「踊りましょう? 愛しい方」 娘の言葉を合図として、たった2人だけの舞踏会が幕を開けた。 何処までも広い空間に何処からともなく響き渡るのは、重厚なメロディー。時に速く、時にゆったりと流れる音の旋律に合わせ、2人はリズムを取っていた。 音楽に身体が溶け込むような感覚だと、娘は思う。 自分にとっては心地良いが、彼はどう思っているのだろうか。同じような気持ちならいいと、娘は思いながらステップを踏む。 音楽に合わせて広がるのは、娘が身に着ける漆黒のドレスだ。 くるりくるりと娘が回転するたびにドレスは裾を広げ、鮮やかな花を咲かせる。それはまるで、味気ない空間を彩るかのようだ。 娘と踊る相手もまた、喜びを表現するかのようにクルリクルリと回る。そんな相手を見た娘は思わずといった様子でクスリと微笑んだ。 彼女は分かっているのだ。 言葉を交わさずとも、自分達は通じ合っているのだと。 「貴方の指が好きだわ。触れたら折れてしまいそうなくらい……細くてしなやかな指」 自身の手を包み込む相手の手を握り返し、娘は微笑んだ。 細くてしなやかなのは、ある意味当然だろう。 何故ならその手は、穢れなき真白の骨だからだ。 タキシードを着た骸骨は、まるで壊れ物を扱うような繊細な手付きで娘の手を握り締める。 その手付きは娘にとって誰よりも優しく、そして繊細なものだ。 そんな骸骨の手を、娘は愛おしそうに握り返す。 「それに……ほら、私の熱が伝わるのも良いじゃない?」 悪戯っぽく笑った彼女に対し、骸骨はカタカタ身体を揺らした。 どうやら照れているらしい。窘めるように骸骨は2つの空洞で娘を見つめるが、見つめられた娘は声を上げて笑っていた。 「ずっと2人で踊りましょう? 私は何処にもいかないから」 あぁ、幸せ。 このまま永遠に時が止まればいいのに。 そう思いながら、娘は骸骨の身体をタキシード越しに抱き締める。 それを受けた骸骨もまた、骨を鳴らし喜びを表現しながら娘の身体を抱き締めてみせた。 こうして娘と骸骨は、誰もいない空間で踊り続ける。
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野月 章
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野月 章
2022年11月29日 9時53分
加賀瀬 日向
2022年11月29日 21時34分
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加賀瀬 日向
2022年11月29日 21時34分
古今いずこ
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古今いずこ
2022年11月29日 23時14分
加賀瀬 日向
2022年12月1日 6時58分
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加賀瀬 日向
2022年12月1日 6時58分
飛田励作
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飛田励作
2022年12月1日 7時15分
加賀瀬 日向
2022年12月1日 7時17分
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加賀瀬 日向
2022年12月1日 7時17分
かいんでる
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かいんでる
2022年11月28日 16時56分
加賀瀬 日向
2022年11月28日 20時13分
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加賀瀬 日向
2022年11月28日 20時13分
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