最強の魔眼は最弱のハーフエルフにこそ宿る~チート級スキル事象改変の魔眼を目覚めさせた俺は、魔女のお姉さんとダンジョン攻略の旅に出る

読了目安時間:10分

第八話:不穏な犯行予告

 なんだかお互いに気恥ずかしくなってしまって、無言になりながら歩いていると、学校が目に入る。  気づけば、商店がある村の中心部、その入口まで歩いていたのだ。 「カミラはなにか用事でもあるの?」 「ううん、特には無いよ。だから先に領主様に会いに行こ」 「分かった。確か領主様は……」 「今日は学校にいるって、昨日先生が言ってたよ。今度のお祭りの打ち合わせに来るって」 「なら度いいね」  俺たちは丁度よく飛び込んできた学校へ、吸い込まれていった。  両開きのドアを押し開くと、二人のおじいさんが立っていた。  タオルを首に巻いていて、今から農作業でもしにいくのかという左側の男が御年五十を迎えるこの村の村長だ。  そして右側、つまり村長と向かい合っている男こそが、この辺境の村を支配している領主様、その人だ。 「こんにちは村長、領主様!」  ペコリと元気な声をと共に挨拶するカミラに連れられ、俺も頭を下げる。  年相応のしゃがれた、しかし穏やかな村長の挨拶のあと、領主がゆっくりとした口調で話し始める。 「こんにちはルーチェ君、カミラちゃん。今日は学校をお休みにしてもらっていたはずだけど」  実の孫に向けるような優しい話し方の通り、領主といっても支配下である農民や、身分が下である商人が相手であっても、高圧的な態度をしてくることはない。  他の地域の領主のことは知らないが、目の前で穏やかな笑顔を浮かべているこの男のやり方が珍しいのは想像がつく。 「はい、知ってます! でも今日はルーチェが領主様にお話があるということなので!」 「ルーチェ君が私に? どうしたんだい?」  領主はあと数年で六十の年を迎えるはずなのだが、姿勢はよく肌も綺麗で若々しい。  とっくに死んでいてもおかしくない年齢ではあるのだが、生気が溢れ出ている。  そんな若々しい見た目の領主は、俺の前まで来てわざわざ膝を着いて、聞く態勢を取る。 「実は、うちの畑が全て焼き払われてしまったんです。だから、その……」 「その?」 「ええと、その今年の税の話なんですが……」  後半になるにつれ、尻すぼみになっていく語気。  税というのは、畑が燃えた程度でどうにかできはしないものなのだ。  それにもし、領主が気を使ってくれたとしても、そのしわ寄せは領主本人にいってしまう。  だからこそ、言わなければならないという義務感と、申し訳ないという罪悪感とが葛藤しているのだ。 「ルーチェ君。君のお家は、税も含めて全部君が管理しているのは私も知っているよ。だからここは一人の納税者として、君と話をしようと思う。その上で、君はなにを私に相談しにきてくれたんだい?」  俺が持ってきた相談が、ただの子供のわがままではないことを悟ったのだろう。  子供扱いではなく、しかし他の大人と同じ扱いでもない。  ただ領主として、目の前の俺という人間に向き合う。  その代わり、余計な建前や飾りは外して本質のみを説明しろと言っているのだろう。  俺は大人っぽい挨拶や挨拶を考えてきたが、それをすっ飛ばして、早速本題から入ることにした。 「は、はい。畑が全焼してしまったので、今年分の納税は農作物以外でどうにかなりませんか。俺、掃除でも料理でも、なんでもやります」 「ふむ……。ルーチェ君、それは君の失敗なのかい? それとも事件?」 「ええと、事件……です。誰かに燃やされました。犯人は分かりません」  俺の回答を聞くと、領主はすぐに結論を返してくる。 「分かった。ならしょうがないね。今年分の税は免除としよう」 「え!? そんなのいいんですか!?」 「勿論だとも。これは領主である私の決定だからね、誰にも文句は言わせないよ。そうだろう、村長?」  領主が顔を後ろへ向けると、他意を全く感じさせない、優しい笑顔で村長が頷いた。 「はい、領主様のご決断なら、私共が口を挟むことはできません。それに、困った時はお互い様ということだよ、ルーチェ」 「で、でもそれじゃあ不公平です。俺だけ得はできません」 「損得ではないよ。私はただ困っている若人を助けたいだけ。ただの自己満足さ。それに私は領主だからね。たまには横暴な振る舞いをしないと、勿体ないと思うんだ。いやはやとんだ悪人だよ、ここの領主は。なぁ村長」 「全く、参ってしまいますな」  領主がゆっくり立ち上がると、年寄り二人は大笑いを始めてしまう。 「あ、あの……」  本当にそんなことをしてしまっていいのかと、俺が戸惑っていると、領主が追い出すように手を振ってくる。 「さぁ我々は祭りの相談で忙しいからね。若者は帰った、帰った」 「で、でも……」 「分かってるよ、ルーチェ。君はその代わり、祭りで大活躍してもらおうと思ってるんだ。そうだな、いっそのこと今年分はそれで納税してもらおう。うん、決定だ」 「……分かりました。ありがとうございます、領主様」 「うん、農民は精々、私のために身を粉にして働いてくれたまえ」  この領主に限っては応援に聞こえる嫌味を背中に受けながら、俺たちは外に出る。 「良かったね、ルーチェ。なんとかなって」 「ホントだよ。あぁ、心なしか久しぶりに肩が軽くなった気がするよ」  うーん、と伸びをすると、今朝まで感じていた肩の重みが無くなっていく。  なんとなく体を伸ばしていると、肩の重みの代わりに居心地の悪い感覚が体を襲う。  カミラには伝えづらいが、なにかが体を這うような薄気味悪さだ。 「じゃあ、一つお悩みも解決したところで、行こっか」 「うん、そうだね」  カミラの笑顔に答えつつ、ちらりと周囲をうかがう。  するとやはり、さっきからチラチラと見られていた。  あえて目を合わしてみると、ばつが悪そうにどこかへ歩いていく。  明らかに避けられている感じだ。  そんな気持ちの悪い視線は、カミラと歩いていても追ってくる。 ――気のせい……ではないよな、さすがに。  商店が左右に立ち並ぶこの通りは、当然ながら何度も通っているし、顔見知りも多い。  それどころか、人口二百人前後のこの村では知らない人間なんているはずも無いのだ。  ではこの余所者への……いやこれは正確には――。 「ルーチェ? どうかしたの?」  いつのまにか俺とカミラは金物屋の前で立ち止まっていた。 「え、あ、あぁいやなんでもない、ちょっとお腹が痛くて」 「え、大丈夫? 少し休む?」 「いや、大丈夫だよ。麦パンのせいかな」  麦パン? と首を傾げている隙に、店主へ視線をやる。  そして頭でまとめていた内容の物を依頼すると、店主は裏へ品物を取りに行った。 「おじさん、今日は体調悪いのかな」  カミラが珍しがるのも無理はない。  この金物屋の店主をやっているおやじは、とにかく元気が良いことで有名なのだ。  そんな親父が俺の注文に対して、最低限の返事しかしてこなかった。  普段ならば一を、十で返してくるようなおやじが、だ。  やはりさっきから感じている這うような視線は、俺の自意識過剰ではないらしい。 「なんか遅いね。そんなに難しいことでもないのに」 「……そうだね」  ルーチェが依頼したのは、クワの先の部分と、刈り取るさいに必要なカマだけだ。  それなのに親父は裏に引きこもってから、中々出てくる気配がない。  ついカミラと並んで耳を澄ましていると、奥からこんな会話が聞こえてきた。 ――な、なぁこれをも……っても……ょうぶなのかな? ――でもまたあいつ等が脅しに……もしれないし。 ――だけどルーチェ君にだけ…………にはいかんだろ。 ――で、でもさお前だって見た……、バレたら、あいつらなにしでかすか……。 ――そうだな、今日の所は悪いけど。 ――あぁ、悪いけど……。俺たちだって商売しなくちゃ生きていけないんだ。  最後の方は歩きながらだったのか、始めの方よりはよく聞こえてきた。  奥に消えていった時とは違い、多少いつもの調子で店主が帰ってくる。 「いやぁ、すまんルーチェ。今日はちょっと在庫が……」 「ちょっとおじさん! 聞こえてたんだけど! なんでルーチェには売れないの!」  カミラが商品を置いてあるテーブルにドンと、手を叩きつけながら声を上げる。 「ゲッ、聞こえてたのかい、カミラちゃん?」 「あんなに大きな声誰だって聞こえるよ! それよりなんでルーチェには売れないの? みんなだって、さっきからジロジロ、ルーチェのこと見てるし!」  カミラの声に、周囲の通行人たちが揃って肩を震わせる。  驚いたことに、カミラも俺への悪意のこもった視線に気づいてたのだ。  いや、正確には純粋な悪意とは、違うようにも感じたけれど。 「うーん、分かった。納得のいく説明をしないとカミラちゃんは許してくれなさそうだし、話すよ。あいつらが来ると厄介なことになるから、手短に話すね」  そうして店主から語られたのは、あいつら、という言葉から察しが付いていたが、やはりヴィスたちエルフに関する内容だった。  店主によると、一昨日から近くの宿屋に宿泊しているエルフたち。  詳しくは語られなかったが、そいつらの態度がそれはもう悪いらしい。  そんなエルフたちの横暴な態度は勿論のこと、不審火や農具の破壊、そして農地荒らしなど昨日から今朝までだけで数えきれないほどの被害が出ているそうだ。  もちろん村人たちはエルフ集団を疑うが、証拠がないので出ていけとも言えない。  そして今朝、朝食のさいにヴィスはこんな言葉をこぼしたそうだ。 「俺は村の外れに住んでいるルーチェってガキが欲しいんだ。あぁ、あいつさえその気になってくれたら、こんな田舎臭い村なんてすぐにおさらばなんだけどなぁ」、と。  その噂はあっという間に広がり、今に繋がる。  つまり村人は、赤ん坊の頃から知っているルーチェを追い出すなんてできない、いやそんなことはしたくない。  けれど昨日みたいな嫌がらせが、これからも続くなら、たったと子供一人差し出して楽になりたいと。  単純だが、とても効果的な手だ。  しかも要求が、変わり者の母親を持つ根暗なガキとくれば、今すぐに消えて欲しいというのが本音だろう。  俺は思わず奥歯を噛んだ。  もちろん店主含む村人たちの薄情さにではなく、ヴィスの卑怯さに対してだ。 「ちょっとおじさん、そんなの酷いじゃない! だってルーチェはずっとこの村で育ってきた仲間でしょ! 追い出すなら、そいつらじゃないの!?」 「で、でもね、カミラちゃん。あの人ら……あのエルフら? 怖いんだよ」 「どっちでもいいよ、そんなの!」  このまま放っておくとカミラが掴みかかっていきそうだったので、肩に手を置く。 「いいよ、カミラありがとう。おじさん、今日は農具も大丈夫です。どうせ帰った所で農作業もできませんし」 「でも、ルーチェ……」 「大丈夫だよ、カミラ。ありがとう。おじさんも、話してくれてありがとうございました。ヴィスのことは俺がどうにかしますから、安心してください」  カミラの手を引きその場を去ろうと思ったその時、今最も聞きたくない声が背中に突き刺さった。 「おいおい、ルーチェ。女の前だからか? 随分と威勢がいいじゃないか」  振り返ると、そこにはいつか見た部下たちを連れたヴィスが立っていた。  今日も相変わらず美形な顔に歪んだ笑顔を貼り付けている。 「ヴィス――ッ!」 「だからお父さんだって言ってんだろ? はぁ、まぁいいや」  ヴィスは小さくため息を吐きながらこちらへ歩み寄ってくる。  その汚い視線はカミラを見ていたので、慌てて体で遮る。 「おいおいおい、格好いいなぁルーチェ。だが今日はおめえに用はねぇんだ。失せな」 「いいや、どかない。カミラには絶対手を出させはしない」 「ひゅー、痺れるなぇ。俺にもあんな眩しい頃があったのかなぁ」 「御託は十分だ。やるのか、やんないのか?」  カミラを少し下がらせて、俺は戦闘態勢に入る。  右足を下げて、左手を前に。  いつか本で見た態勢だ。 「腹ごなしにお前と遊ぶのもいいけど……またどっから、あの女が見ているか分からないからな。今日の所は勘弁しといてやるよ」 「はっ、怖気づいたのか?」 「あぁ、そうさ。知ってるか、ルーチェ。あの女――漆黒の魔女はたった一人でダンジョン攻略を完了させちまった、裏切り者なのさ。おっかない事、この上ないね」  意味深な笑顔を向けながらヴィスたち一行は隣を通り過ぎていく。  それに応じて、俺もカミラが背中側に来るように移動し続ける。 「そういえば、嬢ちゃん。あんまり俺たちのことをナメてちゃ痛い目見るぜ?」  ヴィスが一瞬だけ振り返って、その言葉を残していく。  そんなヴィスにカミラは迫真の悪意のこもったアクションとして、思い切って舌を出していた。  正直、可愛いことこの上なかったけれど、ほとんど悪口を言わないカミラにとっては、それが最大限の悪意の表現だったのだろう。 「はぁ、ごめんね、カミラ。せっかく買い物に出たのに、嫌な気持ちにさせちゃった」 「ううん、全然大丈夫! 私よりもルーチェの方が大丈夫?」 「俺も大丈夫だよ。それじゃあちょっと早いけど、帰ろうか」 「うん」  何事もなかったかのように日常に戻った通りを、二人並んで歩いていく。  ちなみに金物屋の店主は、ヴィスが現れた瞬間、とんでもない速さで奥へと隠れていってしまった。

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