第23話 ジプシー

 だが、俺は成り行き上、ほーりゅうを家まで送り届けることにした。  道中こちらから訊きたいこともあるし、おそらく彼女のほうも、俺になにか用があるに違いない。じゃないと、ここまで執拗に追ってはこないだろう。  足早に歩く俺のあとをついてきながら、ほーりゅうが先に口火を切ってきた。 「ねえ。あんた、高校生じゃなくて、本当は警察官なの?」 「いや」  否定のひとことだけでは当然納得できないだろうと思い、俺は少し考えて言葉を続けた。 「俺はただの高校生だ。だが、警察の手助けをするだけの力がある。あとは――もうクラスの誰かから、俺のことについて話を聞いているんだろ? 俺は夢乃の親父さんにも世話になっているし……」  そこで、俺は口をつぐんだ。  俺は叔父に連れられて、はじめて夢乃の父親と会ったとき、自分から「生きる理由が欲しいため」に力を利用してくれと願いでた。そう言わせたその当時の感情を、いまは彼女に伝える必要もないと考える。  この説明でどこまで納得したのかわからない。  だが、ほーりゅうは大きくうなずきながら、深い意味を考える様子もみせずに口を開いた。 「そうそう、クラスで聞いたよ。夢乃のお父さんって警察の人なんだってね。だから、あんたは拳銃を持っていて、他人の家で乱闘したり壁を破壊したりしても、警察が揉み消してくれるってわけなんだ?」 「あの壁を壊したのは俺じゃない。おまえだろ?」 「あ。――そうでございました」  照れたように頭をかいて屈託なく笑った彼女を、俺は横目で流し見る。  そして、言葉を続けた。 「俺は今回、招待された形であの家へ行ったんだ。誰かさんの不法侵入とは違うね。閉じこめられていた扉以外に壊した物はないし、もちろん人も殺していない。今回、警察に迷惑をかけるようなことはなにもしていない」  そこまで口にしたとき、俺たちは、小さな公園の前を通りかかった。急に歩く方向を変えて、俺は公園のなかへと入っていく。ちょっと戸惑ったようだが、ほーりゅうも俺のあとをついてきた。  そこは、ブランコと鉄棒しかないような公園だった。  ベンチも見当たらなかったので、俺は指をさして促し、ひとつだけのブランコに彼女を座らせる。 「さて」  俺は、ブランコの柱に寄りかかり、腕を組んで見おろしながら口を開いた。 「ここまで俺を追いかけてきた、おまえの執念には脱帽するよ。訊きたいことには答えられる限り教えてやる。いったい俺に、なんの用があるんだ?」 ◇◇◇  すると、いままで押しの一手だった彼女が黙りこんだ。しばらく、ほーりゅうはどう切りだそうか考えているようだ。やがて、おもむろに自分のうなじへ両手を回すと、首の後ろに見えていたチェーンの留め金をはずした。そのまま無言で、俺のほうへ、握った手を突きだしてくる。  促されるままに手のひらにそれを受け取った俺は、その瞬間、思わず目を見開いていた。 「――俺と同じロザリオ?」  俺は、服の内側へ落としていた自分のロザリオを引っ張りだすと、両方を近づけて見比べてみた。  暗闇のなかで目を凝らす。 「大きさも重さも形も――材質も、ほぼ同じだな。違うのは、中央の石の色だけか」  俺のロザリオのなかに填まっている石は青色だが、彼女のほうの石は緑色だ。  じっと見つめる俺へ向かって、ほーりゅうは口を開いた。 「じつはさ、あんたが同じロザリオをしているところを、昨日の夜、偶然見かけたのよ。それに、わたしが両親についていかずに日本へ残ったのは、そのロザリオの出どころを知りたかったからなの。あんたのそれ、どこで手に入れたの?」  ロザリオに気を取られていた俺は、うっかり無防備に答えていた。 「――俺のロザリオは、母親から形見で受けとったものだ」 「お母さんから? くれるときに、お母さんはなにか言っていなかった?」  勢いこんで、ほーりゅうは俺に訊いてきたが。 「――普通、形見って亡くなったあとに、もらわないか?」 「あ。そっか! ごめん……」  俺の言葉に、たちまち神妙な面持ちになった彼女は、うつむいて黙りこんだ。  ほーりゅうは謝罪の言葉を口にはしたが、俺はまだ、彼女のことをそれほど知っているわけではない。悪いことを訊いてしまったと思ったのか、手がかりが途絶えたと落胆したのか。  彼女の落ちこみようは、そのどちらの理由であるのか、いまの俺には判断できなかった。  静かになったほーりゅうを横目に、俺は、幼きころに母親から聞かされた話を、うろ覚えに思いだした。

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