亡霊 vs 亡霊

読了目安時間:4分

エピソード:2 / 2

嬉しくないと言えば嘘になる

 何とか平常心を取り戻したパスカルは再び家探しに戻った。 調べられる所は全て調べ、使えそうな物も残らず拾って使った。だが 状況は一向に好転しなかった。 「未だ外は大雨か……」 精根尽き果てたパスカルが棚にもたれかかった時、それは起きた。 「うわぁ!」 不意に棚が横に滑って、パスカルは盛大に転んだのである。 「あいたたた〜……って、え!?」 脱出ゲーム等で御約束の展開、家具の裏に隠し通路である。 「道理で全然分からなかった訳だ。畜生め」 起き上がったパスカルの前に、あの、目つきの悪い少年の亡霊が現れた。 一瞬で消えたと思うと、今度は少女の幽霊が現れた。 「怪我は無いわね。そのナイフを持って行くのよ」 見ると、足元には成金趣味丸出しの、金のグリップのナイフが2本落ちていた。 御丁寧に、ピンクの宝石まで埋め込まれている。 「見事に俺の趣味じゃないが、必要になるんだな。 何かと有難う、ブランディーヌ。一緒にユベールの悪事を終わらせよう」 初対面の筈のパスカルが何故か自分達の名前を知っていると 分かっても、少女は驚かなかった。 「あの日記を読んで知ったのね。なら話は早いわ。行く前に良い物 贈らないとね。えぇと……あなた、御名前は?」 「あぁ、すまない。名乗ってなかったか。俺はパスカルだ」  慌てて名乗ったパスカルの真横にブランディーヌは迫った。 「それでね、良い物とはこれ。別に珍しくないけどね」 不意にパスカルの左頬が暖かくなった。 「!?………………」 「幽霊は物に触れない筈だって? 一般的にはね。でも私は例外。 何でこうなったかは私も分からないけど」 小さい女の子、しかも幽霊の口付けとは夢にも思わなかった。 「一緒に頑張りましょ」 「え、あ、う、うん……」 嬉しくて恥ずかしい体験に、パスカルは心拍数の増加を体感した。  通路の奥には、鍵のかかった扉が有った。 「はい、これ」 どこでどうやって見つけたのか、ブランディーヌは銀色の鍵を持ってきた。 南京錠を開け、ドアノブに手を伸ばそうとした時、ブランディーヌは 慌ててパスカルの手を握った。 「待って。弟は今活性化しているわ。これを使って」 「あぁ、これが問題のテープレコーダーか」 「そうよ。私の歌が凄く大好きでね……っと、詳細は後で。 良い? 私がユベールの目に突き立てるから、パスカルは後ろから心臓を刺すのよ」 ブランディーヌの指示にパスカルは慌てた。 「ま、待ってくれ。俺に人殺しになれと?」 「何言っているの。私達はとうに死んでいるわよ」 「あ、そうだった。それでも気分の良いものじゃないな」 ここへ来て尻込みするパスカルの頭を、ブランディーヌは優しく撫でた。 「パスカルの頑張りが私と、多くの人を救うのよ。そう、これは聖戦」 「聖戦……ね。分かった。確かに野放しには出来ないな」 テープレコーダーを再生した数秒後、ブランディーヌの声で歌う アリランが流れ始めた。 「な、何なんだこの歌」 「何故か弟の1番のお気に入りよ。さぁ行くわよ!」 意を決して扉を開けた先に、ユベールの亡霊は居た。 日記の通り、音楽を聴いているのでじっとしていた。 「もう指図は必要無い筈よ。冷静に事を処理して」 「そうだ。これは聖戦だ。何も迷う必要は無い……!」 二人の共同作業は、遅滞無く行われ、ユベールは(くず)()れた。 直後、彼の体は塵となり、天へ昇っていった。 「よく頑張ったわね、パスカル。そして有難う。 御礼に、私はあなたの守護霊になるわ。生涯、あなたを 厄災から守り、信じ難い程の幸運を呼ぶから」 「守護霊? よく分からないけど、俺に実害が無いなら」 想定外の提案にパスカルはキョトンとした。だが、聞く限り 悪い話とは思えなかった。  外を見ると、雨は上がり、朝日が昇り始めていた。 「今日程朝日が美しいと思えたのは初めてだ」 パスカルの独り言をブランディーヌは聞き逃さず、大きく頷いた。  その後、ブランディーヌは約束通り、パスカルの為に尽力した。 妻の浮気と横領を暴いて賠償金を容赦無くふんだくり パスカルの上司の不正を暴いてクビに追いやったりと 正に獅子奮迅だった。こうして、パスカルが幸福になると 別の誰かが破滅した。幸い、破滅したのは全員悪事を働いた者だった。 「やり過ぎな気もするけど、確かに俺は酷い目に遭ってないし 好きにやらせておくか……」 斜め上を見上げるパスカルの顔を、ブランディーヌは覗き込んだ。 「パスカル、どうしたの?」 「え、いや、ブランディーヌよく働くんだなって」 「まぁねー。今日も忙しくなるわよ」 以前見たユベールの邪悪な笑みと違い、ブランディーヌの可愛い笑顔は 一見すると人畜無害に見えた。だが、パスカルは何となく分かった。 ーブランディーヌは筋金入りのヤンデレだ。

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