最底辺にして最強の剣士、天から魔剣が落ちてきたので幼馴染と共に理不尽な世界を打ち崩す〜〜Sランのクソ野郎どもが。てめえらの脳みそ掻き混ぜてやんよ!〜〜

貧民街の首魁

アップルパイは味がしない

 「足りないなぁ、これじゃアップルパイすら買えねえよ」  貧民街(スラム)の路地裏。  ちゃりんちゃりんと、少量の硬貨が落ちる音が反響する。  立場が二極に分かれた両者。  少女は頭を垂れ、もう片方の男は銃口をその旋毛に押し当て下衆な笑いを口元に浮かべている。  「金は払いますから、どうか命だけは……」  「足りねえ、駄目だな。それにお前は俺の服に泥を掛けた。しかもワザとだ。万死に値する」  銃口を突き付けたまま男は裾の辺りをひらひらと見せ付ける。  確かに乾き始めて固まりつつある泥が付着していた。どうやら色素が染み込んでしまっていて、簡単には落ちないだろう。  実は昨夜まで大雨が降っていて、あちこちに水溜りが出来ており、貧民街ともなれば泥どころかヘドロだってその辺に転がっている。それこそ歩いただけで散弾のように飛び散ること請け合いだ。  つまるところワザとではない(・・・・・・・)。少し泥水が跳ねただけ、それが偶々すれ違った際に付着した。  それだけで万死に値するというのは横暴が過ぎるというもの。  泣きじゃくる少女の額に銃口をぐりぐりと押し込んで、胸元に刻まれた階級ランクを見せつける。  「俺の番号は『C―13』。だがお前のはどうだ?」  ぼろぼろの衣服を強引に引き裂くと、『E―5999』という文字が現れた。それを見て、恐ろしい程の優越感が込み上げてくる。尚更この銃を引っ込める訳にはいかない。  「屑階級の蛆虫め、中流の俺が間引きに出向いてやったぜ。なあに、痛いことはない。一瞬だ。それより感謝しろ、一銭の価値も無いゴミ屑同然の人生に幕を下ろせるんだからな」  引き金に力が籠り、ぎりぎりと音が鳴り始めた。  初めての害虫殺しに歓喜しているのか、  それともちゃんと人と認識しているからこその震えか。  意味の無い逡巡だった。  男は『害虫駆除をしに来た』――そう思考を傾けた。    すると頭の中がクリアになり、人差し指の力が増す。  ――パン  心臓まで響く音だった。  何故か上向きになっていた(・・・・・・・・・)拳銃は男の脳天を爆散させる。  「け、愚図が」  ――違う視点から見てみれば意味の無い逡巡ではなかった。  その数瞬の差異が命運を変えることだってあるのだ。  今、二人の視界の外――横合から振り抜かれた第三者の右足が銃口の向きを変えたように。  はらはらと舞い散る脳漿を背景に残心を解いた桃色の髪が特徴的な少年が、年不相応のニヒルな笑みを浮かべたのを見て漸く命拾いした事を理解する。  次いで漏れ出すのは感謝の言葉。  「……あ、ありがとう、あなたは命の恩人です!」  先とは違う種類の涙が溢れる。  それは混じり気のない万感のもの――なのだが、  「うっせえ、俺に感謝すんじゃねえ! 反射的に動いちまっただけだ!」  一転、少年は恥ずかしそうに言い放ち――嵐のように去っていった。  去り際少年はやはり笑っているように見え、然りとて嫌に軽い足取りは少年の心境を表している。  ――勇気ある少年だった。  貧民街の路地裏にて、わざわざ人殺しという名の余興を楽しみに来ていた男が死んだ。  ただそれだけ。  歴史の表層に浮かび上がる事はない。  この世界ではごくありふれた日常である。 ―――  「ったく、相変わらず味がしねえ!」  少年の拳がテーブルを強かに叩きつける。  出来立てほやほやのアップルパイが宙を舞い、対面に座る少女の顔面に見事命中した。  ずるずると、アップルパイが滑り落ちて憤怒に染まった彼女の顔が顕になる。幼さの残る整った顔立ちに、太陽の様に燃ゆる煌びやかな赤髪。俄かに潤った紺碧の瞳。  少年――ジニーの幼馴染である。  「へっ、ざまぁみろ」  このアップルパイは無価値だ。  噛んでも噛んでも味がしない。  少年の舌が受け付けない。  だから別に人様の顔面にぶつけたって一向に構わないのだ。  それに故意ではなかった。  無性にムカついて机をぶん殴っただけ。  しかしそんな事は関係ない。  彼女――アイリスは殺人鬼のようにくるくると笑った。  「ジニー……早死にしたくないなら謝った方が身の為だよ」  「ばーか、お前なんかに死んでも謝るかよ。そんなに謝らせたきゃ力づくでやってみろよ」  ジニーの言葉が、彼女に届くや否や弾丸の如き右ストレートが顔面目掛けて飛んでくる。まともに食らえば文字通り鼻っ柱が折れてしまう――どころか顔面がひしゃげて原型すら残らないだろう。  これはどう見ても、  「は、いいね。殺す気じゃないか!」  拳を受け止めた事により発生した空気が破裂する音が、さっきから騒ついていたレストランに響き渡る。  静かに食事でもしようかと思っていたが仕方ない。  そっちがその気なら全力で応えてやる。  二人は同時に立ち上がった。  ジニーは床に落ちたナイフを広い、一瞬遅れてアイリスがフォークを拾う。  ここからは正真正銘殺し合いだ。  ジニーがナイフを喉元目掛けて突き出すと、アイリスは四つ股に分かれたフォークで絡めとって、ジニーをナイフごと引き寄せようとしてくる。  であれば即座にナイフを手放し、机を蹴っとばして飛び道具にする。  投げるのでは無く蹴る、掴み上げるという動作がないのでアイリスが防御態勢を取るよりも一瞬早く机が到達する。  しかし、この女に対してその程度の攻撃は有効打にならない。  彼女はその豊満な胸の上でふわりと机を滑らせると、通り過ぎかけた机の角を掴み、無理矢理元の位置に戻した。  机の足がひしゃげた様な小君良い音が鳴った。  「あーあ、店の備品を壊すなよ」  戦いは一時中断。  問題は足が折れてしまった机に移る。  アイリスの顔もやけに真剣、かなり事態は深刻だと言うことだ。  考えよう。  ――俺たちとこの机、どっちに価値は傾くんだ?  ジニーは学が無いから直ぐには分からなかった。  アイリスは頭が良いが、すぐ頭に血が昇ってしまうからこうして直ぐに物を壊してしまうし、全く生き難い世の中だ。  そして、その答えは――  「こほん」  彼の背後から咳払い。  振り向くとレストランの従業員が居た。  店内は静まり返り、誰もが展開を見守っている。  「あ? なんだてめえ」  衝動的かつ反射的に汚く罵ってしまうジニー。だが従業員の男は涼しい顔で受け流し破損した机を指差す。  斜めに傾いている為、机裏の階級(ランク)が顕になり――『D―4589』という番号が淡く光輝いていた。  「決してお客様を侮る訳ではございませんが……これは義務です。胸元を見せて下さい、有り得ないとは思いますが念の為です。最近は物騒ですので」  ごくりと唾を呑み込む。  ジニーは白シャツの襟を掴み――その手をアイリスが止める。そのまま耳元で囁いた。  「逃げるよ」  と。  その言葉を受けてジニーは目で合図する。  目線の先は手近な窓硝子。  彼は、  「あ!」  突如あらぬ方向を指差して、  「どうされました?」  従業員がその方向に首を向けたのと同時に駆け出した。恐ろしく強烈な踏み込み、あっという間に最高速に達して窓硝子を突き破って外に出る。それにアイリスも追随してくるのだから女とは思えない程の身体能力だ。  後ろから罵声が飛んでくるが、あっという間に小さくなっていく。  程なくして貧民街の拠点へ戻ってきた二人は中央に置かれた二つの『玉座』に腰掛ける。  誰もいない。  薄汚れた二人だけの空間。  路地裏の一角にぽつんと投げ捨てられていた豪華な椅子を置いただけの王座の間である。  二人は深く重心を預けると、顔も合わさぬまま言い争いを始める。  「ジニーってさ、ほんとに馬鹿だよね。ランクはまだしも識別番号まで見られたらもう逃げられなくなるに決まってる」  「はん、馬鹿で結構。俺は見せてやろうとしたんだよ、どうせあいつらは番号でしかEランクの人間を判別出来ねえクソ野郎なんだから」  それによ――  ジニーは今日一番の苛立ちを込めて声を張り上げる。  「俺の価値が机以下だって!? あり得ねえだろ!」  今朝、胸糞悪い現場をたまたま見かけた為救ってやったが――思えばあれは、あの少女がアップルパイ以下だの何だのと罵られていた様に聞こえたからだった。  ただイライラをぶつけただけ。  感謝される謂れも、英雄視される器でも無い。  ――そう、今はまだその器では無い。  「なぁ、俺は強くなったぜ? アイリス。そろそろじゃねえか? あとはきっかけだけだ」  「何が? 言ってみなよ」  アイリスの声は少し震えていた。  それは武者震い。  この先に続くジニーの言葉が予想出来たからだろう。  この閉ざされた世界は絶対的な差別空間だ。  モノも人間も分け隔て無く――『階級(ランク)』によって仕分けされた世界。  Sランクまである階級の中、Eランクの人間など塵同然の価値しか無い。いや、塵ならばリサイクル出来る可能性がある分まだ利用価値があるか。  不条理にして理不尽な世界。  この世界の基盤をばらばらに打ち崩せたのならどれだけ気持ち良いことか。それだけで絶頂ものである。  ジニーは玉座をぺしぺしと叩く。  そして狂気に満ちた表情で笑い、天へ向けて指差した。  その方向、雲を突き破って聳え立つ――途方もなく巨大な塔を。  「俺が王になる、それで終わりだ。まあ難しいことはない。あ、お前は大臣な」  

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