「踊りましょう? 愛しい方」 私の言葉を合図として、たった2人だけの舞踏会が幕を開けた。 何処までも広い空間に響き渡るのは、重厚なメロディー。時に速く、時にゆったりと流れる音の旋律に合わせリズムを取れば、不思議と音楽に身体が溶け込むような感覚がした。 それがとても心地好い。 彼も同じ気持ちならいいと思いながら、動きに合わせてステップを踏む。 空気を彩るのが音楽ならば、空間を彩るのは音に合わせて広がるドレスの花だ。 くるりくるりと私が回転するたび、鮮やかな花が開く。それが彼も嬉しいのか、クルリクルリと回って喜びを表現していた。 可愛い方。 私はついクスリと笑ってしまう。言葉なんてなくても、私達は通じ合っているのだ。 「貴方の指が好きだわ。触れたら折れてしまいそうなくらい……細くてしなやかな指」 私の手を包み込んでくれる彼の手は、今まで触れてきたどの指よりも冷たい。 けれど彼は今まで繋いできたどの手よりも優しく、そして壊れ物を扱うような繊細な手付きで私の手を握り締めてくれた。 「それに……ほら、私の熱が伝わるのも良いじゃない?」 そう言って微笑めば、彼は照れたように身体を揺らす。 全く恥ずかしがり屋なんだから。私は声を上げて笑った。 「ずっと2人で踊りましょう? 私は何処にもいかないから」 あぁ、幸せ。 このまま永遠に時が止まればいいのに。 細く冷たい身体をタキシード越しに感じながら、私は彼を抱き締める。 やはり言葉はないけれど、そんな私の願いを受け入れたように彼は喜びの音を鳴らして私を抱き締め返してくれた。 こうして私と彼だけの舞踏会は、永遠に続いていく。
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