第23話 ほーりゅう

 日が暮れて真っ暗ななかで、静かな空間にひときわ大きく反響するようなピアノの音を聴きながら、わたしは学校の廊下を走る。  助けを呼ばなきゃ!   この場合、職員室へ行けばいいんだろうか? それとも学校を出て外へ?  とりあえず、一階までおりちゃおう!  夢乃がほかの男子たちを引きつけてくれているあいだに、早く助けを呼ばなくちゃ!  四階の廊下の端まで走っていって突き当たると、曲がって三階へおりる階段へと向かう。けれど、その途中の踊り場で、追いついてきたひとりの男子に、後ろから二の腕をつかまれた。 「やぁだ! 放して!」  わたしは、思い切り腕を振って、逃れようとした。  ほかに助けてくれる人のいない、ひとりきりで味わう恐怖。  そう思ったとたんに、わたしは、自分の周りの空気が変わるのを感じた。  やばい!  これはわたしの、制御できない超能力が発動する前に起こる感覚だ。  先ほど夢乃に言われた言葉で、前回の文化祭の一件を思いだす。ここは学校内の、三階と四階のあいだの狭い踊り場だ。だだっ広い外ではなく、さらに地上一階じゃない。  この男子を、わたしの超能力で吹っ飛ばしてしまったら。下手をすれば大怪我させてしまうかも。  それじゃあ、文化祭のときの二の舞だ。  あのときは誰にも話していないけれど、暴走したわたしの力を偶然にも居合わせたらしい、わたしと同じ超能力者の我龍が助けてくれた。  けれど、いま、こんな時間にこんなところで、助けてくれる我龍がいるとは思えない。ここではわたし、ひとりだけだ。  どのくらいの規模の爆発で、どう発動するかわからない超能力を、ここで発動させるわけにはいかない。  そういえば。  ジプシーが文化祭の舞台のあとで言っていたっけ。わたしに向けられる攻撃や殺気が大きくなると、比例してわたしの力も大きくなる可能性があるみたいなこと。  それを思いだしたわたしは、一生懸命、能力発動の原因にもなる恐怖心をなくそうとした。  たとえ能力がでても、できるだけ被害を小さくしないと!  わたしは、めちゃくちゃに腕を振って、つかんだ男子の手を振り切ろうと暴れる。けれど、男子の力は強く、逆にわたしは踊り場の床に引きずり倒された。このまま押さえこまれたら、たぶん無事じゃすまない。  わたしも、彼も。  まだ自由だった足で、必死に相手を蹴りあげる。何度か振った足が、男子の向こうずねにでも当たったらしい。男子の手の力が緩んだ瞬間に、わたしは這いだし、立ちあがって下り階段へ向かって走ろうとした。  そのとき、後ろから足首をつかまれたわたしは、ふたたび両手を床について倒れた。  ――限界だ。  首からさげているロザリオのなかの石が、きっとわたしの恐怖心に反応して光を放っているに違いない。  制服の上から握りしめた感覚から、もう、いつもより熱を帯びているように思える。ここまできたら、自分ではもう止められない。  そう思った瞬間、わたしの周りの空気が一変、不穏な風を巻き起こす。  そして、身体の内側から、なにかとてつもない力が一気に噴きだした。  わたしをつかんでいた男子の身体が宙に浮き、目の前で、階段下の三階へ向かって吹き飛ばされた。同時に起こった周囲の空気が渦を巻き、踊り場の窓をすべて内側から割っていく。  吹き飛ばした男子へ、怪我をさせたくないと反射的に手を伸ばしたわたしは、けれど手が届くどころか自分がバランスを崩し、階段上から転がり落ちてしまった。  立っている状態から落ちるのではなく、もともと倒れたところから階段を転がったので、比較的ぶつけることもなく、ごろごろと三階まで横向きに転がり落ちる。   それでも、最後の最後で、わたしは床に頭をぶつけたらしい。  ――これが、星が飛ぶっていう状態なんだぁ……。  暗闇のなか、三階の廊下に倒れている男子と、目の奥にチカチカとする明るい点滅を見ながら、わたしは意識が遠のいていった。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • シド(アニスと不機嫌な魔法使い)

    Neo

    〇100pt 2020年5月25日 19時48分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ブラボー!!

    Neo

    2020年5月25日 19時48分

    シド(アニスと不機嫌な魔法使い)
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    2020年5月26日 16時42分

    応援ありがとうございます! ノベラポイント感謝ですぅ(/ω\) 楽しんでもらえたら嬉しいですぅ☆

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くにざゎゆぅ

    2020年5月26日 16時42分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • エルフアーチャー

    緋雁✿ひかり

    〇15pt 2019年9月25日 7時16分

    ついに、能力発動! でも、少しでも被害を抑えようと、ほーりゅうも頑張った!(。-`ω-) もしかしてあのピアノが生徒を操っているとか!? さて、次はいよいよジプシーのターンか!(ง •̀_•́)ง

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    緋雁✿ひかり

    2019年9月25日 7時16分

    エルフアーチャー
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    2019年9月25日 10時05分

    ポンコツヒロインだけれど、被害を少しでもおさえようと頑張りました! そしてポンコツゆえに、ここからしばらく戦線離脱ですw 次回からジプシーのターン、楽しんでもらえたら嬉しいですぅ(/ω\)

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くにざゎゆぅ

    2019年9月25日 10時05分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • れびゅにゃ~

    りんご屋さん

    ♡700pt 2020年3月12日 5時39分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    筆文字「良きですわ…」

    りんご屋さん

    2020年3月12日 5時39分

    れびゅにゃ~
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    2020年3月12日 16時19分

    応援ありがとうございます! 楽しんでもらえたら嬉しいですぅ(*ノωノ)

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くにざゎゆぅ

    2020年3月12日 16時19分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • 女魔法使い

    はるはる02

    ♡500pt 2020年5月4日 15時19分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    これは期待

    はるはる02

    2020年5月4日 15時19分

    女魔法使い
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    2020年5月5日 7時26分

    応援ありがとうございます! 楽しんでもらえたら嬉しいですぅ(*´ω`*)ノ

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くにざゎゆぅ

    2020年5月5日 7時26分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • アマビエペンギンさん

    Phantom Cat

    ♡500pt 2019年7月14日 22時30分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くっ!早く続きを書け!

    Phantom Cat

    2019年7月14日 22時30分

    アマビエペンギンさん
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    2019年7月14日 23時25分

    応援ありがとうございます! 楽しんでもらえたら嬉しいですぅ(*´ω`*)ノ

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    くにざゎゆぅ

    2019年7月14日 23時25分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 異能力ものの冒険バトルファンタジーです。

    ♡112,420

    〇2,105

    異世界ファンタジー・連載中・162話 みぃな

    2020年3月28日更新

    "スピリスト" ある者は火を。ある者は水を。 精霊石という不思議な鉱石を手に入れ、魔力を操る異能力者たちの総称である。 常人とはかけ離れた戦闘能力と身体能力を持つ彼らの力。その代償はその能力をもって人を守り、また人が忌み嫌う精霊たちと戦うことだ。 しかしその強大な魔力は精霊たちが持つ霊力とよく似ていると言われており、彼らもまた人に忌避される存在だった。 新米スピリストである十三歳の少年ケイは、幼なじみのナオとハルトの二人と一緒に各地を旅していた。 政府から命令を受けては各地に赴き、さまざまな人や精霊たちと出会い時に戦う日々。 人でありながら精霊に似た力を『自ら』望んだ彼らには、それぞれに叶えたい『願い』があって――。 精霊と人。 同じようで違うふたつの存在が、やがて大きな戦いへと世界を導いていく。 知らず知らずのうちに戦いへと巻き込まれていく少年少女たちが、過酷な運命に立ち向かっていく冒険ファンタジーです。 ☆キャラクター紹介、各章表紙絵解説、季節イラストなどは創作サイト「七色蝶」にてご覧いただけます。 「SPIRIST」の世界をより深くお楽しみいただけますので、興味があればこちらへどうぞ↓ https://rainbowpapillon.jimdofree.com ☆基本的に一章でひとつのエピソードが完結しますが、全体通してひとつのお話を構成しています。 ☆時々イラストが出てきますが、特記が無ければ自作です。兼業絵描き。絵はmeenaという名前で活動しています。

  • 第二回ノベプラ大賞一次通過しました!

    ♡359,050

    〇1,080

    異世界ファンタジー・連載中・223話 駿河防人

    2020年6月7日更新

    「ちょっと運命的かもとか無駄にときめいたこのあたしの感動は見事に粉砕よッ」 琥珀の瞳に涙を浮かべて言い放つ少女の声が、彼の鼓膜を打つ。 彼は剣士であり傭兵だ。名はダーンという。 アテネ王国の傭兵隊に所属し、現在は、国王陛下の勅命を受けて任務中だった。その任務の一つ、『消息を絶った同盟国要人の発見保護』を、ここで達成しようとしているのだが……。 ここに至るまで紆余曲折あって、出発時にいた仲間達と別れてダーンの単独行動となった矢先に、それは起こった。 魔物に襲われているところを咄嗟に助けたと思った対象がまさか、探していた人物とは……というよりも、女とは思わなかった。 後悔と右頬に残るヒリヒリした痛みよりも、重厚な存在感として左手に残るあり得ない程の柔らな感覚。 目の前には、視線を向けるだけでも気恥ずかしくなる程の美しさ。 ――というか凄く柔らかかった。 女性の機微は全く通じず、いつもどこか冷めているような男、アテネ一の朴念仁と謳われた剣士、ダーン。 世界最大の王国の至宝と謳われるが、その可憐さとは裏腹にどこか素直になれない少女ステフ。 理力文明の最盛期、二人が出会ったその日から、彼らの世界は大きく変化し、あらゆる世界の思惑と絡んで時代の濁流に呑み込まれていく。 時折、ちょっとエッチな恋愛ファンタジー。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 超硬派なSF。のつもり。

    ♡3,000

    〇0

    SF・連載中・3話 高橋正臣

    2020年6月7日更新

    西暦2134年、小惑星アボフィスは地球に衝突し、未曾有の被害を発生さた。だがこの大災厄は皮肉にも、人類に人類統合政府の設立と、移民を前提とした宇宙進出を促す結果となった。2300年代に始まった木星の二大衛星、エウロパ、及びガニメデへの入植は、2600年代には一応の終着点に達した。この時、木星圏には全人類の過半数、約280億人が生活を営んでいた。そして、その背後には、更に多くの名も無きロボット達の姿があった……

  • 平穏を望む皇子は何故暴君になったのか…

    ♡5,100

    〇0

    SF・連載中・39話 紅城楽弟

    2020年6月7日更新

    地球からは見えない遠い銀河の中に輝く恒星・海陽。 12の惑星が集まる海陽系で、1つの時代が終わり新時代を迎える。 3000年以上に渡り海陽惑星系を徹底管理・支配してきた星間連合帝国が、 自由と平穏を求める統合軍によって滅ぼされたのだ。 ――それから78年後。 歴史学者のトーマ・タケダは最終戦争の真の背景を解き明かすため、 最後の皇帝ダンジョウ=クロウ・ガウネリンの生涯を辿っていた。 皇太子の愚弟として生まれ、 多くの英傑を率い、 国民に敬われる賢帝となり、 最後に暴君となった男。 ダンジョウは如何にして生き、死んでいったのか? 巨大な星間連合帝国 女性が主権の握るローズマリー共和国 世界中に数多の信徒を持つ神栄教 社会の裏で蠢くマフィアや軍需企業 陰謀、野心、愛憎、差別、 多種多様な人々が様々な感情の中で繰り広げるSF戦記 前編。 ※カクヨム なろう でも連載中。