第26話 夢乃

 息が切れてきた。  やはり武道を嗜む程度にやっていたわたしひとりの力では、この四人の男子を倒すのは無理だ。こうやって逃げ回って時間を稼ぐのが精一杯。  助けを呼びに行ったはずのほーりゅうの安否が一瞬頭をよぎったとき、遠くでガラスの割れるような音が聞こえた。  まさか、ほーりゅうの力が暴走?  でも確かめる術すべと余裕が、わたしにはない。  ジプシーと京一郎の動きを、わたしは普段から間近で見ている。そのふたりのスピードに目が慣れているために、いま、この男子たちの動きは、なんなく見切ることはできる。  でも、そろそろ限界。  さすがに、避けるわたしの体力が続かなくなってきた。  動きが緩慢でも、そこはやはり男子。一突一蹴の重さが違う。  殴りかかってくるのを体捌きで避け、つかみかかってくるのを払っているだけで、足がもつれてきた。  そのときに、人が持っている竹刀を横に薙ぎ払い、避けたわたしの肩をかすめた。よろめいて床に片膝がつく。思わず近くの壁に片手をついて、それ以上倒れないように身体を支えた。  集中力が途切れる。  そして気配を感じて、はっと仰ぎ見ると、男は竹刀を構えなおし、わたしに向かって振りあげていた。  やられる。  わたしは、恐怖心があったけれど、受ける攻撃を確かめるために、男から視線をそらさなかった。防げるとは思わなかったけれど、両手をあげ、頭上で交差して十字受の体勢をとる。  ――男から視線をそらさなかったから。  竹刀を振りあげている男の背後で、さらに高く、空中に舞う影を見た。  宙に跳んだ京一郎の廻し蹴りが、男の側頭部をきれいにとらえて、反対の壁まで吹っ飛ばした。 「夢乃、大丈夫か!」  足音なく身軽に降りたった京一郎は、男の取り落とした竹刀を拾いながら、わたしに声をかける。安堵のために、わたしは思わずその場へ崩れるように座りこんだ。 「あれ? ほーりゅうは? 一緒じゃねぇのか?」  そうだ、ほーりゅう! 「助けを呼ぶためにも二手に分かれたのよ。でも、さっき、ガラスの割れる音がして」 「ガラス? 俺、向こうの階段であがってきたから、場所的に聞こえなかったのかな?」 「ほーりゅうは、たぶん職員室へ向かったんだと思う」 「職員室か。それなら、向こうから回っているジプシーと合流できるだろう」  そう言いながら、京一郎は残りの連中に向かって、竹刀を構えた。 「京一郎、やり過ぎないで」  わたしの言葉に、京一郎は嬉しそうに答える。 「わかってるって。俺は素手より竹刀のほうが加減がきくんだよ。ちゃんと外傷を負わさず、跡形も残さないようにやってやるからさ」 「京一郎!」 「冗談冗談」  そう笑って口にした京一郎は、すぐに真剣な表情となり、倒すべき相手を見据えた。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿