第23話 ほーりゅう

 ゲームセンターの中を歩いていくと、ボックスの中へ完全に入ってするゲームや、手持ちのカードを使ってネットで勝負するゲームのコーナーに着いた。  いろいろあるけれど、どれも初心者のわたしには難しそうだ。  その先に、太鼓を叩くゲーム、ギターを弾くような音楽ゲーム、車のゲーム、射撃ゲームが並んでいた。  わたしは、なんとなく射撃のゲーム台のひとつに近寄った。  ひとつの画面をふたりで共用する二人用で、受けた指令をクリアするゲームと説明にある。  どうやらジプシーの仕事みたいなゲームだ。  わたしは、付属の拳銃をひとつ、持ちあげた。  おもちゃといっても重い。  でも指をかけた引き金はとても軽い。  持たせてもらったことはないけれど、きっとジプシーの拳銃は、もっと重たくて、引き金は硬いんだろうなぁ。  そんなことを考えていると、また姿が見えなくなっていたジプシーが戻ってきた。  コイン投入口のそばに、千円札を崩してきたらしい百円玉の山を乗せる。  訝しげに見たわたしに、ジプシーは、百円玉を一枚だけ山から取りながら言った。 「せっかくやるなら、最終クリア画面を見たいだろ? ライフが無くなってコンティニューの文字が出ているあいだに次の百円を入れたら、その場から続けてできる。俺は百円玉一枚だけでいい」  なるほど。  なぜか後ろでニヤつく京一郎を尻目に、わたしはやる気になった。  任務の人質救出、してやろうじゃない。  ゲーム終了時、ジプシーは本当に百円一枚で最終場面まで辿り着いた。  そして予想通り、わたしは山と積まれていた百円玉を使い切る。  クリアしたことに満足したわたしは言った。 「お金は沢山使っちゃったけれど、達成感はあるよね」  京一郎は呆れた表情を浮かべる。 「今回はジプシーのおごりだとわかっているくせに。あれだけ躊躇なく百円を入れるほーりゅうにはもう、このタイプのゲームは、させられねぇな」  京一郎の言葉を聞き流し、射撃ゲームを楽しんだわたしは、さらにゲームコーナーを歩いていった。  すると、大型の景品を集めたクレーンゲームのコーナーに入る。  そして。  その景品の中の、一抱えはある大きさのぬいぐるみと、わたしは目があった。  近寄ってガラスに手をつき、まじまじと眺める。 「――これ、可愛いよね」 「なんだそれ。齧歯目っぽいけれど、流行のカピバラじゃないよな」  わたしは京一郎の言葉を聞きつつ、ぬいぐるみに付いているタッグをガラス越しに見る。 「にほんやまねだって」 「やまねって十センチもない準絶滅危惧指定だね。一種のネズミだ、ネズミ。なのになんだってこんな大きいぬいぐるみなんだろうな」  京一郎の文句のような言葉を気にせず、わたしは見つめた。  大きな眼。  背中に黒い一本の線がある。  尻尾がふさふさしていないから、リスには見えない。  やっぱりネズミかぁ。  でも。 「可愛いなぁ。欲しいなぁ……」 「やめとけって。大きな景品は一回二百円だし、絶対取れねぇって」 「でも欲しいなぁ。ほら、タッグに書いてあるじゃない。市販されていませんって。これって、欲しくても買えないってことでしょ?」  わたしは、無理だと主張する京一郎から、後ろで黙ってわたしたちの会話を聞いていたジプシーへ視線を移す。  すると、仕方がなさそうに、ジプシーはゲーム台の前に立った。 「え、やる気? このトリプルキャッチャー、振り落とし機能搭載型じゃねぇ?」  京一郎がジプシーに耳打ちをする。 「握力の強さの如何によっては、開放型かもしれないし、ボーナス設定もあるだろ」  眉根を寄せた真剣な表情で、ジプシーは返事をする。  なんだか取ってくれそうな雰囲気になってきた。  ジプシーは、やると言ったらやる男だものね。  わたしはワクワクと期待しながら、そばで彼の手もとを見つめた。 「この大きな愛くるしい眼、可愛いなぁ」  合流した夢乃と四人で昼食を摂るために、建物の一階にあるファミリーレストランへ入った。  お腹を満たしたあと、わたしは、袋からぬいぐるみを取り出す。  大きなぬいぐるみの顔を、真正面からほくほくと見つめた。  夢乃も、欲しかった本が手に入ったのか、嬉しそうにわたしに訊いてくる。 「ゲームセンターは楽しかった?」  わたしは即答した。 「うん、楽しかった。でも、ムキになったら散財しそうなところって感じだね」 「言いたいことは、それだけか」  そう言ったジプシーは、腕を組んで椅子の背にもたれ、無表情ながらも眼は据わっていた。 「やだなぁ。とっても嬉しいんだよ。取ってくれてありがとうね」  そう返事をしたときに、わたしが追加で注文したフルーツパフェが目の前に置かれた。  可愛いぬいぐるみと美味しいものに囲まれて。  なんだか楽しい気分だなぁ。  わたしはぬいぐるみを袋に入れ直して、パフェについてきた長いスプーンをうきうきと手にする。  そのとき、目の前の珈琲に視線を落としたジプシーが口を開いた。 「前の高校の元生徒会長が、昨日おまえに会いに来たんだって?」  わたしは、慌ててパフェからジプシーの顔へ視線を移す。  なんで知っているの?  すぐにジプシーは続けた。 「おまえの態度や話し方が面白かったらしいね。京一郎から聞いた。見逃して残念だ。で、返事はなんてする気?」  京一郎のお喋り!  わたしは恥ずかしさのあまり、急いで答える。 「やだなぁ。そんなに見ていて面白いものじゃないから。第一先輩の話は断るし。残念でした! もうジプシーが見たがっても、見せられるものじゃありません!」  ふぅんとうなずいたジプシーは、すぐに興味がないかのような素振りで、夢乃に向かって違うことを口にした。 「夢乃、島本さんっていくつだって?」 「え?」  突然の質問に、紅茶のカップを手にしていた夢乃が、今度はうろたえる。  ジプシーったら、自分でわたしに先輩の話を振っといて、すぐに夢乃に違う話を持っていった。  なにを考えてんだろうなぁ。  話題が逸れて、これ以上先輩との件を問い詰められないわたしは、ありがたいけれど。 「えっと、――二十六歳」  年齢差を気にしたのか、少し恥らいながら、夢乃はジプシーの質問に答える。  ジプシーは、その様子を気にする様子もなく続けた。 「医学部っていま、六年制だったっけ。ほかの四年制の学部と同じで、留年をしてもプラス何年かの在学猶予があるのかな。島本さんは何年?」 「教養課程がもうすぐ終わって、専門に入るって言っていたから……」  ジプシーの話が見えずに、戸惑ったように夢乃は返事をする。 「ってことは、次は医学部三年か。年齢が合わないな。浪人する人には見えないし、裏の仕事で長期休学でもしていたのかな」  ジプシーには、なにか気になることでもあるのか、そのまま腕を組んで考えこむ。  わたしは、なんだろうと思いつつも、島本さんの学歴は全然気にならない。  そばに置いた袋から顔をのぞかせる、愛くるしいにほんやまねの大きなぬいぐるみを横目で眺めながら、わたしはフルーツパフェのイチゴをほおばった。

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