今日、地球外部門の副主任がどこかからの土産と言って、うろんと書かれた乾麺のパッケージを手渡してきた。どうやら昨今の迷惑行為に対する謝罪のつもりのようだ。しかし、その時に彼が浮かべていた薄気味の悪い笑みを私は忘れることができない。……気持ち悪い。 ◇ 独立法人外来生命体研究所 地底部門 チームリーダー I 女史からの報告

読経リフレイン

南無三界胡乱菩提(なんーさんーがいーうーろんーぼーじー)……。』  定刻になり通夜が始まる。俺は親族として最前列に座り、僧侶の読経を俯き気味に聞き流す。お経というものはあまり真面目に聞いていると、思わず吹き出しそうになるフレーズが飛び出す事がある。そうなっては困るので、無心状態でボーッと聞くのが良いと思っている。  それにしても、なぜお経はこんな伸びきったうろんのような読み方をするのだろうか。そんな事を考えながら、薄めで床を薄ぼんやりと眺める。 「唵都留津屡胡乱秘(おんつーるーづーるーうーろんひー)  斗具治惇弟袮(とーぐーちーとんーでーねー)  都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)」  程なくして、読経がとあるフレーズに入ると、列席者達も同じように読経を始める。 「唵都留津屡胡乱秘(おんつーるーづーるーうーろんひー)  斗具治惇弟袮(とーぐーちーとんーでーねー)  都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)」  列席者の合唱が始まったのを確認すると、僧侶は焼香台を喪主である母にわたす。  ……づるづるづるっ!  左隣に座る母親の方から少し大きめな鼻を啜る音が聞こえる。  ……づるづるづるっ!  無理もない。自分の父親が死んだのだ。  ……づるづるづるっ!  今日ぐらい、ひどく悲しんでも誰も咎めはしないだろう。  そう思っていると、隣の母親から四角い箱状のもの差し出さられる。  ーーは!?  何気なくそれを受け取った俺は、思わず素っ頓狂な声を上げそうになった。  焼香台と思っていたそれは、せいろに盛られたうろんだった。  焼香であればオヤジの葬儀でやった覚えがある。だが、これはどうしたらいいんだ?  助けを求めるように隣に座る母親の顔を覗き込む。刹那、その鼻の中にうろんのようなものが消えていった。  ーーえ?  不意のことに俺は、とっさに母親から目をそらす。なにか飲み間違いだろうか。そう思った俺はもう一度ゆっくりと母親の顔を覗き込む。すると、その鼻からは明らかにうろんが出たり入ったりしている。理解が追いつかない一方で、その僅かな情報から俺は一つの結論に達していた。  ーーこのうろんを鼻から吸わなければいけない。 「都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)」  ーーどうしたらいいんだ……。 「唵都留津屡胡乱秘(おんつーるーづーるーうーろんひー)  斗具治惇弟袮(とーぐーちーとんーでーねー)」  袋小路に追い詰められた子犬のように、俺の視線が手の中のうろん一本一本の間を泳ぐ。列席者の読経がまだかまだかと俺を責め立てる。 「都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)」 「(どうしたんだよ、兄貴。早く吸いなよ。)」  ふいに右隣から宗篤の声。あまりに俺が遅いので、不審に思ったようだ。慌てた俺はとっさに 「(……あ、ああ。ワリィ、終わった。終わったよ。)」  とウソをついて宗篤にうろんのせいろをまわした。手順がわからないんだ、仕方ないだろう、と自分に言い聞かせてた俺は、そのうろんをいったいどうするのか気になり宗篤の所作を眺める。すると宗篤は焼香のようにせいろの中からうろんを一本つまみあげると、鼻の中へと流し込む。  ……づるづるづるっ!  あたりに響き渡る大きな啜り音。  ……づるづるづるっ!  まるで、音を立てることが礼儀であるかのように体全身を使って啜り上げる。  ……づるづるづるっ!  一際大きい三度めの啜り音を終えると、一礼をして隣の列席者に渡す。その鼻からは母親の時と同じ用に、しばらくうろんが出たり入ったりする。それはまるで、読経のリズムに合わせているようにも見えた。  こんな片田舎だ、土着信仰があってもおかしくはない。しかし、この鼻からうろんを啜ると言うあまりに珍奇な葬儀は常軌を逸している。気味悪がる俺をよそに列席者の読経は延々と反復される。 「唵都留津屡胡乱秘(おんつーるーづーるーうーろんひー)  斗具治惇弟袮(とーぐーちーとんーでーねー)  都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)」  異様なこの空間に気圧された俺は、胸の奥からこみ上げるどす黒い何かをこらえるように、グッと下を向き、早く終わって欲しい一心で、繰り返される列席者の読経を耐え忍んだ。 「都留津屡胡乱賦(つーるーづーるーうーろんふー)  絶具治惇弟袮吽(たーぐーちーとんーでーねーうん)……」  どれくらいのたったのだろうか。最後の列席者が奥からせいろのようなものを抱えて僧侶の脇に戻す。列席者の啜り音を束ねたそれは、一つの大きな啜り音となり、場内に読経とともにこだまする。あれほど大量に啜られたはずなのに、僧侶の脇のせいろにはこれでもかと言わんばかりのうろんが山盛りになっていた。  ーーチーン。  僧侶がリンを鳴らすと、一斉に読経と啜り音が止まる。両脇の母親と弟を見ると、鼻から出入りしていたうろんは姿を消していた。先程の光景は一体何だったのだろうか。夢を見ていたのではないかと、自分の目を疑った矢先、僧侶が読経の続きを開始する。 「碑喜具留(ひきぐるー)巳不狗麺(みふぐめんー)  奈胡乱蘇(なーうーろんそー) 把弟袮(ばでねー)」  その時、俺は見てしまった。  脇においてあったせいろのうろんの山が、のたくって祖父の棺桶の中へと消えていったのを。

今日、彼らは私をアルデバランのドリームランドへ誘ってくれた。そこで私は彼らなりの歓迎を受けることになる。どういった歓迎かは、是非体感して欲しい。私の言葉では言い表せないのだから。 ◇ 独立法人外来生命体研究所 地球外部門 副主任 Oの手記

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