亡霊 vs 亡霊

読了目安時間:4分

エピソード:1 / 2

全2話構成です

入る家が悪過ぎた

 大雨が降る夜、1輌の自動車が走っていた。 「おのれ、糞上司。自分がミスした癖に」 車を運転していた会社員、パスカルは、この場に居ない直属の上司に悪態を突いた。 「まぁ、来週には常務と部長にも全部バレて死ぬ程怒られまくるだろうさ。 だけど、帰ったらマリーが無茶苦茶怒るだろうな……」 今頃寝ないで待っているであろう妻の、鬼の様な形相を思い浮かべると パスカルは、もう暫く残業しても良かったかも知れない気がしてきた。  自宅まで残り790mを切った辺りで、大きな異音がした。 「!?」 対処しようとした時にはもう遅く、車はスピンしつつ本道から逸れた。 「ひゃあ!」 どれ程回り続けただろうか。奇跡的に車は横転せずに止まった。 「……あれ?」 パスカルは違和感を覚えた。何故か車体の何処にも傷一つ付いてない。 「何が起きたんだ?……出張で日本に行った時、稲荷大明神を拝んだ結果……まさかな」 原理は謎だったが、深く考えず車のキーを回した。しかし、起動しなかった。 「畜生っ、あの糞ハゲデブアル中ゴミ上司がうちの部署に来て以来 何で何もかも上手くいかないんだ! あの疫病神……ん? 家?」 よく見ると、目の前には木造の小さな平屋が有った。古く見えたが 腐敗は見当たらなかった。 「しょうがない。助けを求めよう……って、真っ暗? 誰も居ないのか」 発電機にコードが挿さってないことから、この家は無人と分かった。 「これで良し」 発電機の電源を入れ、家に入ったパスカルは早速照明をつけた。その瞬間 半袖半パンの、目つきの悪い少年が邪悪な笑みを浮かべ現れた。 歳は8歳前後に見えた。だが、その冷酷な笑みは明らかに歳不相応だった。 「だ、誰だ!……って、居ない!?」 パスカルが二度見した時、少年の姿は消えていた。と思うと、今度は 先程の少年と同じ位の年齢の少女が現れた。 「今見えた悪霊は人殺しよ。気をつけて」 耳元で小声でそれだけ言うと、少女もまた煙の様に消えた。 「ど、どう見ても幽霊だよな。でも、何で俺を助けてくれるんだ?」 考えても分からなかったので、パスカルは家探しから始めることにした。 「おい、嘘だろ……」 家探しの最中、古いノートを拾ったパスカルは 雨音と雷鳴をBGMに、目線を走らせていた。 だが、そこに有った内容は、痴話喧嘩の記録でもなければ数学の宿題でもなかった。 05/17 拉致してきた双子の姉弟、ブランディーヌとユベールは正反対だ。 ブランディーヌは従順だが、口数が少なく、表情も乏しい。 ユベールは口数が多く、表情も豊かだが、とにかく反抗的だ。 最近8歳になったばかりだそうだが、どうしてこうなったんだ。 05/18 ブランディーヌの様子がおかしい。これでも俺は元医者だ。 絶対風邪なんかじゃない。一人にしたら脱走するだろうから 仕方なくユベールも一緒に病院へ連れて行った。それにしても 偽造IDと偽造保険証を複数用意したのは正解だった。 05/19 大病院で精密検査と言われた。症状と行動パターンから言って 小児癌で間違い無い。畜生。何て奴を誘拐してしまったんだ。 考えが甘過ぎた。 05/20 ブランディーヌは日に日に衰弱していく。と言って、大病院へ連れて行くと 俺の悪事がバレる危険性が非常に高い。かと言って医者を拉致するのもリスクが高い。 しかし、見殺しにしたらユベールは2度と俺の言う事を聞かなくなるだろう。 あいつ、姉の前でだけはまぁまぁ大人しくなるんだよな。 05/21 今日、ブランディーヌからテープレコーダーを預かった。何でも 弟の大好きな歌が録音されているらしい。どんなに怒り狂っていても これが流れている間だけは絶対に暴れないとの事だ。試してみたら 本当だった。まさかこんな良い切札が有るとは。 05/22 遂に恐れていた事が起きた。ブランディーヌが死んだ。俺はこんな目的で 二人を誘拐したんじゃないぞ。冗談じゃない。ユベールはこの世の終わりの様な 状態だ。反抗的な言動に拍車がかかった。 05/23 ユベールは、俺がブランディーヌを殺したと思っている。無理もないか。 そう言えば何やら家探ししていたが、何だったのだろうか。特段 面白い物が有ったとは記憶していないが。まぁ良いか。 05/24 完全にしくじった。ナイフを盗まれた。俺が刺されるのは良い。だが、無関係の訪問者を 姉殺しの犯人と決めつけ刺しているのだけは見過ごせない。今更正義も糞も無いが 最悪、後腐れだけは無い様にしなくては。自殺用に弾を残して良かった。 奴は拳銃のありかまでは知らないらしい。 05/25 何とか奴を止められた。だが、俺も刺された。未だ意識が有る内に書き残す。 奴を止められるのは、あの歌だけだ。何せ、大好きな姉の声だから。 次の人生は、もっと良い家に生まれてきたい 日記を読み終えたパスカルは最早何と言えば良いか分からなくなった。

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