勇者パーティーを追放されたシーフが過去改変で皆を救う物語(ハッピーエンドが好きな人のための)

031-怪盗ルフィンの挑戦状

【聖王歴128年 緑の月 5日】 コンコンコンッ  朝からのんびりと宿で過ごしていると、突然ドアをノックする音が部屋に響いた。 「プラテナ城の使いの者です。こちらにカナタ殿は居られますでしょうか?」  ドアの向こうから聞こえる声に、ユピテルが(いぶか)しげな顔で俺に目線を向けてきた。 『カナタにーちゃん何やったの?』 「別に何もやってねえっ! っていうか、前も似たような展開を見た気がする……」  そもそも俺が何かやらかしたのであれば、こんな丁寧に呼びかけないで、ドアを蹴破って突入して来るだろうに。  城からの使者って事は、またプリシア姫からの呼び出しだろうか。 「んじゃ私が出るよ~。はいはい、よっこらどなた様だぉ~?」 『よっこらどなた様って……だぉ~って……』  ユピテルが何とも言えない顔で呟いているのを尻目にサツキがドアを開けると、そこにはシャロンの実家にいたメイドさんと同じ服装の若い女性が立っていた。  少し癖っ毛な長い黒髪の三つ編に丸い大きなメガネ姿が何とも特徴的で、どこからどう見ても「ド真面目な家政婦さん!」って感じである。 「聖王都って、その服が流行ってるの?」 「へ? あっ、これは我が"メイド商会"の制服でして。なるほど、あなた様は他のメンバーと面識があるのですね」  なんという事でしょう!  この街にはお金を積むだけでメイドさんを派遣できるサービスがあったというのです!!  それはつまりィィィ……!!! 『ダメですよ♪』 「俺まだ何も言ってないよぅ……」 『ダメですよ♪』  大事な事なので二度言われました。  ニコニコ笑顔なのに妙な迫力のエレナに凄まれ、俺はシュンとなりつつも気を取り直し、メイドさんの話を聞くことにした。 「申し遅れましたが、私はアナイスと申します。早速ながら本題に入らせて頂きたいと思うのですが、実はこんなモノが届きまして……」  そう言って手渡されたのは、一通の手紙。  中を開けるとそこにはとんでもない事が書かれていた。 【挑戦状】  今宵、城の宝物庫に眠る「宝剣ライトニングダガー」を頂きに参上致します。  ~怪盗ルフィン~ 「怪盗っ!?」  突然の話に俺達が驚いていると、アナイスは詳細を語ってくれた。 「怪盗ルフィンが狙う宝剣ライトニングダガーは、使用者の能力に応じて切れ味が増す特性をもった魔法剣です。使い手によってはミスリルやオリハルコンすらも切り裂くと言われており、人間の体なんてまるで薄紙のようなもの……。もしも悪意を持った者の手に渡れば、どれほどの被害が出るのか想像もつきません」  アナイスは目を伏せると、起こりうる惨劇を想像し恐怖に身を震わせた。 「残念ながら勇者カネミツ様は既にエルフの森を越えてしまい、頼ることが出来ない状況です。そこで、先の一件で勇者カネミツ様と共にプリシア姫をお助け頂いたカナタ様達に御協力をと思いまして……。どうか、怪盗ルフィンから宝剣ライトニングダガーをお守り頂けませんでしょうか」 「うーん……」  まさかの依頼に俺が困惑の色を隠せずにいると、チビッコ達が俺の前に飛び出して騒ぎ出した。 『カナタにーちゃんっ。そんな危なっかしいモンが誰かの手に渡っちまうのはダメだろ。協力してあげなよ!』 「うんうんっ! 盗賊(シーフ)VS怪盗なんて、悪役(ヒール)同士の対決っぽくてカッコイイじゃん!」 「ユピテルはともかくとして、サツキは理由がおかしい」 「えー、なんでさーっ」  というか、こんな事件「俺のかつて見た世界」では無かったんだけどなぁ。  もしかして、カネミツが街に戻らなかった事で歴史が変化し、怪盗ルフィンとやらが計画実行の妨げになる者が居なくなったと判断してしまったのだろうか。 「想定外だけど大丈夫かな?」 『もちろんです。困っている人を見過ごすなんて出来ませんっ』  妙にやる気満々なエレナに思わず苦笑しつつ、俺はアナイスへ今回の件について協力する意志を伝えたのだった。 ◇◇  プラテナ城に到着した俺達は、アナイスに連れられて宝物庫前の広間へとやって来た。  だが、周りをキョロキョロと見回していたサツキが不思議そうな顔をしている。 「どうした?」 「いや、他に協力者は居ないのかなーって」  確かにサツキの言う通り、宝物庫周辺には俺達以外の姿は無く、怪盗に狙われているにしてはあまりにも警備が手薄すぎる。 「当然ながら城の者達も警備を行いますが、傭兵として協力頂くのはカナタ様達だけです」 「盗まれたら一大事なら、カネに物を言わせて街中の強者を集めちゃえば良くない? これだけおっきい国なら、人集めくらい余裕でしょ」  身も蓋もなさ過ぎるサツキの意見にアナイスは呆気に取られつつも、改めてその理由を説明してくれた。 「宝剣ライトニングダガーのように極端に強い力を持つ宝具については、国家として存在を公言しないものなのです。もしも多くの傭兵を集めて守ってしまうと存在が公になるうえ、その事実が過剰に価値を高めてしまい、第二第三の怪盗に狙われる事態も考えられますので……」 「なるほど。協力者を俺らだけにしておけば情報が広まりにくいし、そもそもこのメンツだもんな。サツキがうっかり口を滑らせて、お城の宝物庫に伝説の武器があるんだよ~っとか言ったところで、誰も聞く耳持たないってわけだ」 「あたしそんなに口軽くないもんっ!」  サツキが不満そうに文句を垂れるものの、それをジト目で見つめるユピテルの顔からは『絶対言いそう』という本音が滲み出ている。  ただ、それをバカ正直に言ってしまうとユピテルがサツキに襲われる未来が訪れてしまうので、黙っておくことにした。  俺は愚妹と違い、口が堅いのである。 「とにかく、怪盗ルフィンが宣言通り来るとすれば今夜が勝負だな。ただ、事前に何か仕掛けられる可能性あるし、俺達は今からここで張り込もう!」 「えー、まだ外も明るいのに~? ……だったら、あたしとユピテルは適当にそこらで遊んでていい?」 『なんでオイラも巻き込むのさ……』  とは言うものの、怪盗と遭遇した際にサツキが一緒だと色々と危なそうだし、現場(ここ)から離れてくれるのに越したことはない。  ユピテルは不満そうだけど、一緒に付いていてくれるならサツキも無茶はできないだろうし。  そんな俺達のやり取りを見て、アナイスは少し苦笑しながらサツキとユピテルの前でぺこりと頭を下げた。 「私が城内をご案内しましょうか?」 「えっ、ホント? わーい、ありがと~」 『すみませんアナイスさん……。あっ、勝手に先に行ったら駄目だよーっ!』  そんなわけでチビッコ達は騒ぎながら城内探検に出発し、時々巡回する衛兵を除いて、広間に居るのは俺とエレナの二人だけとなった。 「サツキの奴、城の人達に迷惑かけなきゃ良いんだけど……はぁ」  溜め息を吐いた俺を見て、突然エレナが俺の頭を撫でてきた。 「え、なに???」 『カナタさん、この件で何か悩んでるみたいですけど、それは私にも相談できない事ですか?』 「っ!」  驚く俺に対し、エレナは優しく微笑んだ。 『こういう時は、きっと話しちゃう方が楽になれますよ。どんな話でも、私はカナタさんの味方です♪』 「……ははは。まったく、勝てねえなぁ」 ◇◇  同日深夜。  サツキとユピテルは遊び疲れたせいか見事に休憩室でぐっすりお休み中なわけだが、宝物庫周辺はピリピリと肌が焼けそうな程に緊張した空気が立ちこめていた。 「そちらは何か気づいた事はあるかね?」 「いんや、俺の危機感知スキルは明確な殺意じゃないと反応しないんだ」  俺の返事に、鎧を着た髭面のおっちゃんは残念そうに「そうか……」と呟いた。 『それにしても、その怪盗さんはどうやって城の警備を突破するつもりなのでしょう?』 「だよなぁ」  エレナの言うように、怪盗ルフィンが挑戦状なんて送りつけてきたもんだから、城内の警備は警戒度MAX状態だ。  外部から城に侵入しようにも、姿を見られるや否や魔術師団の猛攻撃で消し炭にされてしまうだろうし、空から侵入しようにも、先のプリシア姫誘拐事件以降そちらの警備も厳しくなっているのである。 「フッ、この完璧な警備を破れるはずがあるまい。怪盗ルフィンとやらも我らに恐れをなして逃げ出すだろう!!」 『あっ、それフラグ……』  髭面のおっちゃんの発言に対しエレナが不思議な事を呟いたその時…… 「た、たたたたた、たいへんですーー!!!」  アナイスが見覚えのある便せんを手に、慌てた様子でやってきた。 「どうした騒々しい!」 「ライナス殿下、こ、こちらをご覧くださいませ!」  新事実! 髭面のおっちゃんの正体はメッチャ偉い人でしたーーっ!!  ずっとタメ口で話してたけど、後で不敬罪とかで怒られたりしないかなぁ。  俺が内心ビクビクしていると、ライナス殿下の顔色が変わった。 「こ、これは……!? クソッ、してやられたかっ!!」  ライナス殿下は手紙を投げ捨てると、慌てて宝物庫の魔法鍵を解き、室内へ飛び込んでいった。  俺は床に落ちた手紙を拾い、書かれていた文面に目を通す。 【御礼状】  ライトニングダガーは頂いた。  また会おう!  ~怪盗ルフィン~ 「嘘だろっ!?」『えええーーっ!?』  俺とエレナが仰天していると、宝物庫から呆れ顔のライナス殿下が歩いて出てきた。  その手には、鞘に入ったままの宝剣ライトニングダガーがあった。 「何が頂いた、だ。単なるハッタリにまんまと踊らされるとは……」  だが、ライナス殿下が安堵の溜め息を吐いたその瞬間、強烈な悪寒が走った。  これは……パッシブスキル危機感知っ!? 「やべえ! みんな早くここから逃げ……」 「遅いッ!!」  怪しげな声が聞こえた直後、辺りは紫色の煙に包まれた。

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