第40話 ほーりゅう

 いまの攻撃をかばってくれたジプシーを、とりあえずわたしは、横に突き放した。わたしがやる気になったのがわかったのか、ジプシーはあっさりと離れる。  そして、わたしは数歩さがって、麗香さんを見つめた。  一昨日の練習を元に、早く自分のなかの力をためなきゃ。幸い目の前に、わたしの超能力を発動させられるだけの、殺気を放つ彼女がいる。ジプシーは、わたしの力の大きさや出るタイミングが読めるはず。それに、どんな派手な闘いになっても、ジプシーは、わたしも彼女も護ってくれるって約束してくれた。  それを信じて、思いっきりやってやる。  少し離れたところから、怒りと、そしてなぜか同時に楽しそうな雰囲気を漂わせ、わたしに微笑みかけながら麗香さんが言った。 「力ずくで彼を奪っていいって言ったわよね。身のほど知らずが、思い知らせてあげる」  これ見よがしに右手を目の前へ突きだし、手のひらを上へ向ける。すると、その手のひらの上で、彼女の気の塊が作られ大きくなっていくのがわかった。  わたしの力の発動の源は、いまはその彼女の殺気だ。彼女の力の大ききに合わせて、わたしのなかの力も、小波をたてて大きくなってきた。彼女が時間をかけて、力をためてくれるのがありがたい。  そして、ちょうどわたしの力が、外に向けて暴発できるまでに膨らんだとき。  麗香さんが力の塊を、わたしへ向かって投げつけてくるのがわかった。  わたしの足もとから、風が巻き起こる。それに合わせて、わたしも彼女と同じように両手を上にあげ、そのまま振りおろした。意識して力を使ったことがいままでにないから、見よう見まねでしか、外に出す方法がわからない。  それでも、彼女の力が届く寸前、わたしの力は願い通り、手を振りおろすと同時に前方へでると彼女の力にぶつかり、跳ね飛ばした。  ――誰もいない、あらぬ方向へと。  そして、派手な音を響かせて、教室と廊下のあいだの壁に見事な大穴をあけた。 「あれ?」  出たのはいいけれど、タイミングのせいか当たりどころのせいか、まっすぐ飛んでいかなかった。彼女のほうへ返らなきゃ、予定通りの力のラリーにならないじゃん。  これは困ったぞ! 「あなた……。あなたにも、そんな能力があるの?」  驚く麗香さんに、それでもわたしは思いっきり、ハッタリをきかせて叫んだ。 「どうだ! 驚いた? 特殊な力でも、あんたなんかに負けないもん!」  でもやばい。  次も彼女のほうへ向けて跳ね返す自信がない。  すると、数歩さがって様子を見ていたジプシーが、わたしだけに聞こえるような小さな声でささやいてきた。 「気にするな。次からは俺が、軌道修正をしてやる」  え。  そんなこともできるの?  振り返ってジプシーの顔を、まじまじと見つめる。すると、そんなわたしの後頭部に、麗香さんの殺気だった視線が突き刺さった。  いや、別に見つめ合ってラブラブモードになっているわけじゃないって。  また彼女に誤解させたかな。やりにくいなぁ。  慌ててわたしは、彼女のほうへ向き直って、新たに意識を集中させる。  とりあえず力、ためなきゃ。  わたしを睨みつけたまま、麗香さんは少し考えるそぶりをしてから、今度は右手を真横に伸ばす。  あ、今度はなんか、攻撃を仕掛けてくるのが速そう。もしかしたら、今度はわたしの力をためる時間が、間に合わないかも。  ちょっと怯んだわたしの様子を確認して、彼女は薄く笑う。そして、その右手をわたしに向かって、横一文字に切り裂くように振った。  これはたぶん、最初に見た切り裂き系かまいたちの攻撃だ。それに、このタイミングでは、やっぱりわたしの力は間に合わない。  っていうか、逃げるのもムリ!  思わず両腕を顔の前にあげてかばい、踏ん張って衝撃を待つ。けれど、いつまで経っても、なんのショックもこない。  おそるおそる両腕の隙間から前を見ると、わたしの目の前で、彼女の力が四方にはじけ飛んだのを感じた。  絶対、わたしの力じゃない。  とすると、これはジプシーの防御結界?  わたしはジプシーの姿を、今度は誤解されないように目だけで探す。すると、麗香さんからは死角の壁際に移動したジプシーを見つけ、そして壁に添えた彼の手のひらの下から、浮かんでいた梵字が消えていくのをみた。  そうだ。  いま、この学校全体が、ジプシーのテリトリーになっているんだ。だから、防御に関しては、ジプシーの思いのままのはず。これなら安心して、わたしも彼女に攻撃を仕掛けられる。  そして、ふとわたしは、自分で思い浮かべた言葉から気がついた。  なにも、麗香さんからの攻撃を待っていなくても、いいんじゃない? わたしの超能力が外に出せるくらいに力がたまった時点で、わたしから攻撃を仕掛けるってのも、ありだよね?  そう考えたわたしは、今度はわたしから彼女に仕掛ける気で、両手をあげる。すると彼女は察知したのか、身をひるがえして廊下の向こうへと走りだした。  え? 逃げるのって、あり?  それなら、こちらは追いかけるまでよ! 「待ってぇ!」  やる気になったわたしは、薄暗い学校の廊下を、彼女のあとを追って駆けだした。数歩遅れて、ジプシーがわたしの後ろをついてくるのがわかる。  場所を移動しても、完璧主義のジプシーのことだ。わたしはもちろんだけれど、彼女のガードも大丈夫だよね? この学校内はいま、すべてがジプシーのテリトリーなんだから。  背中を向けて走っている彼女のあとを追いかけながら、わたしは走りながらになるけれど、右手をあげて振りおろした。  あ、後ろからの攻撃って、本当は卑怯なのかな?  でも、闘っているって、お互いにわかっているし、いいよね。  制御不能なわたしの力。それでも、一杯にためていたわたしの力は、手を振りおろす動作で外に飛びだした。そして、先ほどとは打って変わって、わたしの力は螺旋を描きながら周りの壁を削りつつ、麗香さんへ向かって飛んでいくのがわかる。  ――螺旋状。  傍から見たら、けっこうダイナミックな技に見えるけれど。あれってたぶん、まっすぐ飛んでいかないわたしの力が、ジプシーの張った結界の壁のあちらこちらとぶつかって、よそに飛んでいくところを軌道修正されながら進んでいるからなんだろうな。  気配に気がついた麗香さんが驚愕の表情で振り返り、そのため、彼女は正面からわたしの力を受けることになった。力に跳ね飛ばされ、そのまま後ろへ仰向けに倒れる。転がった彼女は、弾みでぶつけた肩を押さえて小さくうめいた。 「ちょっと! 話が違うんじゃない? この闘いは見かけだけで、実際にはジプシーは麗香さんもガードしてくれるんでしょ? なんで彼女、わたしの力を食らってんのよ?」  焦ったわたしは後ろを振り返り、小声でジプシーに叫ぶ。  無表情のままで、ジプシーはあっさりと告げた。 「おまえは100パーセント護ってやる。でも彼女は、おまえの力の衝撃を多少は受けてもらわないと、負けているって意識が芽生えない。無傷もおかしいし、痛くない攻撃を何度受けても意味がないだろ? 安心しろ。残るような怪我までは絶対にさせない」  ――彼女だけ痛みがあるって知っちゃったら、なんだか攻撃しにくくなっちゃうなあ。  そう思いながら、わたしは前へ向き直る。  彼女を見つめるわたしの目の前で、麗香さんは身体を起こして、ゆっくり立ちあがった。  ゆるめにクルクルときれいに巻いていたロングの髪がほつれ、ゆらりと逆立つ感じすら覚える。強張った表情のなかの二重ふたえの眼は、さらに光を反射して煌いた。小柄な全身で、怒りのオーラを発しているのがわかる。  彼女、本気になったかも。  わたしの願った通り、彼女の最大の力を引き出せそうなのだけれど。  これは、実際に対峙すると、怖い。  ところが、予想に反して、ふたたび麗香さんは、わたしに背を向けて駆けだした。  慌ててわたしも、彼女を追いかける。  今度は、まだわたしには、外に出せるだけの力がたまっていない。走りながらの集中って、なかなか難しいものがある。  彼女から引き離されないように、ついていく先で、麗香さんは廊下の突き当たりにたどり着き、角を曲がった。置いていかれないように、わたしも続けて勢いよく曲がる。  そして、曲がると同時に、目の前に、こちらを向いて彼女が立っていることに気がついた。  しまった!  待ち伏せされた!  急に止まれず、勢いがついてぶつかりそうなくらいに接近したわたしの胸もとへ、麗香さんは右手のひらをあてる。驚愕の表情を浮かべているであろうわたしに、彼女は妖艶に微笑んで、手のひらから直接わたしの身体に、衝撃波を撃ちこんできた。  胸もとに受けた衝撃で、わたしはたぶん数メートルは弾き飛ばされ、そのまま後ろの壁へ激突する。  ヤバイと思う間もなく、本当に一瞬の出来事で。  わたしの頭のなかは真っ白のまま、なにも考えられなかった。

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