 「行かせないぞ」  言葉と共にカトラスを握る手に力を込める。  それを見てイデスは武器を次々にこちらへと投射して来る。  レイピア、短槍、短剣、メイス、刀。  どれも只者ではない力を秘めているのだろう。  だが、使いこなせていないのならば単なる武器だ。  だから私は剣を抜き、振るった。  使いこなす為に血の滲むような修行を積んだ剣と技、その名は── 「海賊奥義ッ!  大・海・ざぁ──んッ!」  剣に込められた魔力が爆発するように膨れ上がり、水の刀身を形作る。  それは巨大な斬り上げとなり、使い手のない武器では拮抗すら許さず、イデス諸共宙へと跳ね上げた。 「完全に私の慢心であった……が、悪魔的にはこう言うべきだろう!  ば、馬鹿なあああああ────ッ!」  イデスは斬撃の奔流に呑まれ、ただでさえ面積の小さな服を散らしながらも何処か余裕なのか、それとも真剣に馬鹿なのか判断のつかないセリフと共に空中で気を失う。  水の斬撃の跡に残った虹をバックに、頭から着地しついには動かなくなった。 「私の……勝ちだ──ッ!」  残心の後、カトラスを天高く掲げ勝利を宣言すると、周囲の市民から歓声が上がる。 「そういえば居たな」とか「今の一撃大丈夫だったのかな」とか考えているうちに、毒が回ったらしく前のめりに倒れこむ。  これでは両倒れだが、作戦とやらを止められたのならこちらの勝ちという事でいいんじゃあないだろうか。 「お頭ぁ!」 「お見事でしたッ!」 「誰か薬持ってるヤツはいねェですかよッ!?」  勝利を噛み締めながらも思い思いの事を叫びながら自分の元に部下達の声を聞き、安心して意識を手放すのだった。

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