ギルドマスターをやっていた整備士だが、ギルドを追放されてしまったので、また一から作ろうと思う。

読了目安時間:5分

第11話 トワイライト

「……ふぅ、ようやく終わったな。」  ロルフは綺麗になった部屋を見回して、満足げに頷いた。  椅子やテーブルを並べてカウンターを作り、その隣には倉庫にあったギルドボードを配置してある。  窓から差し込む夕日が、それらを茜色に染めていた。 「わぁ……。ここが私の……新しいギルド。」 「キュイ!」  うるうるとするエトの頭の上で、シロが鳴いた。 「あは、ごめんね、私たちの、だね。」 「キュ~。」 「はは。ありがとうな、エト。俺だけだったら一週間はかかってたよ。」 「えへへ、私、お掃除だけは得意なんですよ。」  どや! と胸を張る姿が可愛くて、つい噴き出してしまう。  自慢の内容がやや後ろ向きなのは、相変わらずだ。 「いやいや、お前はクエストをするのが仕事なんだからな? そっちでも期待してるぞ。」 「あ……っ。えへへ。」  エトは照れくさそうに笑った。  そんなとき、家の玄関が叩かれる音が聞こえた。 「あれ、ロルフさん、来客ですか?」 「ああ。これは、タイミングばっちりかも知れないな。ちょっと待っててくれ。」  エトを居間に待たせ、玄関に向かう。  扉を開けると、そこにはスーツ姿に眼鏡をかけた、長身の女性が立っていた。  脇にはクリップボードを抱えており、いかに仕事が出来そうな印象を受ける。 「ギルド協会です。拠点視察に参りました。」  その女性は、毅然した態度でそう言った後、すぐに柔らかな表情になった。 「……なんて。お久しぶりです、ロルフさん。」 「驚いたな、エリカさんが直接来るなんて。視察ってのは、意外と厳しいのかな?」  エリカは、ギルド協会のまとめ役、所長をやっている。  最初はその若さに反発する人もいたようで、馴染めるように少し手助けをしたこともあるが、今や有無を言わせない有能ぶりで組織をまとめ上げている。  当然、ギルドマスターだった自分も、色々とお世話になった相手だ。 「ふふ。ロルフさんなら、視察なんてしなくても通しますよ。ただの世間話の口実です。」 「はは、それはありがたいな。」 「……みんな、心配してますよ。ロルフさんが、無理やり辞めさせられたんじゃないか……って。」 「……。」  思わず、言葉に詰まってしまった。  それを察してか、エリカが言葉を重ねる。 「深くは、聞かないでおきます。でも、ギルド協会の多くの人は、ロルフさんを慕っていますから。それだけは、覚えておいてくださいね。」 「……ああ、ありがとう。エリカさん。」  彼女の笑顔は、目に染みた。 +++  だ、誰だろう。  大人な感じの、きれいな人……。  エトは物陰に隠れて玄関を見ていた。  女性はロルフの知り合いのようで、すごく親しそうに話している。  二人は玄関口で少し喋った後、中に入ってきた。  慌てて席に座る。 「うん、思ったよりちゃんとしてますね。ロルフさんは、お掃除とか苦手なイメージだったんですけど。」 「はは……痛いところを突くね。実はほとんど手伝ってもらったんだ。」  ロルフはそういって、エトのほうを手で示した。 「紹介するよ、新しいギルドメンバーの、エトだ。その上にのってるのはシロ。こちらは、ギルド協会のエリカさんだ。」 「は、はじめましてっ!」 「キュゥ。」 「ふふ、よろしくね。エトさん。シロちゃん。」  なんだ、協会の知り合いの人だったんだ。  エトはほっと胸をなでおろした。  その様子を見て、エリカはすすっとエトの方に寄ってきた。  そのまま小声で話しかけてくる。 「ロルフさん、ちょっと常識がずれてるとこがあるから……サポートしてあげてね。」 「は、はは……そうですね。それはもうけっこう、身に染みています……。」  思わず苦笑いしてしまう。  今日一日だけでも、いくつあったことやら。 「でも、すごくいい人だから。きっと知ってると思うけど、ね。」 「そ、そうですよね! ロルフさん本当に親切で、優しくって――」 「おーい、二人で何の話をしてるんだ?」  ロルフが近づいてきたので、エトは思わず口を塞いだ。  そんなエトの耳元に近づいて、エリカは一言だけ囁いた。 「がんばってね。」 「へ……っ?」  エリカはさっとロルフに向き直り、にこりと笑った。 「ふふ、ギルドの話ですよ。ね、エトさん。」  エトは慌ててこくこくと頷く。  ロルフは首をかしげたが、すぐにエリカが言葉を重ねた。 「それで、新しいギルドの名前は、何にするんですか?」 「ギルドの……?」 「名前……?」 「キュィ?」  ロルフとエトは、思わず顔を合わせた。ついでにシロも。  そう、ギルドには、名前が必要だったのだ。 「……その様子だと、決めてなかったみたいですね。」  エリカが呆れ笑いを浮かべている。 「しまった、完全に忘れていたな……。エト、何かいい案ないか……?」 「え、ええ?! そんな急に言われても……!!」  ギルドの名前なんて、そんな大切なもの――  そう考えた時、ふと、一つの光景が脳裏に浮かんだ。  それはエトにとって、新しいギルドの始まりの景色だった。 「……トワイライト……なんて、どうでしょう。」 「トワイライト――『黄昏』、か。」  ロルフは、なるほど、というように、周囲を見回した。  先ほどよりも深くなった夕日が、ギルドの内装を赤く照らしている。  まさに、『黄昏のギルド』という光景だった。 「うん、いいな。よし、ギルドの名前は『トワイライト』だ。」 「ふふ、いい名前ですね。ではそれで、登録しておきます。」  エリカは手際よく、書類に書き込んだ。  私の『トワイライト』は、この光景では無いのだけど――  そのことは、今は黙っていよう。  エトはロルフの横顔を見て、くすりと笑った。  それからしばらく、三人で他愛のない話をして過ごした。  あっという間に時間は過ぎ、気づいたときには、外は真っ暗になっていた。 「それじゃ、今日はこれで失礼しますね。またお邪魔させてください。」 「ああ、前ほど忙しくないからな。いつでも遊びに来てくれ。」 「あの、次はお茶とか、お菓子とか、用意しますね!」 「キューイ!」  二人と一匹の見送りに手を振り、エリカは協会に戻っていった。 「ええと、じゃあ私もそろそろ、宿に戻りますね。」 「ん? エトは、ギルドハウスに泊っていくだろう?」 「あ、はい、私はギルドハウスに――」  え? 「うん、そうだよな。シロを連れて宿には泊まれないだろうし。」 「あ……っ!」 「キュゥ?」  たしかに、そのことをすっかり忘れていた。  基本的に宿屋は動物の持ち込みは禁止なのだ。  しかし、ギルドハウスに泊るということは―― 「で、でもここは、ロルフさんのお家でもあって……その、ご迷惑が……」 「はは、気にするな。部屋はたくさんあるしな。さ、戻るぞ。」  そう軽く笑って、ロルフは家に入っていった。  ――き、気には……  気には、するのでは――?!  エトは夜空にエリカを思い浮かべ、声もなく叫んだ。

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