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命断つ剣に約束の花束を

読了目安時間:3分

ACT.54 ヴィクトー・ジュワユーズ(Ⅳ)

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」  祖父の言葉を聞いて、様々な感情が胸の内に渦巻いた。  そして、中で最も強い感情が、その瞬間に口をついて漏れ出した。  ――その感情は、()()であった。  物心ついてから、一度も声を荒げたことのない俺が、はじめて強い怒りを露わにした相手は、祖父だった。  唖然とした表情の祖父に、俺は思いの丈をぶつける。 「貴方は、自分を過小評価し過ぎている。貴方のことを、この屋敷で支えてくれている使用人一同が、そして俺がどう思っているのか、貴方は知らな過ぎる」  一拍置いて、強く息を吐く。  コレは、白熱する自身の感情を少し抑える為。  そして、次の言葉を強く強調する為だ。 「――みんな、貴方を誇りに思っている。そんなこともわからなくなってしまったんですか」  考えてみれば当たり前だ。  主人を誇りに思っているからこそ、仕える。  そうでなければ、わざわざ世間から後ろ指を刺されやすい処刑人の家に仕え続ける訳がない。  ここで俺たちを支えてくれる人達は皆優秀だ。  例え此処を出たとしても、雇ってくれる場所は幾らでもあるだろう。  それでも、長年支えてくれるのは、金銭を含めた報酬以上に理由があるのだ。  それは誇りだと、俺は思う。  祖父ほどに、立派で仕えることが誇らしい主人など、そうそういない。  処刑人ヴィクトー・ジュワユーズは、それだけ彼らを惹きつける人物なのだ。  そんなことを、当人が忘れている。  ――それは、彼らに対する()()()に等しい。  だからこそ、怒りを感じたのだ。  更にそこには、俺自身の別な感情も混じっている。 「おじいさまの示した道を継ぐのは、紛れもなく俺の意志です。そしてそれを選んだのは。貴方の後ろ姿に憧れたからです」  誰より厳しく厳格に正義を重んじ、それでいて優しかった祖父。  今ならわかる。  その後ろ姿を見て、子供の頃の俺は(おそ)れと共に憧れを抱いたんだ。  だからこそ、その後ろを歩くことを決めたのだ。 「貴方は、誇り高き俺の家族で師匠です。貴方が示した道は、俺が継ぎます。――そしていつかは、俺の息子が貴方の道を継ぐでしょう」  きっと、この道はどこまでも続いていくのだろう。  受け継がれ、より良い未来を作る為に。 「――その偉大な一歩目を踏み出した貴方が、情けない姿を見せてどうするんですか。俺たちに光を見せたのなら、最後まで責任を取って下さい」  迷いも悔いもあったかもしれない。  けれど、一度決めたことであれば。  その道を継ぐ者がいるのなら。  ――泣き声など口にしてはいけない。  しゃんとした背筋で、誇りを胸に、正しいと叫び続ける。  それが(みち)を示した者の、責任を果たすということだ。 「誇りあるヴィクトー・ジュワユーズは、最後まで誇り高くあって下さい」  だからこそ、偉大な先人を侮辱することは許されない。  ――()()()()()()()()()()()()()()()。 「――ふっ」  俺が最後まで話終えると、黙って聞いていた祖父が軽く笑った。 「そうか、儂はお前に責任を果たさねばならないのか。――まさか最期に孫から教えられることがあるとは、奇なモノだな人生とは」  一言そう言うと、祖父はグラスと酒瓶をテーブルに置いたまま立ち上がる。 「その酒はお前にやろう。――いつか大切な時に呑むと良い」  祖父の声には、いつもの力強さが幾分か戻っているようだった。  そのまま、祖父は振り返らずに部屋を出る。  扉が閉まる寸前に、祖父の声が少し俺に届いた。 「ありがとう、良い夜であった」  出て行く祖父の後ろ姿は、ここ数日に見慣れた弱々しいモノでなく、往年の凛とした立ち姿だった。  ▽▲▽  そして、これが俺と祖父――ヴィクトー・ジュワユーズが言葉を交わした最期の夜であった。

申し訳ありませんが、仕事に必要な資格試験の勉強の為、8月末まで更新頻度を落とします。 ご了承下さい。

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