プリンセス・フィスト 〜サフィア姫のわくわく覇王ランド建国記〜

読了目安時間:9分

エピソード:4 / 21

第1章 おてんば姫の亡命

エクストリーム姉妹喧嘩-序章編-

 よく晴れた日の事だ。  石畳の路地には露店が並び、人々の声が街に賑わいを見せている。  そんな中、一際目立つ声があった。  ハスキーかつ、やたらとハキハキした声の持ち主は遠慮というものを知らぬかのように声を上げ、  店主はそれを困惑しながら見つめる事しか出来ない。 「ん〜〜っ!   トカゲって聞いてたからてっきり珍味系かと思ったけど、かなり肉締まってるし辛味もあってイケるじゃない!   ねぇ店主! これうちに卸してみない!?」  口の端に肉片をつけたまま興奮気味にまくし立てる声の持ち主はフード付きの外套を被っていたが、フードから出ている二房に分かれた金の髪やよく通る声、そして短絡的な言動は喧騒の中ですら目立っていた。 「いやあ、べっぴんさんに好いてもらえるのは嬉しいけどねぇ……  こういうゲテモノはたまにしか獲れないからそういう取引は難しいんだよ」 「えー、夕食で野菜じゃなくてこれ出れば完璧だったんだけどなー……」  そう言って引き下がるフリをして色々と理不尽な思考を重ねていると、外套の少女と肩をぶつける影がある。  禿頭や傷だらけの顔、筋骨隆々の上半身を惜しげもなく晒し、腰に棍棒を提げる姿にならず者というイメージを抱く者は少なくないだろう。 「邪魔だ嬢ちゃん!  おい店主、フレアリザードの姿焼きくれ!」 「悪いね、品切れなんだよ」 「ああ!? あの嬢ちゃんには出してんだろうが!」  そう言って指差しながら外套の少女を指差せば、その小脇には紙袋が抱えられていて、  そこから飛び出ている串の数は8本。 「このガキ……買い占めんじゃねえよ!」 「仕方ないじゃない!  私の分とルビリスにメイコ、父さんと母さんの分でしょ?  あと私の分と師匠、それに私の分で最低でも8本必要なんだから!」 「自分で食い過ぎだろ!?」  そう言いながら左足を下げ腰の棍棒に手をかける。  いつでもこれを振るう事が出来るのだ、という体勢を見せつける事による脅しだ。 「なあ嬢ちゃん……フレアリザードはな……精力剤としても使われるんだよ……  俺はこの後、裏通りの娼館でしっぽり癒してもらうんだ……だから俺に分けてくれよ、なぁ……」 「つまりコレ無いと勃たないって事?  オトコって大変なのねー」 「テメエ……言っちゃならねえ事を!」  脅すだけのつもりだったのだろうが、地雷を踏まれたならず者が棍棒を振り上げる。  遠巻きから言い争いを眺めていた者も、争いには気付かなかったが棍棒を目にした者も、一様に外套の少女が棍棒の餌食になる様を想像し、その凄惨な光景に思わず悲鳴を上げる。  それに構う様子も無く、少女はただ身を揺らした。 「別に譲らないって言ってるわけじゃないんだけど……ま、仕方ないか」  直後、衝撃が周囲を走り露店を揺らした。  棍棒は振り上げられたまま、しかし数秒の後に力無く地面に落ちカラカラと音を立てる。  ならず者の腹には後ろ回し蹴りで叩きつけられた少女の踵が突き刺さり、遅れて反応した身体が胃液を口から吐き出し少女の外套のフードを濡らした。 「あーあー、安物だけど結構気に入ってたのに」  そう言って外套を脱いだ少女の瞳は蒼く。  その性格によく似た我儘な体つきを隠すつもりもない、黒く伸縮性のあるインナー。  それと青い上着によって上半身を覆いつつも肩や臍、大きく膨らんだ胸元を露出した装束。  ぴっちりと張り付いたスパッツに、足癖の悪さによってロクに機能していないスカートまで見ればこの国の住人ならば皆がピンと来るだろう。 「姫様……?」 「サフィア姫!」 「姫様だ!」  市場の人々が皆揃って声を上げる。  姫と呼ばれた少女──サフィア=プリムラ=メリーベルはそれに頬を掻きながら、ばつの悪そうな顔で、しかし手を振って応える。 「姫様ー! 目線、目線こっちにぃー!」 「サフィア姫、ひめっ、ヒヒィーッ!」 「性格最悪顔最高──!」 「何なのよこいつら!?」  そんな風にして民衆が騒いでいれば、当然兵士が駆けてくる。  そしてその先頭から同じくらいの歳の少女が半ば涙目で姫目掛け駆け寄って来た。 「ザブィアざまぁ……!」 「メイコ!」 「探したんですよぉ……勉強の時間抜け出して……ひっく、わだしが監視役だから……ぐすっ……」 「ごめんごめん、私ってルビリスと違ってアウトドア派だからさぁ」 「そんな事言って……国王様からも怒られちゃいますよ」  メイコと呼ばれた、背丈では大幅に姫より小さい侍女が自らの服の裾が汚れるのも構わず涙や体液を拭うと、ならず者やその場の処理を兵士に任せ姫の手を引いて歩き出した。  ●  メリーベル城内、メイコに手を引かれながらしぶしぶと言った様子でサフィアが歩いていく。  本来はお仕置きを受けても不思議ではない立場なはずのサフィアが「仕方ないわね」といった表情なのが二人の関係性を表していた。 「って言ってもさぁ、私が魔法勉強しても仕方なくない?」 「もう、妹のルビリス様は真面目に勉強してるんですよ」 「だって、全部殴ればそれで──」  そんな他愛ない会話の最中、王城の雰囲気が一変した。  例えるならば足元すら確かで無くなったと言うべきか。  絨毯の上を歩いているはずなのに、大蛇の口の中にいるかのような違和感を覚える。  無論、日常的にこんな事が起きるようなエキサイティングな城ではない、異変だ。 「ひ、ひひひひ姫様……い、いいいい一体何がががががが」 「しっ、私が行く。  メイコはどっか隠れてなさい」  本来であれば侍女は姫を守るべきものなのだろう。  年齢で言ってもメイコのほうが一つ上だ。  だが、サフィアが行くべき理由がある。  ──だって私、強いもの!  その理由を胸に、異界と混じり合うかのような変貌を遂げつつある絨毯の上を疾駆する。  あっという間にメイコを置き去りにしつつ、異様な「気」の発生源を辿る。  王族は生まれつき魔力の貯蔵量が多い、というより多かった者が氏族を統べ王となり血を紡いできた。  そして魔力は探知にも使われる、本来はその為に術式を組んだりする必要があるのだが、高い魔力量とセンスを持つ人間ならば、魔力の流れを直接視る事が出来るのだ。 「あっちは……父さんの寝室よね……?」  その流れを辿り走って行くと、禍々しい魔力はどんどんと濃くなっていく。  そうして発生源と思われる部屋の扉を蹴り開けると、そこにはやはりと言うべきか異様な光景が広がっていた。 「──ああ、姉さん……遅かったですね?  もしかして、また街に出てました?」  そう、まるで何事もないかのように出迎えるのは双子の妹であるルビリスだ。  双子でありながら理知的かつインドア派と性質は真逆、しかし容姿は胸以外はほぼ同じという事で国内外からも愛された美しき姫姉妹……だったのだが。 「銀髪になんて染めちゃって……随分急なイメチェンね?」  言葉の上では軽口を叩くものの、身体は緊張を隠せない。  ルビリスのいつになく着飾ったドレス姿はともかく、嵌めている腕輪が問題なのだ。  どこから持って来たのかはわからないがそれこそが禍々しい魔力の発生源であった。 「髪……ああ、魔力の影響ですかね?  それより……姉さん、僕は魔王になる事にしたんです」 「はぁ……そんな事言うようなトシだったかしら、今ならまだ戻ってこれるわよ」  ルビリスはその説得の言葉に対し、小さな笑いを漏らす。  それは楽しいというより、馬鹿にした時のそれだ。 「今なら?  これを見てもそう言えますかね?」  ルビリスが手をかざす動作に呼応し、天蓋のついたベッドのカーテンが開く。  そこに積み上げられたものを見て、サフィアの顔に戦慄の色が浮かんだ。 「父さん、母さん!?」 「そう、父さんも母さんもこのアーティファクト『混沌の磔』を起動する為の生贄になったんです……」  父と母の死体を前に腕輪を掲げてみせる様は  少し前の、いつも自信なさげにサフィアの後ろを歩き、父と母に甘えてしょっちゅう泣いていたルビリスを見ていた身としてはとてもではないが信じがたい光景だった。 「……なんだか失礼な事考えてないですか?」 「……そんな余裕ある状況じゃないわよ」 「そうは言っても、姉さんだしなあ……」  サフィアが目を逸らしながら答えるとルビリスは困った姉をたしなめるような軽い雰囲気に紛れて、軽く指を鳴らす。  たったそれだけで周囲を戒めるようにして黒い光の輪が生み出される。  即座に反応し、飛び退いたにも関わらずターゲットを追うようにしながらその半径を縮める光輪は実体を以って腕を絡めとり胴体に縛り付ける。 「ぐ──、この、随分締め付けるわね……」 「だって姉さんはこうでもしないと大人しくならないでしょう?」 「ぐぎぎぎぎぎぎぎ、ぎいッ!」  黒い光輪が内側からの力に耐えられず弾け飛び、細かく散った光のカケラが存在出来なくなって消えていく。  全身からの魔力放出と身体強化による力技。  それを以って拘束を解く様を見たルビリスは驚愕に目を見開き、しかしまたも不敵に笑ってみせる。 「く、くくく……っ!  姉さんはそういう人でしたよね!  裏で何て言われてたか教えてあげましょうか、このマジカルゴリラ!」 「表でもわりと言われてたから気にしなくていいわよ……ッ!」  勢いよく踏み込めば身体が砲弾じみて地から撃ち出される。  しかし、振りかぶった拳が届く前に指を鳴らす音が二回響き、今度は黒い光輪によって肩と臍上あたり、奇しくも胸を強調するようにして二重に拘束されてしまう。 そのまま地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべるもルビリスがそれに構う様子はない。 「もう……びっくりさせないでくださいよ」  そう笑いつつも地味に脂汗を流しながら余裕ぶる妹を前に、簡単には壊せない事を悟ったサフィアはようやく大人しくなる。  しかし態度は横柄なままで、よく回る口も変わらない。 「……で、何が目的なの?」 「そうですね……色々あって長くなるので、まずは目障りな姉さんを片付けるとしましょうか」  またも勢いよく指を鳴らす。  今度は黒い光輪ではなく、転移魔術の行使らしく光と共に現れる人影がある。 「お呼びでこざいますか、ルビリス様」 「うん、とりあえず姉さんを牢に放っておいてほしいんだ。  お願いできるかな、ラチア」 「かしこまりました」  吊り気味の紅瞳に黒い長髪、漆黒の侍女服。  一分の隙もない佇まいは冷静沈着そのものな口ぶりからも伺えるだろうか。  女性としては長身であるサフィアよりも目線はさらに高く、纏う雰囲気は剣のよう。 「師匠……グルだったわけ……?」 「私は王として相応しい方に仕えるまでの事。  これまではサフィア様で、これからはルビリス様というだけでございます」  ラチアは姉妹にとって乳母であり侍女であり、礼儀作法と同じくらいに戦闘技術を叩き込まれた師匠だった。 「王として相応しい……ね、本気で言ってる?」 「私が嘘を吐いた事がございますか?」 「山程」  ラチアのふざけた問いにノータイムで答えれば、こちらが動けないのをいいことに両手を膝のあたりに当てて息を吸い込む。 「……逆向きにへし折ってもいいのですよ」 「ラチアのヤなとこはそういう所なんだってば!」  恐ろしいほどのスパルタ教育を思い出し身震いしつつも肩に担がれる。  ジタバタ暴れればどうなるかわかったものではないので大人しく従っておくことにした。 「ルビリス!」 「話なら牢で聞きますよ、まぁ後でお菓子の一つでも持って行かせますから」 「────絶ッッッッ対に後悔するわよ」 「望む所です」  その言葉を最後に、父の部屋だった魔境の扉は閉ざされたのだった。

深いことは何も考えずに書きました。 深いことは何も考えずに読んでいただけると幸いです。

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