【聖王歴128年 青の月 35日 同日午後】
「というわけで、おにーちゃん。エレナさんとデートに行きなさい」
「何が、というわけだよ……」
城から戻って早々、サツキが突拍子も無い事を言い出した。
「おにーちゃんが奥手で優柔不断で八方美人のクソ野郎ってのは分かったから、アレを何とかしなさい」
「言い方ァァァーー!!! ……って、アレ?」
サツキが指差した先では、不機嫌そうに頬を膨らしたエレナがジト目でこちらを見ていた。
「あの、エレナさん……?」
『なんですかー』
「怒ってらっしゃる……?」
『怒ってなんかないですよー』
「その割に雰囲気が怖いというか何というか。何かご所望では……?」
『所望ですか。……単に、どこか良い感じのカフェで、良い感じのスイーツとか頂いちゃったりして、何だか心がワクワクするような楽しい一時とか思っているかもしれませんね?』
「承知しましたァーー!!」
◇◇
正直な話、何が何だかサッパリなのだが、俺はエレナと二人で南街へとやってきた。
聖王都プラテナは東西南北四つの街が十字型にくっついたシンメトリー構造になっているのだけど、当然ながら場所が違えば人も店も違う。
南街は若者向けの飲食店が多いのが売りで、要するにデートスポットというヤツである。
『~♪』
そして、南街で最近流行っている話題の「いろんな形に切って盛り付けたフルーツの山」を前に、さっきまで修羅のように殺気立っていたはずのエレナはとっても御満悦の様子。
そういえば、聖職者のメアリーさんに護衛を頼まれた時も突き飛ばされた事もあったし、何とも女心というのは難しいなぁ。
「何気にエレナと二人で食事って初めてなんだな。いつもサツキがくっついてたし」
『あはは。サツキさんはお兄ちゃん大好きっ子ですからねぇ』
ウサギっぽいデザインのリンゴをモグモグしながら、エレナが不思議な事を言う。
「大好きっ子って……。その割にさっきクソ野郎とか言われたんだけど」
『まあまあ、それも好意の照れ隠しみたいなもんですって』
我が妹ながら何ともひねくれた愛情表現には、おにーちゃん困ってしまうよ。
……まあ、サツキがベッタリ甘えてきたら、それはそれで不気味なのだが。
そんな話をしていると、周りの人達が何やら色めき立ちながら北に向かって移動し始めた。
『何かあったのでしょうか?』
「んー……ああ、なるほどな。どうやら、プリシア姫とピートが御披露目で街に顔を出したみたいだ」
国王の鶴の一声でピート達が聖竜と呼ばれるようになったものの、それを国中に周知するにはまだまだ時間がかかるのである。
どうやら、周知活動を促進しつつ姫が外出したいという「おてんばな欲求」を両立できるという理由から、聖王都の民や冒険者へ顔見せをする目的でプリシア姫とピートが街を練り歩いているんだそうな。
『プリシア姫とピートさん……二人とも幸せそうで、本当に良かったです』
「ああ、全くだ。シャロンの時も思ったけど、やっぱ何て言うか……嬉しいよなぁ」
言葉で表現するのは少し難しいけど「嬉しい」が一番近い気がする。
エレナも同じなのか、さっきまでのふくれ面が嘘みたいに優しく笑った。
「そういや、吟遊詩人がプリシア姫とピートを讃える弾き語りとかも出てきたらしいよ。酒場に行けば聴けるってさ」
『へぇ、何だかカッコイイですね~』
噂によると、怪我をしたピートをプリシア姫が治療してあげたところ呪いが解け、本来の姿である聖竜になった~みたいな内容で、ラストシーンでは誘拐されたプリシア姫を聖竜ピートが救出する話らしい。
当然ながら俺達の存在は微塵も出てこないのだけど、シーフとその仲間達がドラゴンに乗って真夜中に城の警備を突破したなんて話が広まるのは非常にマズイので、このまま作り話が広まってくれる事を願いたいところだ。
『そして、人族の姫と竜族の子は親友として寄り添い続ける……。はぁ~、異なる種族同士が互いの価値観を認め合い共存できるって、とても素敵ですよねぇ』
「そうだなー」
『ああいうのって、憧れますねぇ』
「うんうん」
『やっぱり、種族の違いなんて些細な事ですよねぇ』
「お、おう」
なんかエレナがすごくグイグイ来る!?
俺は少し戸惑っていると、エレナの顔が近づいてきた。
『私は、カナタさんとずっと一緒に居たいです。これからもずっと……ずーっとです!』
「お、おう」
同じ返事を繰り返してしまったが、それからエレナはジッと俺の目を見つめたまま黙ってしまった。
これは、何か返事を待っているのか……?
『……』
「……お、俺は……いや、俺も……エレナとっ!」
そして――――
「食い逃げだーーーーーっ!!!」
いきなり屋台の方から聞こえた叫び声に俺達はハッとなると、元の距離に戻った。
さらにその直後、近くでガタッと物音がして、そちらに目を向けると……
「くそったれええええぇぇぇーーー!!! 何でこのタイミングな゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ーーーーーー!!!」
……物音の正体はサツキでした。
「お前、なんでコソコソ隠れてんの……」
「このシーン! この雰囲気! この流れで! まさかの食い逃げイベント!! 空気が読めないにも程がっ!! あたしのこの想いの行方は何処へ……こんにゃろおおーーーーーあ痛ぁっ!?」
カフェのど真ん中で騒ぐ愚昧をチョップで黙らせつつ、叫び声が聞こえた方へ目を向けると、頭にボロ布を被った少年が席の間を縫うように走り抜けている姿が見えた。
小さな手には茹でたジャガイモらしきモノが握られている。
「なるほどな。こういう大きい街だったら、そりゃこういう子もいるよなぁ」
俺は何ともやるせない気分で逃げる少年を眺めていたのだが、サツキはそれを指差しながら俺の肩をバシバシと叩いた。
「泥棒なんてダメだよっ!! あんにゃろーを一発殴……じゃなくて、捕まえなきゃ!」
「お前めっちゃ本音が漏れてんぞ……。でも、しゃーねえかなぁ」
あまり気乗りしなかったが、フルーツに刺さっていた木串を右手に握ると、魔力を込めて……
「影縫いっ!」
俺は少年の走る軌道を予測し、右手のそれを真っ直ぐに投げた。
『うわあっ!?』
投剣の要領で投げた串は見事に食い逃げ少年の影を捕らえ、毎度おなじみ影縫いスキルが発動した。
『な、なんだよこれっ! 動けっ、動いてくれよぅっ!』
「まあ、食い逃げする方が悪いって事で」
『なっ!? ちくしょー! こんなトコで捕まってる場合じゃ無いんだよぉー! うわーん、助けてぇー! ねーちゃーーーんっ!!』
往生際が悪すぎるガキンチョだったが、結局やってきた店主に捕まると、ズルズルと引きずられていった。
「聖王都っつっても、やっぱり皆がみな金持ちって訳無いもんな」
俺がぼやいていると、エレナが目を細めながら少年をジッと見つめ……顔色が変わった。
『カナタさんっ!!』
「ん?」
『あの男の子、エルフですよっ!!』
「「ええええーーっ!!?」」
【簡易ステータス表示】
レベル:13
名前:ユピテル
職業:弓手
内容:森エルフ
性別:男
属性:無
年齢:12
俺は慌てて席を立つと、エルフの少年を引きずりながら怒り心頭な店主のおっちゃんに話しかけたのだった。
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Neo
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Neo
2020年4月1日 21時31分
Imaha486
2020年4月3日 0時01分
年度末終わって落ち着いてきたのでもうそろそろリハビリがてら執筆再開しよう(・ω・;
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Imaha486
2020年4月3日 0時01分
透吉 太夫
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透吉 太夫
2020年11月10日 0時19分
Imaha486
2020年11月10日 11時10分
そして「一巻のラスト」へと物語が動き始めるのです(・ω・)
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Imaha486
2020年11月10日 11時10分
さみて きぜはる
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さみて きぜはる
2019年7月23日 6時36分
Imaha486
2019年7月23日 12時10分
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Imaha486
2019年7月23日 12時10分
oke4649
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oke4649
2020年8月10日 20時42分
Imaha486
2020年8月11日 8時30分
それではここから事実上の「第一部ラスト」をお届けしまっす('ω`)
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Imaha486
2020年8月11日 8時30分
ゆう
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ゆう
2019年7月22日 7時20分
Imaha486
2019年7月22日 8時02分
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Imaha486
2019年7月22日 8時02分
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