第43話 ほーりゅう

 校舎の三階から、窓ガラスを突き破って、わたしの身体は飛びだしてしまった。  変な体勢のまま地面に叩きつけられることを覚悟して、ぎゅっと目をつぶる。  急激に重力が、身体にかかった。  ――そのはずが。  ふいに全身から、重さの感覚が消えた。  おそるおそる、わたしは眼を開く。  すると、すべてが止まっていた。  わたし、空中で止まって、浮いちゃってるよ?  いつもの、いままでのわたしの自己防衛の超能力に、こんな力はなかったはずだ。  そして、すぐに気がついた。  身体を包む、以前にも触れたことのある、この力の雰囲気に覚えがある。  思わずわたしは、つぶやいた。 「――我龍?」  すると、それに応えるように、直接頭のなかへ声が響いた。 『逃げる? それとも戻る? こちらとしては脱出を勧める。きみは、奴のいざこざに巻きこまれただけなんだろう? きみが身体を張って、奴の揉めごとに付き合う必要はない。逃げる気があるなら、俺が奴の結界を破って助けてやる』 「戻る!」  わたしは、我龍のテレパシーを最後まで聞かずに叫んだ。 「ジプシーも夢乃も京一郎も上にいる。みんな、闘っているんだもん! ジプシーはわたしをかばって大怪我をしたのよ。今度は、戻ってわたしがジプシーを助ける! それに、麗香さんもわたしが助ける。闘いで彼女に勝って、彼女を助けるんだ!」  すると、一瞬の間があいて、我龍が面白そうに返してきた。 『彼女も助ける、か。いいだろう。なら、上に連れていくだけで手助けはしない。これ以上の俺の力の干渉は、せっかく張った奴の命懸けの結界を破壊することになる』  ――そうか。  さっき、ジプシーの結界に触れた人って、我龍だったんだ!  なぜ我龍がこの闘いを知ってここに現れたのかはわからない。おそらく、わたしが我龍の気配を感じられたように、彼も力の気配を感じて、ここへ見にきたのだろう。  けれど、いま、わたしのなかで、内側から湧きでてくる力を感じる。同じ能力者の我龍の力を、直接わたしが触れているからだろうか。  いまなら、彼女の殺気を原動力にしなくても、自分の奥底で湧きあがる感情で、最大の力を発揮して攻撃できる自信がある。  わたしは空気に押しあげられるように窓際へ寄り、割れたガラスに気をつけながら、三階の窓枠に片足をかける。両手で身体を支えるように横の窓枠をつかんだとき、身体を包んでいた空気が変わって重力が戻った。  きっと、我龍のサポートが消えたんだ。  そして、わたしは校舎内の現状へと目を向けた。  廊下のずっと向こうで、炎は揺らめき煙があがっている。窓を開け放して消火を続ける京一郎と夢乃の姿が、炎の向こう側に見えた。  煙は増えているけれど、さっきに比べて火が小さくなっている感じがするから、京一郎たちに任せて大丈夫だよね。  そして目の前には、うつ伏せで倒れている血だらけのジプシー。その傍らにかがんで、まさに彼へ手を伸ばそうとしている麗香さん。  いま、麗香さんは、どういうつもりでいるかわからないけれども、これ以上ジプシーを傷つけられてたまるものか。  わたしは、窓枠の上で仁王立ちになると、息を大きく吸って叫んだ。 「ジプシー! まだ意識があるよね? 攻撃最大でいくから! あんたの力と根性、信じているから!」  そして、驚きの表情でわたしを振り仰いだ彼女に、ためにためていた力を全力でぶつけるべく、わたしは両手を頭上へ振りあげた。  わたしは、だせる力を最大限に引きだして攻撃を仕掛けるため、両手を上にあげたまま狙いを定める。我龍の加護を受けて、みなぎる力が冴えわたっているのがわかる。普段は方向なんか定まらない超能力だけれど。  たぶん彼女をはずさない。  わたしの本気が伝わったのか、慌てたように麗香さんもわたしへ向き直り、両手を左右横に広げた。  でも、いまのやる気満々のわたしに対して迫力負けしているうえに、自らがジプシーを傷つけたことに動揺しているためだろうか。  なかなか彼女の両手のひらの上に、力が集まらないのがわかる。  そのとき。  まったく注意を払っていないであろう彼女の足もとに、梵字を配した巨大な陣が薄っすらと浮かびあがった。その陣の中心は、傷だらけで床に伏したままのジプシーだ。  ――ジプシー、わたしの声が聞こえたんだ。  大丈夫、まだ彼は意識を失っていない。  彼女の防御を、この状態でもしてくれている。  わたしは、いまの自分の力の大きさを知らない。  けれど、彼女の力を出し切らせてのオーバーヒートが目的だから、最大で攻撃するよ。  だから、彼女が傷つかないように、絶対にジプシーが護ってくれるって信じている。 「いっけぇー!!」  わたしは麗香さんへ向かって、思いきり手を振りおろした。  不安定なまま必死で反撃をしてきた麗香さんの力を、わたしの力は丸ごと飲みこんで、彼女へと向かっていく。そして麗香さんにぶつかる寸前、彼女の目の前に一瞬で五芒星が浮かびあがり、わたしの力がその中心を通って、彼女を吹っ飛ばした。廊下と教室のあいだの壁に、麗香さんは背中から全身をぶつける。  その壁までにも浮きあがっていた別の陣が、彼女が座りこむように廊下の上へ崩れ落ちるときに、一緒に沈むように消えていくのが見えた。  ――これって、ジプシーの防御結界が間に合っていたってこと、だよね?  わたしはひとり、動かなくなった麗香さんを見つめて、その場に立ち尽くした。

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