最強の魔眼は最弱のハーフエルフにこそ宿る~チート級スキル事象改変の魔眼を目覚めさせた俺は、魔女のお姉さんとダンジョン攻略の旅に出る

読了目安時間:9分

第二話:美人で魔女でエルフのお姉さん

 学校の裏山から家までは、どれだけ急いでも十五分はかかる。  細かい呼吸を繰り返しながら、手足は全力で前へ進む。  これが俺の中で最も速く駆ける方法だ。  ちなみに今編み出した。  思考を阻害する疲労感を無視して、裏山で見た光景を思い出す。  農地を縦断するように走っている一本道。  線の上を歩くのは、この辺りでは見ない奇怪な格好をした集団、そして皆、それぞれの個性が出る木の杖を持っていた。  その姿はまるで昔、絵本で見た魔法使いのようだった。 ――いや、そんなことはどうだっていい。  今考えるべきことは、その魔法使いとやらが、なぜ家を目指して歩いているのかだ。 ――もしも母さんに、なにかあったら絶対に許さない。  脳にこべり付いた最悪のイメージを振り払うように、俺は奥歯を噛んだ。  そして全力で走って十三分。  予想より二分も早く家に着いたのは問題ない。  いや、むしろ良くやったと自分を褒めてやりたいくらいだ。  しかしそんな安堵感を持つには、まだ少し早いみたいだ。 「遅かったじゃないか。ええと……」  家の前、奇怪な格好をした男たち。  十人近くはいるのに、その全員が恐ろしいほどの美形、ツンと尖がった耳、そして若干の違いはあれど金色に近い髪を持っている。  その中でもリーダー格の男だろうか。  嫌ったらしい歪んだ笑顔で俺をジッと見ながら、なにかを考えている。  そして一瞬、考えがまとまったのか、言葉を発する。  最も聞きたくなかった、その言葉を。 「初めましてだな、俺はヴィス。喜べ、泣け、そして感動しろ? なんせ俺はお前の父親、なんだからなぁ」  言っている意味が分からなかった。  いいや、正確には違う。  この男の言ったことは、嫌というほどに理解している。  時々、母さんが口に出す俺の父親の話。  十五年前、母さんが俺を孕んだことを知らないうちに、蒸発してしまったエルフの父親の話だ。  もっとも、思い込みが激しくて都合の悪いことは忘れるか、良い風に解釈する性格だから、父親が俺を知らないなんてことは無かったのだろうけれど。  母さんの口ぶりから想像するなら、この男の言う通り喜ぶべき事柄だ。  十五年ぶりの再会、いや初めましてなのだから。  それが頭で分かっていても本能が、心がこの男を否定している。  自分とは一生、相容れないであろう正義。  それをこの男――ヴィスは持っている。  初めて感じた絶対的な拒絶心に固まっていると、家のドアが開かれた。  当然、中から出てきたのは母さんだった。  うちの前に立つのは、想い続けた愛する人。  あいつの話をしている時にか見たことの無い笑顔で、母さんはヴィスを見る。 ――出てきちゃダメだ、母さん!  この言葉は口からは出せなかった。 「――あなた!」  十五年ぶりの再会、そして遂に戻ってきてくれたかという母さんの期待。 「……あん?」  それは、汚物を見るようなヴィスの目で破壊された。  一瞬で希望が絶望の色に移り変わったのを俺は見た。  反射的に俺の体は動いていた。  歪んだ笑みを張り付かせたあの男を、殴り殺してやろうと思ったからだ。  しかし歪んだ顔面に届く寸前に、俺の拳は受け止められた。  一瞥もされずに、まだ余裕を感じる所作で。  ゆっくりと振り返って来たヴィスは、大きく拳を振り上げ、それを振り下ろす。  全力で走って来たからか。  反応が遅れて、目をつむることすらできずに俺は迫りくる拳を見つめる。  猛スピードで迫ってくる拳は、容赦なく俺の顔面に衝突してくる。  そう思ったのだが、視界を埋め尽くされるほどの至近距離で、なぜか拳は止められた。 「そんなバカなことが……」  独り言を呟きながら、ヴィスは俺の肩を強く握りしめ顔面を近づけてくる。  体中を走る嫌悪感から逃れるように体をのけ反らせるが、次はヴィスが両手でがっちりと頭を押さえてくるので、視界を固定される。 「――ッ」  言葉に言い表せない不快感と、怒りから。唸るよう吐息が漏れ出る。 「これは……これは。我ながら面白ぇ置き土産を残していったもんだ」  ヴィスがジィッと俺の眼球を観察すると、意地の悪い歪んだ笑顔が、視界を支配する。 「置き土産? 俺は――ッ!」  最後まで言い終わる前に、俺は呼吸ができなくなり、背中から地面に倒れ伏した。 「グッ!」  腹部に強烈な圧力を感じ目を開けると、ヴィスが俺を踏みつけにしていた。  足首を掴み引きはがそうとするが、微塵も動きはしない。 「おいバカ息子、名前は?」 「ルーチェ。母さんが付けてくれた名前だ!」  少しでも奴との繋がりを否定するように、名乗る。 「それじゃあルーチェ。この島……いや、この世界にはダンジョンってのがあってな。いいか? ダンジョンは一つの島に一つだ。俺たちはここ、ヒューマンが住む島のダンジョンを攻略しにきたんだ」 「それが俺と……母さんと、なんの関係があるってんだ!」  俺の言うことなんて、耳にも入っていないように、ヴィスは説明を続ける。 「ダンジョンにはな、お宝がたくさん眠ってるのさ。金銀財宝は勿論、神々の残した武器や防具とかな。でだ。ダンジョンを攻略するための仲間――俺たちはパーティーと呼んでるんだが。一緒に来い、ルーチェ。お前にはその資格がある」  さらに重く圧しかかってきながら、ヴィスは俺に顔を近づけてくる。  これ以上、苦しみたくなかったら、はいと言えと言わんばかりにだ。  浅い呼吸の中、詰まる息を吐き出して俺は叫ぶ。 「嫌だ! 母さんは俺が守ってあげないといけないんだ! 母さんを捨てた、どっかのバカ親父の代わりにな!」 「そうか……なら大切な母さんを殺しちまうか!?」 「なっ!」  ヴィスがあごで指示を出すと、部下は母さんに向かって杖の先を向ける。  そしてなにかブツブツ唱え始めたかと思うと、朧気な光が杖の先端に集まっていく。 「くそっ、止めろ!」 「止めて欲しかったら、それ相応の態度ってのがあるよなぁ。ルーチェ! ほーら、早く決めないと母さんは木端微塵になっちまうぜ? 魔法は急には止められねぇからなぁ!」  下品な笑い声を上げながらヴィスは叫ぶ。  そして悪魔のような笑みを浮かべながら、二択を問うてくる。 「さぁ、どっちだ! 母さんを残して付いてくるか、それとも母さんの丸焼きを頭に焼き付けて俺たちに付いてくるか!」 「さぁ!」これが最後のチャンスだ。  魔法とやらを見るのが初めてでも分かる。  あれ以上は抑えられないだろう。  既に杖の先端は、直視できないくらいに光り輝いている。 「ルーチェ! 母さんを助けておくれ!」  そんな母さんの悲鳴が聞こえてくる。 ――分かった、あんたらに付いていく!  そう口に出そうと決意した瞬間だった。  杖の先端に集まっていた光が、小さな爆発となって消え去った。  と、同時に―― 「そこまでだよ! いい加減にしな、あんたたち!」  女の声だ。  威厳を感じさせる、少し低めの声。  しかし優しくて、なぜか落ち着きを与えてくれるような不思議な声。 「な、なんでテメェがここにいやがんだ!」  その女性の出現により、明らかに狼狽した様子のヴィス。  しかしそんなヴィスの変化など、俺にはどうでもよかった。  仰向けに倒れていたので視界が逆向きなのだが、それでも彼女の姿を焼き付けようと目が大きく開いていくのを感じる。 「――漆黒の魔女!」  ヴィスの放った言葉は、まさにその女性を表すのに的確な言葉だった。  軽くウェーブのかかった、そして黒曜石のように艶のある長い髪が風に揺れている。  黒のケープを羽織っていて、体のラインがはっきりと分かるような黒のワンピースを着ている。  女性が持つ優雅で、穏やかな雰囲気もあいまって、ドレスをまとっているようだった。  地面に倒れ伏していることもあって、必然的に目線が下からになるのだが、そうなれば左のももの辺りまで入っている深いスリットから、革のベルトがちらりと見える。  スリットの隙間から覗く水晶のような、白くて透明感のある肌。  つい行ってしまう視線に気づいたか、いないのかは分からないが、黒いお姉さんは優しい視線で俺を見据えている。  目が合うとフッと微笑んできて一転、険しい表情でヴィスたちを見渡す。 「なんでここにわたしがいるのか、だったかな。答えは簡単、教えてくれたんだよ、この子がね」  黒いお姉さんが杖を持っていない左の人差し指を立てると、ヴィスの陰から一羽の小鳥が飛び出てきて、指に止まった。 「追跡用の使い魔だと!? そんなのいつの間に……」 「ゆっくりと思い出してみな、宿に帰ってからね」  フッと指先に息を吹きかけると、真っ黒の陰のような小鳥は消える。 「さてヴィス。今すぐそこの坊やから足を離し、そしてこの場から直ちに消えな。ダンジョン攻略もあるからね。今回ばかりは見逃してあげるよ」 「ふざけんな! 急に出てきて、なに様だ!」  というガヤを目線で制し、ヴィスは両肩をすくめる。 「やれやれ。手の早い漆黒の魔女様から警告を頂けただけマシって所か。了解だ、ここは手を引こう」  ため息交じりにようやくヴィスは俺の腹部から足をどけ、隣を通り過ぎていく。 「ルーチェ、決断は早いに越したことはないぜ?」  意味深な言葉を悪魔の笑みと共に残し、ヴィスたちエルフの魔法使い一行は、来た道を戻って行った。  嵐が過ぎ去った後のように、静かになったところに、黒いお姉さんのため息が聞こえてくる。  そして再び俺に優しい視線を送ってくると、左手を伸ばしてくる。 「坊や、大丈夫かい? うちの連れが迷惑をかけたみたいだね、すまないね」 「い、いえ。こちらこそありがとうございます。助けてもらって」  細く、触れたら折れてしまいそうな五本の指に、自分の手を重ねるのがどうも恥ずかしくなって、俺は慌ててその場に立ち上がる。 「限界があるかもしれないけど、気を付けておいた方がいいよ。ヴィスは見た目の通り、しつこい男だから」  もうずいぶんと遠くなった魔法使いの一行の背中を確認すると、黒いお姉さんはジッと俺の目を見つめてくる。  柔らかな微笑みが印象的だった黒いお姉さんの、一転して真剣そうになにかを観察しているような表情が視界を支配する。  くしくもさっきと同じ光景だが、今回はこそばゆくなって、体を反らせる。 「あの……なにか?」 「いいや。それより坊や、少しジッとしていてね」  微笑みと共に黒いお姉さんはおもむろに、胸元で輝いていたネックレスを外し俺の首に両手を回してくる。 「え、あの……」  二の腕と胸の辺りに触れているふにふにとした感触と、お姉さんが漂わす良い香り。  ネックレスの留め具をとめてもらっている間、俺は心臓を激しく鼓動させることしかできなかった。 「よし!」と黒いお姉さんが満足気な声を上げると、銀色の細いチェーンの先に繋がっている結晶を手元で遊ばせる。 「これは君を……いや。君の大切な人を守りたいという勇気の力になってくれる。大切にしてくれたまえ」  ウインクを残して黒いお姉さんは去って行った。  首にかかる白っぽい結晶のネックレス、胸の辺りに残る柔らかい感触、そして大きく息を吸うとまだ残っている良い香り。  俺は黒いお姉さんが残した痕跡が消えるまで、呆然とその場に立ち尽くしていた。

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