最底辺にして最強の剣士、天から魔剣が落ちてきたので幼馴染と共に理不尽な世界を打ち崩す〜〜Sランのクソ野郎どもが。てめえらの脳みそ掻き混ぜてやんよ!〜〜

『丁度良いサンドバックだったぜ』

 馬鹿の傷には塩を塗り込めという名言があったかような無かったような。  それは兎も角、ジニーはヒリヒリと痛む頬を撫でながら貧民街を歩く。  「……くそ、暴力女め」  気持ち良く夢を語った後、アイリスが全力でジニーの顔面をぶん殴ったのだ。  即座に意識が落ちてしまったので反撃する余裕も無く、朝日と共に目覚めると彼女は何処かへ消えていた。  幼馴染兼相棒の彼女がふらっと居なくなるのはいつもの事で、そもそもあの王座には戻ったり戻らなかったりする。流石に吹き曝しの場所で寝泊りはしない。  「この分だと次会うのがいつになるのやら。まあ別にいらないが、あんな女」  大方レストランの件の続きだったのだろう。  最近意識が落ちたと思ったら体の何処かしらに痣が出来ていたりする事がある。  ――俺はサンドバッグじゃねえ。  アイリス(あの女)を頭の中でぼこぼこにしていると、  「あ、ジニーさん! あれ、その頬誰にやられたんですか?」  路地の曲がり角から小汚い男が飛び出してきた。喜色満面で迫る姿はなるで仔犬のよう。それもその筈、彼はジニーの舎弟なのだから。  一回り以上歳上の彼がジニーに尊敬の目を向けるのは単純にジニーが圧倒的に強いからである。  「少しな。うん、壁にぶつかっただけだ。ほら、最近バナナの皮が落ちてるだろう。たくさん」  「何言ってるか分かりづらいですけど、要するにやられたんですね。アイリスさんに」  「…………」  言い返せずに口を噤み、それから舎弟を睨め付ける。ジニーは口が上手くない、ので困ったらこうして目で訴えるのだ。  しかし舎弟は何処ふく風。  この程度の威圧など腐る程受けてきたのだ。今更ビビる事はない。  「それより、凄い物を見つけました。ついて来て下さい」    「……ん、ああ。案内頼むぜ」  興奮気味に手を引いてくる舎弟に導かれて路地を十五本程抜けると、少し開けた空間に出た。  「臭えな」  ここは貧民街のゴミ山と呼ばれる場所。  廃墟の様な建物群の手前には、ガラクタなのかヘドロなのか判別出来ない小山が築かれており、その手前では柄の悪そうな男達が一人の少女に集っていた。  何やら言い争っている様子で、ジニー達が目撃したのはリーダー格の男が、少女がかき抱いていた剣を奪い取った瞬間だった。    「うっひょお、こりゃ凄えぜ!」  「返してよ!」  いつもの光景である。  貧民街は全域が路地裏の様なもの。  強盗強姦殺人等等――吐いて捨てる程転がっている。    今回の件は、偶々お宝を見つけた少女を、通りすがりのチンピラが襲っているだけだ。  「微笑ましいなぁ、おい」  別に心が痛む事は無い。  寧ろ面白い、娯楽であると傍観するつもりですらある。  しかし、舎弟にとっては違うようで、    「あれ見て下さい、あいつの手元です」  「手元?」  そう言われてリーダー格の男を注視する。    「おいおいマジか」  男達が何故はしゃいでいたのかが理解できた。  奴らの一人がその黄金の剣(・・・・)を天高く掲げて叫ぶ。  「俺達は最強だ! まずは手始めにあの腐れ女をぶちのめしてやるぜ!!」  めちゃくちゃに振り回し、建物に向かって試し斬りをした。すると石壁がバターの様に裂ける。素人が持っても絶大な力を発揮するらしい。  その様に男達は更に舞い上がってしまう。  だから己の失言に気付かない。  そして、その少年の接近に気付く等出来るはずもない。  「おい、お前ら。なんか楽しそうな事してるじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」    変声期を終えていない、未成熟な声に水を差された男達は舐めた態度で振り返り――そして、顔面蒼白となる。  日夜縄張り争いが行われている貧民街にて、突如台頭してきた狂犬(ハイエナ)と呼ばれる桃色の髪が特徴的な少年がそこにいたのだ。  「じ、ジニー。これは、その――盗っ人をぶちのめそうっていう相談で……だよなお前ら?」    リーダー格の男が取り巻きに同意を求めると、彼が望んだ通りの反応が返り、少しだけ気分良くなり心にも余裕が出来た。  そこで男は自分が手に持っている獲物を思い出す。  金色に輝く、明らかに業物と分かる剣だ。  刀身の下の方に『S―13』が記されていた。  つまりこれは、特級の剣であり――塔に住まう者達の喉元にも届き得る力を持つ証明。  「面白いもん持ってんな。それ、ちょっとだけでいいから持たせてくれよ」  ジニーは無造作に近付き刀身に指を触れようとする。  「駄目だ! これは俺の物だ!」    反射的に剣を振り回しジニーを追い払う。  一条の赤い雫が頬を伝い唇に触れると、ジニーはペロリと舐め取り、にんまりと笑った。  「やったなぁ〜。じゃあこれは正当防衛だ」  少年の腰から鋭利な輝きが飛び出した。  D階級の短剣ではあるが、男を制圧するのにはこれで十分。  たとえ、どんな名剣を持っていたとしてもだ。  「三秒、数えてろ」「了解です」  と、まるでこれからゲームを始めるとでも言うような言葉を舎弟と交わし、瞬間的に距離を詰める。    「――ぇ」    空間を圧縮したかの様な踏み込みに男はまるで反応できず、嗚咽の様な声を漏らした後――聖剣を持つ腕の腱を斬り裂かれて、差し出すように取り落とす。  ここまでで一秒。  残り二秒――予想以上に余ってしまったので、十発程鳩尾に軽めのジャブを入れた後顎を撃ち抜いた。  即座に意識を刈り取られた男が大の字で地に伏した。  「丁度良いサンドバッグだったぜ」    ただの八つ当たりである。  傍若無人なジニーを前に、取り巻き達は散り散りに逃げ去ってゆく。それを追い掛けて叩き潰すのもまた一興だが、  「……三秒過ぎましたので止めて下さい。あまり暴れられると割と洒落にならないので」  「む、そうだな」  時間制限を設けたのはジニー自身がハメを外し過ぎない様にする為。  塔の麓に北側全域に及ぶ貧民街は広大であり、血の気が多い者も多いのでやり過ぎると収集が付かなくなる事もよくある話だ。  諭されたジニーはやや不満げであったが、S階級の剣を思い出して一転機嫌が回復する。  男の側に落ちてある黄金の剣に片手で持ち上げると、ずっしりとした重みが伝わってきた。これはジニーですら容易には振るえない。    「こいつ……『膂力』持ちだったのか」  この世界では、物心ついた頃に『スキル』と呼ばれる神のギフトを授けられる。    この男の場合、恐らくは『膂力』というその名の通り筋力に対して枠外の補正を掛ける力。  そしてジニーの場合は、『走力』。  先程見せた人外の踏み込みは、ジニー本人の技量に加えてスキルによる補正によるものである。  尚、E階級の人間には一つしかスキルが与えられない為、上の階級の者とはそれこそ種としてのレベルが違うと言ってもいい程に格差がある。  「こいつを落としてくれた事に感謝だな。何処のどなた様かは知らんが――で……女、お前は逃げないのか?」  腰が抜けたのか。  すっかり大人しくなってしまっていた少女に目を向ける。  彼女は、蕩けた目でジニーを見ていた。  弱肉強食の世界では、『一目惚れ』などよくある話だ。  『ジニー様ぁ』  などとぬかしやがった。      「うげ」  それを見た瞬間、ジニーの喉元に酸っぱいものが込み上げてきたので口元を抑えた。  その様に少女の顔が一気に曇る。    ――駄目だな。こりゃあ。  「俺、もう帰るわ。用事を思い出した」  「え? なん――」    舎弟が言い切るより早く、ジニーは姿を眩ませていた。    何が何だか分からないと、舎弟と少女は顔を合わせるのだった。

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