第五話:悲恋

 その日の夜、キースさんからの手紙を読んだ。自室の布団の上で、慎重に鋏を使い手紙の封を切る。少し不器用な字体が、万年筆らしき細身の筆で(したた)められていた。読み進めた私は、思わず目を見張った。 『もしまた会えたら、その時は春がいいなと思います。貴女とは、夏、秋、冬を一緒に過ごしました。だから再会の季節は春がいい。私は日本の春が好きです。特に桜は、初めて見た時とても感動しました。だから私は貴女と桜が見たい。桜の木の下にいる凛子さんは、きっと何よりも綺麗だと思います。』 『もしまた会えた時。タイプライターのIを、私に渡してください。貴女に再会するまで、あのタイプライターは絶対に捨てませんから。』  ――なんて、なんて酷い人。これは恋の呪いだった。それでも彼が好きだった。  夏に互いを知り、秋に想いを通わせ、冬に永久を願った。でも春だけは、共に過ごせなかった。私達は、春を越せなかった。そんな事実を今更理解してしまって、行き場の無い悲しみが私を蝕んだ。手紙を枕元に置いて、布団に包まる。自然と涙が溢れてきて、声を殺して泣いた。  キースさんと別れてから数日後、卒業まであと少しという日の事だった。――私の家、()いては私に。とある大地主から、縁談が申し込まれたのである。

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