立ち上る湯気、真夏の熱気

「うどんでも食うとね?」  あれは晴れた夏の一日だった。  その日もとても暑かったと記憶している。  もっとも、あの頃より今の方が暑い気がするのだが。  ーーうろん。  夏休みを利用して、母方の実家を訪れた俺と弟。  照りつける太陽のもと、虫取りに勤しんできた俺達はとにかく冷たいものを食べたかった。 「ばあちゃん、喉かわいたー!ジュース!」  勝手口に駆け込むと、俺は開口一番ジュースを要求していた。 「ジュースもええけんど、そろそろお昼じゃけん。  食べたいものあるか?」  まるで祖母の言葉を待っていたかのように、鳩時計が昼どきを告げる。  台所で煮物を作っていた祖母は、菜箸で何かを転がしながら俺たちの要望を聞いてきた。  俺と弟は顔をしばらく見合わせていたが、これと言った案が出ないので 「なんでもいいけど、冷たいものがいいー。」  と言って祖母を困らせた。  あれがいいか、いやあれにしようか、と祖母が思案する中、  ふと、台所の隅にあった箱に興味を示す弟。 「ばあちゃん、あれ何?」  ーーうろん、うろん。  聞けばそれは贈り物でもらった乾麺のうどんだという。  祖母はそうだ、とばかりに俺たちに聞いてきた。 「うどんでも食うとね?冷たかうどん。」  すっかり腹をすかせていた俺たちは、大きくうなずいた。  すぐさま祖母は鍋に水を張り強火で火にかける。  しばらくして沸騰したお湯に祖母は袋から出したうどんの乾麺をバラバラと入れた。  俺と弟はコンロから少し離れたところで椅子に立ち上がり、大きな鍋で茹でられるうどんを覗き込んだ。  もうもうと立ち上がる湯気、ぐるぐると湯の中を泳ぐうどん。  まるで活きのいいうなぎがのたうち回っているようだ。  ーーうろん、うろん、うろん。  いつしか俺たちはその様子に見入っていた。  ◇ 『ピピピピピピピピ……』  100均で買ったキッチンタイマーがけたたましく鳴り響く。  熱気と湯気に当てられ、いつの間にかボーッとしていたようだ。  狭い借家での料理では、室温の管理に気を配らなければならない。  ましてや今は真夏の昼。クーラーをガンガンに効かせてもあっという間に室温が上がってしまう。気を抜いた日には熱中症一直線だ。  コンロの火を消した俺は、蛇口を開いてシンクに水を流し、蓋を少しずらした鍋を傾ける。  ……男の一人暮らしにザルなんて洒落たものはない。  そう、鍋だけで湯切りをしなければならないのだ。  それはとてもシビアな作業だ。  気を抜けば、せっかくのうどんが排水口へ流れ込む。  かといって、適当な湯切りでは冷水で締めるのにも時間がかかる。  可能な限り慎重に、かつ大胆に行わなければならない。  鍋から勢いよく流れ出る熱湯が、排水口に吸い込まれてゴポゴポと音を立てる。  「よし、いいぞ、順調だ。」  みるみるお湯が抜けるさまを蓋のガラス越しに眺めながら、俺は気分を良くしていたその時。ステンレス製のシンクが、まるで裏側からから誰かに殴られたようにボコンという大きな音を立てた。  ーーうろん。  不意のその音に、思わず手の力が緩む。 「あっ!」  そのスキを狙っていたのか、何本かのうどんが"ずるり"と鍋肌を滑り落ちた。  ここで慌てて掴もうとしようものなら、蓋が滑り落ち残りのうどんが逃げてしまう。仕方なく俺は逃げたうどんを諦める。 「くそっ。」  その数、実に三匹。逃したうどんは大きい……とは思わないが、もったいない。  俺は残りのうどんを冷水で締めながら、これ以上逃さぬよう慎重に事を進める。  さあ、うどんはできた。  次はつゆだ。  俺はめんつゆと梅干しを取りに冷蔵庫に向かった。

ここまで読んだ方に再度問います。前のエピソード中(タイトルを含む)に「うどん」は何度登場したでしょうか?
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