ノベプラ文芸部 小説勉強会第2回!

読了目安時間:2分

エピソード:2 / 2

三人称

「踊りましょう? 愛しい方」  娘の言葉を合図として、たった2人だけの舞踏会が幕を開けた。  何処までも広い空間に何処からともなく響き渡るのは、重厚なメロディー。時に速く、時にゆったりと流れる音の旋律に合わせ、2人はリズムを取っていた。  音楽に身体が溶け込むような感覚だと、娘は思う。  自分にとっては心地良いが、彼はどう思っているのだろうか。同じような気持ちならいいと、娘は思いながらステップを踏む。  音楽に合わせて広がるのは、娘が身に着ける漆黒のドレスだ。  くるりくるりと娘が回転するたびにドレスは裾を広げ、鮮やかな花を咲かせる。それはまるで、味気ない空間を彩るかのようだ。  娘と踊る相手もまた、喜びを表現するかのようにクルリクルリと回る。そんな相手を見た娘は思わずといった様子でクスリと微笑んだ。  彼女は分かっているのだ。  言葉を交わさずとも、自分達は通じ合っているのだと。 「貴方の指が好きだわ。触れたら折れてしまいそうなくらい……細くてしなやかな指」  自身の手を包み込む相手の手を握り返し、娘は微笑んだ。  細くてしなやかなのは、ある意味当然だろう。  何故ならその手は、穢れなき真白の骨だからだ。  タキシードを着た骸骨は、まるで壊れ物を扱うような繊細な手付きで娘の手を握り締める。  その手付きは娘にとって誰よりも優しく、そして繊細なものだ。  そんな骸骨の手を、娘は愛おしそうに握り返す。 「それに……ほら、私の熱が伝わるのも良いじゃない?」  悪戯っぽく笑った彼女に対し、骸骨はカタカタ身体を揺らした。  どうやら照れているらしい。窘めるように骸骨は2つの空洞で娘を見つめるが、見つめられた娘は声を上げて笑っていた。 「ずっと2人で踊りましょう? 私は何処にもいかないから」  あぁ、幸せ。  このまま永遠に時が止まればいいのに。  そう思いながら、娘は骸骨の身体をタキシード越しに抱き締める。  それを受けた骸骨もまた、骨を鳴らし喜びを表現しながら娘の身体を抱き締めてみせた。  こうして娘と骸骨は、誰もいない空間で踊り続ける。

同じ場面で人称を変えるだけで、こんなにも雰囲気を変えることが出来るのだと改めて学べました。 使いこなせるようになるにはまだまだ学ぶべき点は多いですが、精進いたします!

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