第15話 京一郎

「ほーりゅう、我龍の居場所はどこだ!」 「え~? わかんないよ! 二、三分で気配が消えちゃったし。いままでにないくらい大きな力過ぎて、逆に範囲が広くなっちゃって全っ然わかんない!」  頭を抱えたまま、ほーりゅうは窓へ駆け寄って外を眺めだす。  肉眼で奴の居所がわかれば苦労はしないって。  などと、心のなかでほーりゅうにツッコミをいれながら、俺が頭を抱えたい気分になった。  まずい。  いま、ジプシーがひとりで表にでている。  このまま我龍とニアミスなんてことになったら。  いや、それ以前にもう鉢合わせていて、これが交戦中の気配だったとしたら。  俺は、しばらく鳴らしていたスマホの発信を切る。 「ジプシーの携帯にもつながらない。なにか起こっていると考えたほうがいいのかも……。部屋をでるときから様子もおかしかったし、やはり俺も一緒に行動したほうが良かったか」 「いまさら仕方がないわ。探しに行く? それとも下手に動かないほうが良いのかしら?」 「とりあえず夢乃、おまえは無理に足を動かさないほうがいい。俺とトラで奴を探しに行ったほうがいいか……」  夢乃にそう告げてトラとうなずきあったとき、部屋に取りつけてある電話が、突如鳴りだした。  全員が、ぎくりと動きをとめる。  この場合、ホテルの部屋を借りているのは偽名とはいっても、ジプシーと俺の名前だ。  奴がいないいま、俺がこの電話をとるのが筋だろう。 「あ。そういえば桜井さんに、向こうのホテルのチェックインができたら、連絡をくれるようにいってきたけれど……」  夢乃が思いだしたようにつぶやくが、桜井刑事は夢乃の携帯番号を知っている。  わざわざホテルの部屋へかけてくる必要がない。  俺は唇に人差し指をあてて、静かにという動作をしながら受話器をとった。 「はい」  とりあえずひと言だけ告げて、反応をみる。  相手は無言だった。  フロントを通しての外線ではないってことか。  そう思ったとき、俺にとって聞き覚えのない声が聞こえた。 『部屋のドアの外。廊下を見ろ』  癖がなく発音もきれいな、たぶん俺と同世代の男の声だ。  敵対する気配は帯びていない。 「ドアの外? なんだ? 廊下になにがある?」  わざと声にだして、相手の言葉を繰り返す。  俺の意図が伝わったのか、トラが、夢乃とほーりゅうに動くなと指示をする。  それから、ドアへ静かに近寄った。  そして、自分の影がドアの横や下の隙間を横切らないように耳をあて、外の様子を確認する。  外に気配がないことを確認してから、トラはゆっくりとノブを回してドアを細く開けた。  その瞬間、驚いた様子でドアを勢いよく開け放す。  トラの動きになにかの事態を感じたのか、慌てて夢乃とほーりゅうが駆け寄った。  部屋の様子がわかったかのように、電話の声が言葉を続けた。 『お節介ついでに』 「――なんだ」  俺は、トラに抱えられて部屋のなかへ運びこまれる、意識のないジプシーに気を取られながらも聞き返す。 『たぶんそちらでは、こんな事態には対応できないと思って、俺がそいつの体内の薬物を抜いておいてやった。それともうひとつ。いまのそいつは、十年前の事件のフラッシュバックを起こしている』  そう一方的に告げられて、電話は切れた。  俺は、通話の切れた受話器を、無言で見つめる。  そして、いまの電話の相手の口調から、ことの重大さに気がつき愕然とした。  ――十年前の事件のフラッシュバックだって?

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