緒方隆の廻愁奇譚3

読了目安時間:23分

海にて

1

「いや~。晴れて良かったねえ」  電車に揺られながら俺の正面に向き合って座り、ポッキーを齧りながら、槙原さんが言った。 「そうだね。つか、なんでこの日?」  海には少し遅いお盆過ぎ。確かにちょっと遅い。そうぼやいているのが、槙原さんの隣に座っている波崎さんだ。窓側羨ましい。俺も景色見たい。 「単にみんなの日程が、この日じゃなきゃ合わなかったんだよ。特に大沢君はヤバかったしね」  悪戯な眼を、俺の隣に座るヒロに向ける槙原さん。つかヒロ、窓際代われよ。俯いてばっかなら、景色見ないだろ。  ヒロは顔を上げる事無く、力無く言う。 「………まさか数学が赤点になるとは…」  こいつは数学で赤点取ってしまって、補習を受けていたのだ。救済の追試ですら赤点。  赤点が一教科だったのが不幸中の幸い。夏休みをフルに使う事は、何とか免れたが。  そのヒロの対面で、超ジト目を向ける波崎さん。 「本当に恥ずかしいったら……ほら、みんなに謝りなさい?」  言われて立ち上がるヒロ。それを、通路を挟んだ、俺の隣の席の楠木さんが慌てて止める。 「ちょ、大沢も頑張ったんだから。それに、赤点取らなかったとしても、この日じゃなきゃ全員参加出来なかったしね?ね?春日ちゃん?」  その楠木さんの対面に座っていた春日さんが、クッキーを食べるのを止めて、コックリと頷いた。 「……私もバイト、どうしても休めなかったから…夏休みはどうしても忙しいし…」  因みに、この三人娘の席順はじゃんけんである。  窓際に座った波崎さんを追ってヒロが対面に座り、俺を引っ張って隣に座らせてから、じゃんけんを開始したのだ。  因みに楠木さんの隣は黒木さんで、その対面が川岸さんだ。  木村と国枝君は少し遅れて合流する事になった。  何故黒木さんが木村と一緒に来なかったかは謎である。  その黒木さんが、仏頂面でおにぎりをぱくぱく食べている。朝飯食って来なかったのだろうか? 「くろっきー、食べすぎじゃない?もう三個目だよ?」  心配した川岸さん。三個は食べすぎだろ。俺もビックリだ。 「明人の奴ぅ……結局ツーリングに行っちゃったし、このキャンプも別行動だし……」  イライラして何か食べずにはいられないのか。つか、結局ツーリングに行ったのか、あいつ。 「そりゃ、木村君もくろっきーにばっか構ってられないでしょ?友達付き合いもあるんだし」 「夏休みに入ってから、まだ二日しか会ってないんだけど」 「………」  これは黙るしかねーな。木村の話じゃ束縛キツイようだが、ほったらかし過ぎだろ。 「あー、あいつはね、女子より子分と遊んでいる方が楽しいってタイプだしねー」  流石元カノの楠木さん。よく知っているっぽい。  つか、木村とは恋愛感情抜きの付き合いだったか。黒木さんみたいに束縛はしなかったんだろうな。  木村はそんなタイプとばっか付き合ってきたんだろう。黒木さんを重く感じるのは仕方が無いかも知れない。 「じゃあさ、思い切って別れたら?」  川岸さんの爆弾発言に、一瞬動きが止まる。具体的には、おにぎりを食べていた手が止まった。 「ほら、緒方君もくにゅ枝君も余っている事だし」 「「「余ってないから!!」」」  三人同時にハモられた川岸さん。逆に意外な顔をする。 「だって緒方君、まだフリーなんでしょ?」 「「「今回で決めるから!!」」」  ……三人同時にハモられて、俺は顔を伏せた。  何てこと言いやがるんだこの人は……  横目で川岸さんを睨むと、逆にニコニコ笑顔で返された。  覚悟決めろ、と言っているようだ。  この人は敢えて言ったのか。俺の退路を塞ぐ為に。  そんなこんなで電車に揺られ、暫しした頃、目的地の駅に到着。  だが…… 「……思い切り山の中だな…」  無人駅よろしくの周りは山。どこをどう見ても、海なんか無い。 「そりゃ、少しは歩かなきゃね」  リュックを背負い直して、笑顔で対応する槙原さん。 「まあ、少しはな…で、どんくらい歩く?」  遠くに里が見えて、嫌な予感しかしないが、一応訊ねた。 「一時間くらいかな?」  一時間!?俺とヒロは、身体動かす事は慣れているから別にいいけど、意外と山道だぞ?それを一時間!? 「……私、キャリーケースなんだけど…」  不満を言うのは楠木さん。まさかプチハイキングする羽目になるとは、思ってもいなかったようだ。 「大丈夫大丈夫。ちゃんと砂利敷き均している道だから」  舗装も無し!?それは女子にはちょっと酷なんじゃ……  まあ、文句を言っても始まらない。取り敢えず里に降りようか。  そう思い、歩き出すと、これまた予想外、この駅まで続いているであろう道は確かに砂利道だが、槙原さんの言う通り敷きならしてはいなかった。  いや、元はちゃんとした(?)砂利道だったんだろうけど、雨に流されて路面がデコボコだったのだ。  これには流石の槙原さんも苦笑い。 「いや~、あの駅使う人殆どいないみたいだねえ……ここまで手入れされてないとは……」  手入れはしているみたいだぞ。一応草刈している跡あるし。  と、気休めにもならない事を言おうとしたが、やめた。  楠木さんと川岸さんのテンションがダダ下がっていたからだ。  下手な慰めは逆効果な、そんな雰囲気をバンバン発している。  見ると、キャリーケースは楠木さんと川岸さんだけ。あとはみんなリュックやらバッグやらだ。  勿論キャリーケースでも持つ事はできるが、持ちたくないからこそのキャリーケースでもある。  ここは俺が荷物持ちを…… 「やめておいた方がいいよ」  動く前に黒木さんから止められる。 「なんで?」  解らんから普通に聞いた。  黒木さんは溜息を付き―― 「あのね、景子だけなら兎も角、楠木さんもだよ?他の二人が面白い訳ないでしょ?」  ああ、そう言う事ね。だけど…… 「ものスンゴイ持ちにくそうだけど……」 「放置するのも優しさってものよ。主に三者にだけど」  要は憎まれたくなきゃ手を出すな、って事だな。  頷いて手を出す事をやめた。憎まれたくなかったからだ。  ひーひー言いながら(俺とヒロは余裕だが)小一時間。漸く麓の里に到着した。 「ひー、ひー、つ、疲れた……」  へたり込む楠木さんと川岸さん。他の女子達は疲れてはいるが、へたり込むほどではないようで、立って脚を揉んでいる。主に脹脛を。 「ね、ねえ…取り敢えず里に降りたんだけど、海全く見えないんだけど…」  楠木さんの言う通り、全く海が見えない。これは一体どう言う事なのか? 「うん。ここからバスに乗らなきゃいけないからね」  ものスッゴイ嫌な顔をする女子達。 「仕方ないでしょ?無料コテージ、そこしかないんだから」 「ただなら仕方ないか…」  そう言って諦めながら立ち上がる女子達。  無料の力は恐ろしい物だ。  つか、砂浜にテント張っても無料だと思うけど、それはやっぱり嫌なのか?俺ならそれでも楽しそうだから歓迎するが。  バス停を探すのにも一苦労したが、漸く見つけ、また更に愕然とした。  一時間に一本しか通ってない!!  えっと、今の時間がこうだから、次のバスは…… 「……30分後だって…」 「「「えーっ!?」」」  楠木さん、黒木さん、川岸さんが、ハモった。  だが、この『えーっ!?』には激しく同意だ。早くコテージに行って休みたい。  槙原さんは顎に指を当てて暫し考え、ポンと手を叩く。 「よし。歩こう」 「「「えーっ!?」」」  楠木さん、黒木さん、川岸さんが、またハモった。  ハモらなかったのは、春日さんと波崎さんのみ。  小声で春日さんに聞く。 「歩くの平気?」  コックリ頷く春日さん。 「……バイトでいっぱい歩いているから…」  成程、納得。  同じバイトの波崎さんも、同様の理由でハモらなかったんだろう。 「歩いても30分。バスを待っても30分。同じ30分なら行動しよう」  ふむふむ。つまり30分歩くと。  結構歩くぞそれ。俺とヒロは、慣れているからいいけど。 「ええ~っ…だったらバス待った方が…」  ボヤく黒木さんに槙原さんが耳打ちをする。  すると、今までぐったり状態だった黒木さんの顔に、みるみる生気が宿った。 「さあ!!みんな行くよ!!一刻も早く!!」  途端にやる気を出す黒木さん。俺達は唖然とした。 「と、黒木さんは言っているけど、春日ちゃんは大丈夫?」  いきなり春日さんに振る槙原さん。春日さんはいつも通り無言で頷く。 「波崎は?」 「いいよ別に」  こっちはけろっとして、簡単に同意した。 「隆君と大沢君は?」  まさか女子が歩くと言っているのに嫌だとは言えない。なので、俺達も頷く。 「はい、多数決により、歩くことになりました~!!」  物凄い嫌な顔をしていた楠木さんと川岸さんだが、多数決なら仕方が無い。  渋々と立ち上がって、わざとらしく溜め息を付いて見せていた。  さっきの砂利道と違い、舗装された道路は歩きやすかった。  キャリーケースも転がせられる事もあって、楠木さんと川岸さんも、さっきよりは文句が出ない。  しかし、やはり30分歩く事は変わらなかったので、目的のコテージに着いた途端、速攻でしゃがみこんだ。 「ひー、ひー、やっと着いた…」  二人共、だら~んとキャリーケースに体重を預けて休んでいる。余程疲れたんだろうな…同情はするが、声は掛けん。掛けたら疲れていない春日さんが面白くないからな。俺は恨まれたくないんだ。だから許せ。 「さあさあ、休むならコテージの中だよ!!さっ!!入ろう!!」  槙原さんが号令を出すと同時に、コテージ内(正確にはバーベキューが出来る野外だが)に突入する黒木さん。  なんだ?と門前からそこを覗いてみると…… 「あれっ!?木村と国枝君!?」  なんと、木村と国枝君が先に来て、縁側で休んでいるじゃないか。  その木村に、黒木さんが突っ掛って行った。 「酷いじゃない!!バイクで来るなら、私も乗せてよ!!」 「馬鹿言うな。後ろにゃ荷物あんだよ」 「馬鹿はどっちだ!!偏差値最低の西高のくせに!!」 「その偏差値最低の西高の男に、馬鹿呼ばわりされるお前の方が馬鹿なんだろ」  ぎゃーぎゃー喚く黒木さんに対して、軽くいなす木村。なんつーか、ちゃんとやっているのな。お付き合い。 「ああは言っているけど、木村君も結構急いで来たんだよ。おかけで予定時間より早く着いて退屈しちゃったよ」  と、俺にこそっと耳打ちしたのは国枝君だ。 「そうなのか…つか、国枝君、なんで木村と一緒に?」 「彼がバイクで来ると言うから、僕も便乗したんだよ、買い出しとかあった場合、 バイクがあった方が便利だからね」  そう言って指差す先には、400CCのバイクが二台!! 「国枝君、免許持っていたの!?」 「うん。あの辺りの高校でバイクの免許を取っていいのが西高と白浜なんだよ。だから僕は白浜に来たんだ」  成程…妙に納得だ。  国枝君なら海浜にも楽勝で入れたのに、ただの普通高校に来た理由が解らなかったが、免許を取る為とは……  西高と白浜の二択なら、間違いなく白浜を選ぶだろうし。 「さて、痴話喧嘩はほっといて、中に入って一休みしようか」  鍵を持っている槙原さんが開錠したので、ぞろぞろと中に入って行く。 「おいコラ、こいつ連れてけよ緒方」 「こいつって…明人も来るのよ!!」  強引に引っ張られる木村。明人君は綾子さんに結構甘いらしい。ムカついた顔してねーんだもん。俺はムカついたが。イチャ付きやがってこの野郎的なムカつきだ。 「へえ~…結構広いね~」  感心する波崎さん。俺もそう思ってコテージ内を見回した。殆ど一軒家じゃねーかこれ…… 「うん。大人数だから」  大人数でも、これじゃ結構なお値段なんじゃ…… 「これでタダ?普通なら結構お金取られるんじゃ?」  楠木さんは、俺が思った事を代弁するように言う。つか、多分みんなそう思った筈だ。 「うん。色々とコネあってね」  槙原コネクションは多彩に渡るが、こんな広いコテージを無料で借りられるコネを持っていた事に、改めて驚嘆する。 「で、俺と優の部屋はどこだ?」  一人お気楽なヒロだった。一軒家張りのコテージだが、部屋数は流石にそんなに無いだろが。 「みんなでこの大広間に雑魚寝だよ。二階にも一部屋あるけど、分けるんなら女子と男子で、大広間と二階だね」  ガッカリするヒロだが、波崎さんは明らかにホッとしていた。  つか、普通に考えてそうだろうが、みんなで大広間に雑魚寝ってのが、俺的には気になるが… 「ん?でも掃除しているな?てっきり掃除からスタートだと思ったが…  木村の言う通り、テーブルにも埃ひとつ落ちてない。窓もピカピカだ。 「ああ、管理人さんが、シーズン中は掃除毎日しているらしいから」  なんと…これは意外にラッキーだ。歩き疲れている身としては有難すぎる。 「……冷蔵庫にジュース入ってる…」  チェック途中だった春日さん。冷蔵庫まで覗いていたとは。 「うん。着いたら喉渇いているだろうから、頼んどいたんだ」  おお!!凄い気が利くな!!と、マジで感心していると、槙原さんがナチュラルに寄って来て、こそっと耳打ちをする。 「どう?惚れ直しちゃった?」  ドキッとした。槙原さんも心読めるキャラだったっけ!!  クスッと笑い、もう一度耳打ちをする。 「まだ丸一日以上あるから、ゆっくりと、ね」  うおおおお…貞操の危機を感じる…  望むところと言いたいが、視界にチラチラ映る楠木さんと春日さんのおかげで、辛うじて言葉に出すのを踏み止まれた。 つか、惚れ直すって…既に惚れているのに、直す所なんかないだろ。直すべきは、惚れているのが三人居るって所だよ!!  ともあれ、槙原さんのファインプレイで、喉の渇きを潤す事にしよう。  くはー!!チョーうまい!!やっぱ夏はサイダーだな!!  つか、アイスコーヒーが無かったからサイダーにしたのだが。だけどジュースの種類は結構あった。  コーラにお茶に烏龍茶。午後ティーにオレンジジュースなどなど。  漸く一息つけた俺達は、ジュースを飲みながら暫しまったり。  だが、折角海に来たんだ。時間は惜しい。 「これからどうする?」  先陣を切ったのはヒロだ。 「う~ん、夕ご飯の準備とか?」  黒木さん、折角海に来たんですよ?晩飯も大事だが、他にやる事あるでしょうが? 「……お風呂入りたい」  いや、俺も春日さんと一緒にお風呂入りたいけど、海が近くにあるんだよ? 「そうだな。汗掻いちまったしな。槙原、風呂は流石に無いだろ?」 「お風呂は無いなあ。シャワーならあるけど、どうしてもって言うなら、近くに温泉があるよ。御一人様300円」 「じゃあそこ行こうぜ。いいだろ隆?」  え?俺は海に……  そう口を開こうとしたが、全員が俺に注目している事に気付いて、言葉を止めた。  これは、決定権が俺に有るって事?  え?ちょっとマジで?なんで? 「緒方、俺は釣りに行きたい。お前も来るだろ?一応竿も仕掛けも四人分持って来たが」  それは、お前と俺とヒロと国枝君の分か?こいつ、なかなか優しい所あるじゃないか。つか、俺に振るなよ。この流れだと、俺の一声で全て決まりそうじゃねーか。 「でも、今の時間じゃ、人がいっぱい居るよ?釣りをするなら夜じゃないかな?」 「そっか。それもそうだな。国枝は単車も乗るし釣りにも詳しそうだな。意外と気ぃ合うかもな」  なんか木村と国枝君の間で友情が芽生えつつある。それはそれで嬉しい事だが。 「でも、お風呂もいいけど、やっぱ海じゃない?海行った後にお風呂行けばいいんだよ」  嬉しい楠木さんの援護射撃。そうだよ。海行った後で風呂入ればいいんだ。 「それもそうね。じゃ、緒方君どうするの?」  またまた俺に振って来るが、結論出てんじゃんか。波崎さんもヒロに水着姿をサービスしたいだろうに。  なので、俺は頷いて肯定した。女子の水着姿が見たいからだ。 「んじゃ海に行くか。緒方、パラソル持ってくれよ。俺はクーラーボックス持って行くからよ」  よいしょ、と立ち上がる木村。 「じゃあ僕も適当に食べ物を持って行くよ。晩御飯はバーベキューだから、軽い物でいいよね?」  そう言って財布を持つ国枝君。海の家で何か買うって事か。 「じゃあ俺はサンオイルを……」  指をわきわきさせて、にやけるヒロ。女子がドン引きだが、有り難い。ヒロも邪な心の持ち主だった事が。  俺だけじゃねーんだ。女子の水着姿が見たいってのは。ヒロのは行き過ぎだけど、まあいいや。 「そうだな。じゃあ着替えてから、みんなで出ようか」  そうと決まれば行動は早いのが俺。ヒロと言う人柱のおかげで、かなり気が楽になったし。  そんな訳で暫し着替えタイム。野郎共の着替えは速攻で終わり、俺達はパラソルとレジャーシートを持って女子達を待つ。  木村は宣言どおりにクーラーボックス、国枝君は財布を。そして、帰りに温泉に入ると言う事で、着替えも持って行く。 「お待たせ、じゃあ行こう」  女子達の水着姿を堪能する前に、ヒロがスイカを三つも持たされた。波崎さんに。おかげでビックリして水着姿見れなかったわ。  そして、何故か波崎さんのカバンも持たされていた。アレ着替え入っているんだろうな。ちょっと可愛そうだが、俺じゃねーから何でもいいや。 「重てー」  ぼやくヒロに木村が言う。 「代わるか?因みにこの中身はジュース類がびっちりだ」 「……スイカでいいや」  見た目は確かに木村のクーラーボックスの方が重たそうだが、多分担いで行ける分、スイカ三玉よりは楽だと思うが。 「なんか申し訳ないな。僕が一つ持とうか?」  国枝君がそう申し出たが、それを木村が止めた。 「お前はみんなの為に金使うつもりなんだろう?だったら、力仕事は貧乏人に任せときゃいい」  この説得力。一瞬ニヤリとしてスイカを渡そうとしたヒロが手を引っ込めるに充分だった。  つか、波崎さんにカバン持たせろよ。何でそれには文句言わねーんだよ。  だが、俺は特に何も言わない。スイカ持ちたくなかったし、波崎さんのカバンを持たされた日には、精神的疲労がヤバくなる。 「おまたせ~」  声に反応して全員が振り向いた。  ………おお…  楠木さんは黄色のビキニだ。谷間にリボンがついていて、すげー可愛い…下の方も両脇にリボンがついている。つか、リボン結びした紐か?解きてーなあ… 「お、隆君悩殺された?うりうり」  腕を組んできておっぱいを押し付ける楠木さん。程よい柔らかさで、理性が飛びそうだ。  デレ~っとしていると、ジト目の春日さんと目が合った。ハッとして強引に引き離した。 「むう」 「むうじゃねーよ。飛ばし過ぎだ。すんごい可愛いけどさ」 「か、可愛い?」  赤くなって身を捩る楠木さん。その隙を縫って、春日さんが目にも止まらぬ神速で、俺の前に来た。 「……デレデレしすぎ」 「だ、だって春日さんの水着、可愛いしさ…」  今度は春日さんが赤くなる。  春日さんはピンクのワンピースタイプ。いたるところにフリフリが付いている。  ワンピースは痣や火傷を隠す為なんだろうが、小動物的な春日さんに、実に良く似合っていた。 「みんな準備できたみたいだし、出よっか?」  その春日さんを押し退けて、俺の前に来た槙原さん。  黒い水着だが、バスタオルを羽織っている為、全貌が見えない。 「ん?見たいの?」 「いや、見たいけど、なんで今更隠すのかなあ、と」  槙原さんの水着姿は温泉プールで凝視済み。チラリズムを演出しているのだろうか?  槙原さんはクスリと笑い、こっそり耳打ちをしてきた。 「私の水着姿は男子には強烈過ぎるからね。隆君だけならいいんだけど」  ………ぐはっ!!  た、確かにあの爆乳は教育上悪い。それにヒロも木村も彼女持ち。万が一、槙原さんをジロジロ見るような事があれば、険悪なムードになってしまう!!  成程、そんな配慮が…… 「って、冗談だけどね。あまり焼きたくないだけ」 「高度な冗談だったな!?」  俺、すっかり本気にしちゃったよ。つか、温泉プールでも普通に水着姿晒していたしな。そんで野郎の視線集めていたし。  なにはともあれ、てくてくとビーチに向かう。  途中野郎共の視線が痛かったが気にしない。そんな嫉妬の視線、学校で慣れているわ。 「ここらにしようぜ。これ以上は面倒だ」  木村が誰の賛同も得ない儘、クーラーボックスをどんと置いた。  多少岩肌が目立つが、一応砂地だし、少し傾斜が気になるが、我慢できない事でも無い。 「そうだな。そうすっか。」  俺はレジャーシートをてきぱきと敷いた。ぶっちゃけもう歩きたくないからだ。駅からコテージまで結構歩いたし。  ヒロなんか、誰の了解もなくスイカを冷やしているし。 「う~ん。ロケーション的にちょっとアレだけど、まあいいか」  もっと人気のある所に行きたかったのだろう楠木さんも、早速敷いたレジャーシートに腰掛けた。それに倣って女子達も荷物を置いた。  みんな歩きたくないんだなぁ。微妙にホッとしているし。  一人余裕の国枝君は苦笑する。 「じゃあ僕は何か食べ物を買って来るよ」 「ちょっと待って!!明人も行きなよ!!」  いきなり黒木さんに振られた木村。結構面食らいながらも「何でだよ!?」と問うた。 「だって明人もバイクで来たんじゃない。まだ体力に余裕があるでしょ?国枝君だけじゃ、持てないかも」  おいおい。どれだけ買わせる気なんだ?  俺は素直にそう思ったが、女子達は違った。 「そうだね。一人だけ楽しているみたいだのもね」 「くろっきーカッコイイ!彼氏服従させてる!!」 「確かに荷物いっぱいになるから、もう一人くらいは行った方がいいかも」  そんな事を口々に言い合っている。つうか、バイクでの長距離移動も結構疲れると聞いたけど、その点は配慮しないのな。 「く!!訳解んねえ理屈だな!!」  文句を言いながらも立ち上がる木村。  こいつ、荷物持ちに付き合うんだ……意外過ぎる。絶対パシらせる側だと思っていたのに!!  感心して眺めている俺だが、木村に無理やり腕を引っ張られた。 「お前も来い。荷物持ちは多けりゃ多いほどいい」  いや、お前もどんだけ買わせる気なんだ?三人も荷物持ちが必要なくらい、買わせようとすんなよ。 「おいおい、俺は電車組だぞ」  国枝君の懐に気を遣って、だが、それなりの理由を付けて行かないと要望を述べる。 「知るか。グダグダ言ってねえで来い」  マジで行くのかよ?国枝君も何も言わないし、本当に大量に買うつもりなのか?  じゃあ仕方がない。面倒臭い。面倒臭いが仕方が無い。  俺が渋々立ち上がると、楠木さんが異議を申し立てた。 「ちょっと待ってよ。隆君が居なくなったら、誰がナンパ男から私達を守るのよ?」 「あん?大沢置いて行くからいいだろうが」 「解ってないなあ。女子としては、好きな人に守って貰いたいんだよ」  呆れて(かぶり)を振った楠木さん。肩を竦める事も忘れずに。  だが、木村がそれを見て、鼻で笑った。 「好きな人に守って貰いたいねえ?お前、誰でも良かったんじゃなかったか?腕っぷしさえよけりゃよ?」 「!昔の事を…!!」  何かヤバい。一触即発状態だ。  慌てて木村の前に立つ。 「確かに人数多い方がいいよな。ヒロ、ちょっと留守番頼む」 「お、おう…」  逃げるようにその場から離れる。ヒロも居心地が悪そうに、歯切れが悪かったが、気にしちゃいられない。とばっちりは勘弁だし。  しかし、やっぱ木村と楠木さんの間には、まだ(わだかま)りがあるのか。  軽く溜め息を付いて三人並んで海の家を目指す。  やきそばくらいはあるだろう。晩飯の事も考えると、やっぱり大量仕入れはいかんと思うので、買いそうだったら止めなきゃならないし、来た事は結果的には良かったか?  それは兎も角…… 「なんで俺も誘ったんだよ?本気で沢山買わせる気なのかよ?」 「沢山?焼きそばとフランク程度でいいだろ?お前を誘ったのは、ちょっと相談もあったからだ」  木村も沢山買わせるつもりは無かったようだ。ホッとしたが… 「相談って、俺に?」  木村がくるくると周囲を見て、俺と国枝君の肩を抱き、しゃがみこむ。 「俺はあいつと付き合ってから自由が殆ど無い。なんつうか、束縛されているっつうか…」 「見た感じ、そうだな。それがなんだ?」  彼女持ちなら多少の束縛はあるだろう。その束縛が無い野郎共も沢山居るってのに、贅沢な奴だ。 「夜に遊びに出歩く事も、殆ど無くなった」 「夜は寝ろよ……」 「だが、今日は久し振りに自由になれそうだ。布石も打ったしな」  布石?なんかやったっけこいつ?バイクで現地集合したくらいじゃないのか?  国枝君が苦笑して言う。 「さっき釣りに行きたいって言っていただろう?そして僕が、夜の方がいいって言ったじゃないか」  確かに言ったな。それが布石か?  首を捻る俺に、木村が苛立ちながらも小声で言う。 「だから、夜は自由だっつってんだよ。と、言う訳だから、お前も来い」 「どこに?」 「ナンパに決まってんだろ」  ナンパ!?俺がナンパだと!? 「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!」  全力で首を振って、腕を突き出して後退りした。  ナンパしたって事がバレた日には、死期が早まる!!具体的には、その日が死期になっちまう!!  折角繰り返して此処まできたんだ!!命、大事に。だ!! 「大沢には彼女がいるから誘えねえが、お前は一応フリーだろうが。良いじゃねえか、付き合えよ。国枝は付き合ってくれるって言ってくれたぞ?」  驚いて国枝君を見ると、やはり苦笑して言う。 「これは川岸さんからの提案でもあるんだ。緒方君は何としても秋までに、それなりの形にならなきゃならない。それなりの形の一つが、恋人を作るって事さ」  それは確かに前川岸さんに電話で言われたが…… 「だってナンパって、大体木村にも彼女いるだろ?それに、バレたら俺は殺される!!」 「別に浮気しようとかって話じゃねえよ。海に来たらナンパ。これは常識だろ」 「おま!!黒木さんにバレたらどうすんだよ!!」 「だから、バレないようにするのがいいんじゃねえか。バレなきゃ浮気じゃねえし、さっきも言ったが、単なる息抜きみたいなもんだ。実際息詰まっているし」  駄目だこいつ。アホの西高らしく、修羅の道が好きなようだ。 「なぁに、もしもバレそうになったらこう言やいいんだ。『国枝があの女を気に入ったみたいだから協力しただけだ』ってな」 「そりゃ国枝君に申し訳なさ過ぎるだろ…」 「だから条件をつけたんだよ。僕が気に入った子がいるグループに声を掛けてくれってね。僕も何だかんだ言って恋人は欲しいしね」  まさかの国枝君の乗り気!!流石の俺も驚愕しっぱなしだ!!  もう全力で呆れて、大仰に溜息を付いた。 「……あのな、言っておくが、俺は好きな人が居るんだよ。しかもこの海に来ているんだ。彼女達より、気に入る女子なんかできる訳ね-だろ」 「「彼女『達』?」」  しまった!!つい言っちまった!!うわ最低!!とか言われそう!! 「……緒方、えっとな、昔訳ありで付き合った事がある俺が言ったら、説得力あり捲りだろうが、楠木はやめといたほうがいいぞ?」 「……なんでだよ?」  ちょっとムッとしてしまった。だが、木村が言えば、確かに説得力はある。  こいつは用心棒がわりに、楠木さんに、まさに雇われていたんだし。 「……まあ、昔の事だと割り切れるんなら、別にいいけどよ…」  バツが悪そうに頭を掻いて視線を反らす。いや、俺もこんな程度でムッとして大人気なかった。悪かった。 「でも緒方君、三人とも好きだって気持ちも解らなくも無いけど、その中で一人選べるのかい?残った二人を、ちゃんと振ってあげられるのかい?」  ……そう言われると返す言葉も無いが…  それは暗に、川岸さんにも指摘された事だ。  すっごい俯いて考えるが、答えは出て来ないし、良い案も浮かばない。  ずっと考えて来たんだ。たった今答えが閃くなんて事も無いだろう。  なので逃げた。先延ばしにしたと言うべきか。 「解った。付き合う。だけど、国枝君のサポートってスタンスは貫かせて貰う」 「そうこなくちゃな!!なあに、お前はツラだけはいいんだ。置物になってくれりゃ、それでいいさ!!」  がしっと肩を組まれた。つか、やめろ。置物とか言うな。 「じゃあ早く何か食べ物を買って戻ろうか。迎えが来てもおかしくないくらいに時間を使っちゃっているよ」  おお、そうか。すっかり話し込んでしまった。  俺達は慌てて海の家に向かった。  そして焼きそば、イカ焼き等と購入し、慌てて戻った。

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