第34話 ほーりゅう

「江沼! 顔を貸してもらうぞ!」  昼休みを告げるチャイムとともに、生徒会長が一年の教室のドアを勢いよく開いた。 「すみません。江沼くんは今日、お休みです」  申しわけなさそうな夢乃の言葉を聞いた会長は、驚いた顔をしたけれど。  すぐに、怒りあらわに叫んだ。 「親からの電話一本で、この私が納得するわけがなかろう! 絶対つかまえてやる! 今日の放課後、奴の家庭訪問だ!」  きびすを返し、足音荒く会長は、一年の教室からでていく。  ――あの様子じゃあ、会長は本当にジプシーの家まで行っちゃうだろうなあ。  そう思いながら、わたしはお弁当を持って、いつものお昼を食べている自習室へ向かう。  でも、たしかジプシーって、今日は午前中だけ休むって言っていなかったっけ?  そう考えつつ、向かう途中で一緒になった夢乃と京一郎と、自習室のドアを開けた。  そして、そこで腕を組んで考えこんでいるジプシーの姿を見つけた。  いつもの昼休みのメンバーが、全員そろって椅子に座ったのを確認したジプシーは、腕を組んだ姿勢のまま、おもむろに口を開いた。 「今日、高橋麗香を呼びだして、ケリをつけたいと思う」  さらに続けようとしたジプシーの言葉をさえぎって、わたしは声をだした。 「その前にジプシー、お昼ご飯を食べようよ。ジプシーもママさん手作りのお弁当、持ってきているんでしょ?」  急に、なんのことだと言わんばかりに、ジプシーはわたしの顔をじろりと見た。 「だから、食べながらでも話って、できるじゃん」 「いや。いまはいらない」 「そういって食べない気でしょ。あんた最近、食事量が減ってるもん」 「それは、いまは関係のない話だろ」 「でも、三食きちんと摂らないと身体に悪いって」 「俺が食事をしようがどうしようが、おまえには関係ないだろ」 「でも」  急にジプシーは、押し殺したような低い声で、静かにわたしへ告げた。 「ほーりゅう、今回の作戦は、おまえ中心に計画を立てた。おまえに頼った、おまえがメインの計画だ。だが、あまりしつこく言うと、メンバー自体から外すぞ」 「すみません。もうなにも言いません。メンバーに入れてください」  普段からいつも、こういう計画には、ないがしろで爪弾き気味のわたしだ。メインにしてもらえると聞くと、ちょっと立場が弱い。  夢乃のお母さん。  ジプシーにご飯を食べさせようかと頑張ったけれど、どうやら無理だったみたい……。  おとなしく黙りこんだわたしを見て、一息ついたジプシーは、小さな声でつぶやいた。 「あとで必ず食べるから、おまえは心配しなくていい」  そして、改めてジプシーは顔をあげると、話を再開した。 「今日の朝、俺は高橋麗香の家に行ってきた」  ――いきなり、敵のアジト襲撃ですか!  さすがに呆気にとられた全員の顔を見まわしながら、ジプシーは続けた。 「もちろん、彼女が学校へ向かうために、家をでたのを確認してからだ。彼女の母親に会ってきた。――母親は、彼女の能力に気がついてはいたが、いままで、どう対処していいのかわからなかった様子だな。母親の了解をとって、これからの計画に合意をしてもらった。というか、結果的には、彼女の母親に頼まれた形になったんだが」  ジプシーは、いったん言葉を区切ってから告げた。 「今回の計画の目的は、彼女の能力の消失だ。彼女の術自体を使えなくさせる。彼女との話し合いは、それからだ」  能力消失?  そんなこと、可能なんだろうか? ってことは、わたしの能力やジプシーの術も、使えなくなる可能性があるってこと?  そんなわたしの考えがわかったのか、ジプシーはわたしのほうを向いた。 「これから、ほーりゅうにもわかるように説明する。なんといっても今回は、ほーりゅうメインだからな。その代わり、正しい説明ではなく、おまえが理解できる言い方や表現に変えるから」  ジプシーの言葉に、わたしはこっくりとうなずく。 「――まず、彼女の能力は、彼女の母親と話をして俺の思った通りの能力だと確信した。俺の陰陽術でも、おまえの超能力とも違う能力だ。ただ、今回の要であるおまえの闘志を落とさないために、あえていま話さない」 「なんで、わたしの闘志ってものが関係するのよ」 「それは、計画の実践方法として理由がわかるから、あとで説明する。俺の陰陽術は、練習や修行という形で身につけたものだ。おまえの超能力は、生まれつきの遺伝子レベルの能力とみている。それらは基本的に少々のことでは、なくなることはない。だが、高橋麗香の母親の話では、彼女の能力は精神に担うところが大きく、感覚的なもので不安定、あやふやで不確定に身につけたものだった。だから、今回立てた計画で消滅させることができる。だが、間違いなく、おまえの超能力で対抗できるものだということだ。それは俺を信じろ」  まあ、こんな関係の話に詳しいであろうジプシーのいうことだから、本当にわたしの力で太刀打ちできるものなんだろうな。 「目的は理解したか」 「うん。彼女の能力消失」  わたしが計画の中心だから、わたしが理解したら、説明が先に進むわけね。 「次に方法だが、俺としては一日でケリをつけたい。そのために、彼女の母親に伝言を残してきて、今日の夜に彼女をこの学校へ呼びだした。また、これと思う方法ひとつのみで闘って、はずしたときが怖い。だから、実質的な方法とあわせて精神的なトラップの、合計四つの罠の同時進行で、彼女の能力を消滅させようと思う」  それを聞いたわたしは、急に不安になってきた。  四つの罠を、一度に仕掛けるなんて。  はたしてわたしに、そんな器用なことが、できるのだろうか?

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