勇者パーティーを追放されたシーフが過去改変で皆を救う物語(ハッピーエンドが好きな人のための)

016-誘拐事件発生!

【聖王歴128年 青の月 26日】  日誌を読み終えた俺達は、今後どうすべきかを宿の一室で話し合っていた。 「勇者パーティにプリシア姫の誘拐について伝えられたのは28日の朝だったから、恐らく実際に姫がドラゴンに連れ去られるのは明日27日だと思う。俺のシーフ転職やら何やらで勇者パーティ全員が城から離れてたしな」 『だったら、私達が城の周辺で待ち伏せすればドラゴンの襲来も気づけるかもしれませんね』  エレナの言葉に、サツキは嬉しそうにウンウンと頷いた。 「そこでおにーちゃんがお姫様を護ってあげれば全部解決じゃんっ! しかもお姫様に恩を売れるのだから、一石二鳥だよっ」 「お前なぁ。シャロンの防御魔法が無ければ俺達は確実に消し炭になっていただろう~……ってあるだろうが。下手に突っ込んだら、プリシア姫を助けるどころか全員、灼熱の炎で焼き尽くされて一発アウトだぞ」 「ヒェッ」  とは言うものの、今の俺ならドラゴンの弱点が首である事も知っているし、不意打ちさえ食らわなければ「影縛り」で足止めをしている間に倒せそうな気はする。  それよりも気になるのが、俺自身が記録の文末に何やら意味深な言葉を残していた事だ。  ――お姫様だけはずっと暗い表情で遠くの空を眺めていた。 『ここ、なんだか凄く気になります。お姫様に何があったのでしょう……?』 「おにーちゃん、ここでちゃんと姫様に確認しておかないとダメじゃんー」 「ムチャ言うなって。俺らみたいな庶民が国王やら姫様やらと謁見するだけでも大事(おおごと)なんだから」  そもそも2年近くも前の話だし、正直なところ詳細までは覚えていないのだ。  当然ながら、俺はプリシア姫が落ち込んでいた理由は今も知らないままである。  そして話が平行線のまま時間だけが過ぎる中、何かに気づいたエレナが恐る恐る俺の日誌の一文を指差した。  それはさっきも俺が言った「シャロンの防御魔法が無ければ俺達は確実に消し炭に~」のくだりであった。 「何か気になる点でもあった?」 『あ、いえっ。シャロンさんは魔法学校に残ったわけですけど、勇者さん達……これ大丈夫なんでしょうか』 「……あーっ!」  エレナが何を言いたいのか理解できた。  ドラゴンの放つ『灼熱の炎』は鉄すらも溶かす凄まじい威力なのだが、それに耐えられる防御魔法の使い手たるシャロンは、今も元気に魔法学校に在籍中である。  つまり、プリシア姫がドラゴンに誘拐された後、何も知らない勇者パーティ一同が突っ込んでいったら……。 【ざんねん! ゆうしゃのぼうけんは ここでおわってしまった!】  ……いやいやいや、それはイカンですよ!  こんな場所で勇者パーティに全滅されようものなら、俺らの旅がどうこう言う以前に世界の将来に関わる一大事である。  まさかの状況に俺が頭を抱えていると、ついにしびれを切らしたのかサツキがバッと椅子から立ち上がった。 「悩んでても仕方ないし、まずはお城に行ってみようよっ! 私達が姫様と一緒にいれば、ドラゴンが近づけないかもしれないし、とにかくやるだけやってみようっ!!」  サツキがそんな提案をしてきたものの、俺は何となくダメな予感がしていた。  その理由は……言わずともがな。 【聖王歴128年 青の月 26日 同日昼過ぎ】 「うえーん、どぼじでーーー!」  俺達はプリシア姫を護るべく城へ向かったわけだが、結果は見ての通りサツキが泣きじゃくるのをエレナが困り顔でなだめる結果に終わった。  つまり、早い話が門前払いである。 「そりゃ、勇者でもないのに顔パスで城に入れるわけねーよな」  それどころか、第三者から見れば俺達は「素性の知れないシーフ」「フードを深くかぶった謎の女性」「やたら元気な田舎娘」という個性的すぎる三人組なわけで。  こんな怪しい連中をどうぞどうぞと城に入れようものなら、門番のおっちゃんは即日クビであろう。 「っていうか、入れるわけ無いって思ってたなら教えてよっ! なんで黙ってたのさ!?」 「サツキが大人のれぃでぃーになるための人生経験?」  無言で首を絞められました。 「とにかく、城の近くで騒いでたら衛兵達にも迷惑かけちまうんだから。さっさと離れようぜ」 「ぶーーっ!」  不満そうにぶうたれるサツキを引きずりながら、俺は再び北街へ戻ろうと振り返る。       「……!」「……っ!」「……!!」  ――何か違和感があった。 「???」 『カナタさん、どうかされましたか?』 「いや、城壁の向こうで何か物音が聞こえなかったか?」 「あたしは全然わかんなかったー!」  最初からサツキには何も期待してなかったけど、エレナも不思議そうに首を傾げている様子を見る限り、この違和感を気にしているのは俺だけのようだ。 「うーん、気のせいかもしれないけど、一応見に行ってみるかなぁ」  俺は二人を連れて堀に沿って城の東側を歩いていると、猛スピードで馬に乗った男が隣をすれ違った。  その右腕には大きな麻袋が抱えられていて、かなり大きい荷物のようだ。 「あんなデカい荷物、普通はサドルバッグに入れないと馬がバランスを取りづらいだろうになぁ」 『っ!!』  エレナが何かに気づいたのか、両手を前に突き出しながら目を鋭く細めた。  その視線の先は馬に乗った男……ではなく、男の腕に抱えられた大きな麻袋だった。 【簡易ステータス表示】 レベル:11 名前:プリシア 職業:王女 内容:人 性別:女 属性:聖 年齢:10 『あの袋の中にプリシア姫がいますっ!!』 「なんだってっ!?」  俺は急いでダガーを握り投擲(とうてき)の構えを取る!  だが時すでに遅し、馬に乗った男はそのままどこか遠くへ走り去ってしまった。 ◇◇ 「っていうか話が違うじゃん! そもそも誘拐事件が起こるのは明日じゃなかったの!?」  宿の部屋に戻るや否や、サツキがもっともな疑問をぶつけてきた。 「あくまで勇者パーティに情報が伝わったのが28日だったから、誘拐されたのは前日の27日かもしれない~ってだけの話だったんだけど……。まさか誘拐から二日も経過してたのは想定外だし、そもそもプリシア姫はドラゴンにさらわれたはずなのに、なんで人間に誘拐されてんだって話だよ」 『シャロンさんが魔法学園に残ったから、歴史が変わってしまったんでしょうか……?』  エレナは不安そうに言うものの、俺には何となく「もっと別の可能性」が頭に浮かんでいた。  ――もしも「最初からドラゴンが誘拐に関与していなかった」としたら?  例えば、誘拐事件が人為的に起こされたもので、最初から勇者にドラゴンを退治させる事が目的だとすれば……?  俺はその可能性を口にすると、二人はハッとした顔になった。 「あたしも今気づいたんだけど……そもそもドラゴンが姫を誘拐した理由って何? おとぎ話じゃあるまいし、理由もなくドラゴンがお姫様を連れ去るとか絶対おかしいよね」 『それに、ドラゴンが姫を連れ去ったと証言をしたのは大臣さんみたいですけど、よくよく考えるとそれだっておかしいです。こんな大きな国にドラゴンがやって来てお姫様を捕まえて去って行くような状況なら他に目撃した人もいるはずですし、王様に呼ばれる前からとっくにカナタさん達の耳にも入っていたと思うんです』 「……そして、もしもドラゴンが人間に見つからないよう、真夜中に闇夜に紛れて姫を連れ去ったのであれば、どうしてその時間に大臣がプリシア姫の誘拐現場を目撃したのか? ってのも疑問だな」  かつて勇者パーティに「プリシア姫が誘拐された」と知らされた時は、緊急事態であるがゆえに何も詮索しなかったのだが、いざ第三者的立場から客観的にこの事件を俯瞰(ふかん)すると、どうにも不自然な点だらけだった。 「とにかく、姫が捕らえられてる洞窟に行ってみよう。そこに行けば何かが分かるかもしれない!」

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