ギルドマスターをやっていた整備士だが、ギルドを追放されてしまったので、また一から作ろうと思う。

読了目安時間:5分

第25話 忘れられた場所

 エトが目を開けると、そこはほとんど真っ暗だった。  先ほどの強い光を見た反動もあるのだろう。何度か瞬きをして、目を慣らそうと試みる。 「キューイ……。」  胸にしがみついたシロが、不安げな声を上げた。  どうやらあの時のまま、くっついていたようだ。  もう光ってはいないし、いつも通りのシロのようなので、少し安心する。  きっと突然暗くなって、この子も不安なのだろう。 「シロちゃん――」  励まそうと声をかけようとした瞬間、何かに後ろから、肩を掴まれた。 「ひ、ひゃぁっ?!」 「キュィイ?!」  悲鳴が部屋に反響する。  しかしその後に続いたのは、聞き慣れた声だった。 「ばっ……急に大声出すんじゃないわよ! 私よ私……!」 「リーシャちゃん……! びっくりしたぁ……。」 「それはこっちのセリフよ。突然明るくなったと思ったら、今度は真っ暗になっちゃうんだから……。怪我とかしてないわよね?」 「うん、大丈夫だよ。でも、何が起こったのかな……?」 「……とりあえず、明かりが必要ね。『ファイアトーチ』!」  リーシャが杖を振ると、杖の上に小さな火の玉が現れた。  二人の顔が、赤く照らし出される。 「わあ、リーシャちゃん、そんなこともできたんだ。」 「初級の魔法よ。まぁそんな燃費は良くないんだけど……私なら、結構もつわ。」  リーシャが火の玉をかざすと、部屋の中がぼんやりと見えてきた。  そこそこ大きめの部屋の中央に、大きな丸い台のようなものが置かれており、自分たちはその上に乗っているようだった。  少し離れた場所に大きな扉があり、その両脇には大きな像が立っている。扉は半分開いているのだが、その先は真っ暗で、ここからでは見ることができない。  壁や床の感じからして、遺跡の中であることは間違いなさそうなのだが……。 「……これ、絶対さっきまでの場所じゃないよね……?」 「そうね……何かの魔法で、移動したんだと思うんだけど……。」 「そ、そんな魔法、あるの?」 「わ、私だって聞いたことないわよ。でも現にこうなってるんだから、それ以外説明できないでしょ……?」  予想外の状況に、リーシャもかなり動揺しているようだった。  周囲は見えるようになったはものの、正直、分からないことだらけだ。  それに――。 「……ロルフさんは……いないね……。」 「そうね……ちょっと、離れてたからかしら。まったく、肝心な時に……。」  不満を漏らしてはいるが、リーシャもまずロルフの姿を探していたのは、明白だった。  不測の事態に、ロルフがいない。  そのことは、とても心許なく思えた。  こんな状況でも、博識なロルフなら、何かの推察ができただろう。  そして、打開策や、行動の指針を見つけ出してくれただろう。  そんな彼が――今は、いないのだ。 「……キュイ!」  気づくと、シロは目の前まで首を伸ばしていた。  その鳴き声は、まるで自分のことを励ましているようで。  その目は、まるで自分を応援してくれているかのようだった。 「シロちゃん……。」  そうだ。私は、一人じゃない。  今はリーシャちゃんも、シロちゃんもいる。  それに、私だって強くなったんだ。  いつまでも、ロルフさんに甘えてばかりじゃいられないよね。  エトは双剣を握る手を強く締め、大きく息を吐いた。 「よし、とりあえず、地上に出ようよ! そしたら、場所も分かるかもしれないし。」 「……そうね。ここでじっとしてるわけにも行かないし、ちゃちゃっと出ますか。」 「キューィ!」  リーシャの顔も、少し明るくなったように見える。  そう、暗い場所で暗くなっててもしょうがないのだ。  二人は丸い台を降り、目の前にある扉に向かって歩き出した。  この部屋にはその一つしか扉がないので、まずはこの部屋を出て、外がどうなってるのかを調べる必要がある。  幸いにも扉は半分開いているので、部屋を出るのは簡単そうだ。前に来た人がこじ開けていったのかもしれない。 「……ん?」 「どうかした? エト。」 「あ、ううん、足に何か……。」 「足?」  それは、扉の直前まで来たときだった。  足に大きめの石か、がれきが当たったのだが、なんとなく不思議な感じがしたので、つい足を止めてしまったのだ。  リーシャが足元に火の玉を向けると、それが何かはすぐに分かった。 「え……これ、魔石……?」 「嘘……そんな大きいの、見たこと無いわよ……。」  剣を置き、両手で拾い上げると、それは紛れもなく魔石だった。  ブラッドグリズリーのものに比べると、三倍はあるだろうか。明らかに異常な大きさだった。 「エト……これ……!」  さらにリーシャが床を照らす。  そこには、同じような魔石が、ごろごろと大量に転がっていた。 『ヒカリゴケは、探索が終わった目印として、冒険者が置いていくんだ。』  ロルフの言葉が、脳裏に蘇る。  そう、この遺跡は――真っ暗だった(・・・・・・)。 「リーシャちゃん……まさか、ここって、未探索の――」  不安と期待に、胸が高鳴る。  だが、その感情は、長くは続かなかった。 「?! エト、後ろ!!」 「……え?」  振り向くと同時に、自分の体が何かに弾き飛ばされる感覚。  次の瞬間には、エトの体は宙に浮いていた。 「か……はっ。」  そのまま、中央の台座の上に叩きつけられる。  体中に激痛が走る。リーシャが何かを叫んでいるようだが、うまく聞き取れない。  霞んだ視界の先に、扉の横にあった鉄の像が、腕を振るう姿が映った。  どうして、あんなものが。どうやって。  まるで考えが追いつかない。  巨像はその体躯に見合わない速度で動き、こちらに向かって跳躍した。 「――――!!」  リーシャの叫び声が聞こえる。  まるで、時間がゆっくりになったように、全ての動きが遅く見える。  でも、体は動かない。  意識も朦朧としている。  目の前に、小さな竜が飛び出した。  それは大きく翼を広げ、まるで何かを護るかのように、立ちはだかった。  次の瞬間。  轟音とともに、巨像を貫く、黒い巨大な稲妻。  大きく揺れる、視界。  その端で、小さな竜の体が、ゆっくりと落下していく。  何が起こったのか理解ができないまま、エトの意識は、光に溶けていった。

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