第5話 ジプシー

「彼女は、転入生の宝龍紫織(ほうりゅうしおり)さん」  俺と彼女のあいだに流れる微妙な空気に気づかない夢乃は、俺のほうへ顔を向け、担任から聞いてきたらしい紹介の言葉を口にする。 「ホームルームがはじまるまで、案内ができるところをしておいてって担任に頼まれたの」  次に夢乃は、転入生のほうへと優雅な動作で振り向き、笑みを浮かべた。 「で、こちらは、あなたを職員室まで迎えにいくのをすっかり忘れた、このクラスの委員長の江沼聡(えぬまさとし)くんよ」 「また過ぎたことを」  少し情けなさそうな声を、わざとパフォーマンス的に発しつつ、俺はあえて彼女の視線から目をそらなさなかった。俺と夢乃が交わす言葉のやりとりを聞いているあいだも、転入生は俺の顔を見つめてくる。  そして、俺は、彼女の表情の変化に気がついた。  最初は驚いたような表情を浮かべていたが、しだいに目つきが険しくなる。最後のほうではギラつくほどの威力はないにしても、挑むような眼光をその瞳に宿していた。  話し続ける夢乃の言葉を聞きながら、俺はすばやく頭のなかでもう一度、この転入生に関するキーワードをチェックする。しかし、やはり俺の記憶のなかで、思い当たる人物は該当しなかった。 「ああ、学校を案内する時間がなくなっちゃうわ」  区切りのよいところで、夢乃のほうから話を切ってきた。  転入生の瞳を見つめたまま、俺は、夢乃へ問いかける。 「これから校内をまわるのか?」 「そうよ、早いほうがいいでしょう? そうそう、あなたの席はわたしの隣でいいかしら? 新しい机を教室まで運んできているのよ」 「ええ、お願いします」  夢乃が彼女へ声をかけると、うなずいた転入生の視線が俺からはずされる。教室の一番後ろまで運ばれてきていた机のほうへ転入生が顔を向けた、そのタイミングを狙って――うつむきながら俺は、そっと夢乃の耳朶に唇を寄せてささやいた。 「調べろ」  一瞬、夢乃は顔を動かさずに目だけを俺に向ける。  そして、応えるように軽くまばたきをした。  すぐに夢乃は、何事もなかったかのように、机のほうへ向かった転入生のあとを追って、するりと俺のそばから離れていく。 ◇◇◇  彼女たちの後ろ姿に目がついていきそうになった俺は、かけていた眼鏡のブリッジを左手の中指で軽く押さえ、そのまま先ほどと同じように、顔を窓の外へと向けた。  普段からポーカーフェイスを貫いている俺だ。非日常的なモードに入ったときは、感情を切り離して行動することができる自信がある。  しかし、不意打ちを食らって気持ちを乱されたり、不満や怒りを覚えたりすると、まだまだ感情を制御できず表面にだしてしまう未熟な部分があった。  いま、転入生の後ろ姿へ視線を向ければ、間違いなく俺も、たったいま彼女が見せたような挑む眼差しになってしまう気がする。  窓の外では、変わらず抜けるような青空が広がっていた。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 異能×バトル×その他色々

    ♡10,680

    〇100

    現代/その他ファンタジー・連載中・34話 ネイン

    2020年7月10日更新

    人々が社会生活を営む裏では、異能者が暗躍する世界があった。 世界各国の文化、歴史、思想の違いから様々な異能が生まれた。欧米、欧州では魔術が生まれ、中国では気の力を操り、アフリカ大陸、中東では神霊的存在から力を借りていた。 日本では能力者と呼ばれる異能の力を操る人々が暗躍した。時が経ち能力者の統率を目的として東京に所在する「東京本部能力所」を中心とし、四十二都道府県と特定の政令指定都市に能力所を配置した。能力所には能力者、研究員等が配置され、日本の裏社会で暗躍し続けた。 そして、二〇一二年四月十二日に発信された以下の報告から物語は始まる。 東京本部能力所 中枢部御中 二〇一一年四月十日、「神戸特区能力所」の管轄区域内にて、とある少年に能力の発現が確認されたが発見者である本条啓子は、交戦中で場が混乱していた為に少年の行方と所在が把握出来なかった件について進展があります。 昨日、発見者であった本条啓子が通学帰りに病院へ行った際、少年と再会し本日付けで一時保護する事が本能力所で決定致しました。頃合いを見て正式な能力者として迎え入れます。 急な連絡申し訳ありません。 追記:本人は了承済です。 -------------------------- 神戸特区能力所 所長 楠 瞬也 -------------------------- ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 また、この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※カクヨムにて同時掲載中!

  • ★7/8 外伝投稿★ 小説×漫画の挑戦 

    ♡212,550

    〇5,600

    現代/その他ファンタジー・連載中・9話 degirock

    2020年7月8日更新

    ★先に言っておきます! これはコメディですッ!!★ ☆みんなを笑わせたいのだ!!!☆ 例えばさ、『変身願望』って言葉があるじゃん? 小さい頃なんかだと変身ヒーローとか、大人なんかは今の自分を変えたい、とか。まあ色々さ。けどそれはやっぱり願望であって、願ってはいるけど頭のどっかでは「無理ではあるけど」みたいな一文がくっついてると思うんだよね。 でもそれって普通の事で、現実に対してそういった空想があって、そんでもって今とバランスを取ってるって言うやつ? まあ早い話が、俺はこの日常が嫌いじゃないんだよね。別に変わって欲しいとかは望んでなかった。 けれど。 空想出来る事は起こり得る未来の可能性…ってヤツが、ラッパを鳴らして登場しちゃったら? その時、俺達に選べる選択肢って…そうあるのかな。 ==================== この作品はノベプラオンリーではありません。 理由は、【小説寄りのスタイル】と【漫画寄りのスタイル】の両側面からの表現を試みている為です。 小説系としてはあたすことdegirockがここ、ノベプラに。 漫画系としてはイラスト担当のとうまがPixivに。 文字書きの物語と絵描きの物語、ご縁があればそのいずれもご覧頂ける事を切に願います。 Pixiv版についてはとうまのTwitterアカウントへどうぞ (https://www.pixiv.net/users/1125628)

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る