緒方隆の廻愁奇譚3

読了目安時間:19分

秋中盤

1

 早いもので、もう十月。体育祭のイベントがある月だ。  去年の体育祭はどんなんだったっけ?何回も体育祭やっていたから忘れたが、今回の体育祭は二年。初めての二年の体育祭だ。  そんな訳で学校帰り、俺とヒロ、国枝君は何の種目に出るのかを相談しながら帰宅中だった。 「長距離は面倒だから、短距離が良いな」 「お前はスタミナバカだから、長距離でもいいだろが」  俺が希望を述べたらヒロが毒付いた。こいつも短距離を狙っているのだ。得意種目で一位を取って波崎さんに少しでもカッコイイ所を見せたいらしい。 「二人三脚は?春日さんが狙っていたよ」  国枝君情報である。春日さんが狙っているのかー。  まあ…借り物競争に引っ張られるよりはいいかな? 「槙原も狙っていたような気がしたな」 「ああ、そう言えば楠木さんもだったよ」 「解った。もういい」  結局はみんなじゃねーか。同じクラスだからか? 「そう言えば、噂聞かなくなったよな。なあ隆?」  ヒロが思わせぶりに言って来る。  解っているんだっつーの。言われなくてもよ。  槙原さんを筆頭に、里中さんがSNSで叩きまくって、リアでは木村が西高率いてぶっ叩きまくって。  今じゃその話するのもタブーな雰囲気を作っちまった。  まだ朋美の深夜のストーカーは続いては居るが、書き込みは全く無くなった。  深夜ストーカーも、寒くなったらやめるだろう、と言う結論で放置決定したし。万が一やめなかったら凍死すりゃいいだけだから、それでもいいや、って事に落ち着いた。  例の動画も、効果があった。どこかの動画サイトにアップされてからちょっとした後に、噂の書き込みが無くなったのだから。  平和とは言えないかもしれないが、まあそこそこ落ち着いている。  しかし、未だに悩みの種がある。  そう、麻美を安心させて成仏させる事である。  その為には、俺が落ち着かなければならない。  落ち着くとは朋美に隙を見せない事、朋美が俺の隣に座らない事。  つまり、俺の隣に、俺を心底好いてくれる女子を座らせる事。  要するに『恋人作って私を安心させて』だそうで。そこは川岸さんに毎日のように突かれている状態だ。秋になったら結着付けるって言ったよね?と責められる毎日である。  逆に言えば、それだけ麻美の悪霊化が、深刻な状態になって来ているとも言える。  夏のあの日から麻美は出て来ていないが、この世に留まる事は、やはり良くない訳で。  川岸さん曰く、一刻も早く彼女を成仏させなきゃならない、彼女は自分から留まる事を選んだが、それは仕方なくだから、まだ救いがある、と。  その救いがある内に結着付けなきゃ、力ずくで祓わなきゃならないと。  川岸さんの口調から推測するに、その時はもう直ぐだろう。その時を迎えないようにする為にも、恋人を作らなきゃいけないんだが…… 「んで隆、二人三脚にすんのか?」  ヒロの問いかけに思考が戻される。 「大沢君はどうしても短距離が欲しいみたいだから、此処は緒方君が譲らなきゃね」 「あ、ああ…短距離はやるよ。二人三脚はどうしようかな……」  俺の反応に驚いた様子の二人。  一体何だと言うのだろうか? 「お、お前が二人三脚を考えるなんてな…」 「一体どんな風の吹き回しだい?」  え?それ?いや、別に意味はないが… 「いや、全員何かしらの種目に出場しなきゃならん訳だから、二人三脚もそりゃ候補には入るだろ?」 「つーことは楠木、春日ちゃん、槙原の仁義なき戦いが見られる訳か…」 「なんでそうなる!?普通にじゃんけんで決着付けりゃいいだろうが?」 「じゃんけんで決めてもいいと思う彼女達ならいいんだけどね…」  なんかおっかねえ事言っているな…… 「じゃあ二人三脚はヤメだ。面倒は御免だ」  体育祭くらい平和に過ごさせてくれ。そうじゃなくても、あの三人は、学校で必要以外の話はしなくなったってのに。おかげで席が真ん中の俺は、胃が痛む思いなんだぞ。  つっても仲悪くなった訳じゃ無いらしいから、あんま問題にしていないけどな。 「んじゃ何に出場すんだよ?」  ヒロの問いに少し悩み、国枝君に聞いてみる。 「国枝君は何狙っているんだ?」 「僕は400メートルかな?中距離狙いだよ」  中距離か。しかし確か短距離と中距離は、選手からリレーの選手も選抜されるんだよな。  結果下手すれば二種目出る事になり、それはそれで面倒そうだな。 「人気の無さ気な長距離でもいいかな…」  別に長距離も苦手な訳じゃ無い。あれは淡々と走っていれば終わるから、実は意外と好きだったりする。着順を意識さえしなければだが。  駅に向かう十字路で俺達は別れた  一旦家に戻って着替え、そして再び駅に向かう。ジムに顔を出す為に。あまりサボりすぎると会長がうるさいからな。  電車に揺られ、最寄駅を目指す。そして駅から少し歩くと、俺が通っているジムだ。 「こんちわっす」 「おう隆!お前この頃サボり過ぎじゃねえか?」  開口一番、会長が睨んでくる。俺は軽く辞儀をして逃げるようにロッカールームに向かう。 「お、隆か?何か久し振りだな?」  先に来て着替えていたのは、ジムの先輩の吉見さんだった。因みにプロだ。4回戦だけど。 「いや、学生にしちゃ結構来ていると思いますよ?」  一応週一くらいで顔を出すよう心掛けているんだから、開いても一週間が最大なのだ。  それはそうと、と俺は口を開く。 「この前の仕合勝ったんすよね?おめでとうございます」  吉見さんは頭を掻いて苦笑い。 「判定だけどな。でも漸く6回戦に上がれるよ」 「いやいや、立派なもんすよ」  吉見さんは4回戦に三年以上も留まっていたが、別に弱い訳じゃ無い。家の事情がちょっとあって、二年くらいなかなか練習に来られなかったのだ。この所余裕が出来で練習できたから勝てたというのもあるが。 「いっそのこと辞めちまおうか、とも思ったよ」  ぼそっと呟く。俺は頷きもせずに、黙って聞いていた。 「親父が癌で入院してさ。金稼がなきゃならなくなってさ。ボクシングどころじゃねーって」  それでも好きだから諦められなかった。合間合間に、ジムに来ていた。  その間試合もしたが、練習不足で負け続けた。でも辞めなかった。  そこまで好きになれる物を見つけられた事が、俺にはとっても羨ましい。俺は凶器を得る為にボクシングをしているのだから。  しかし、そこまで好きなボクシングも、練習時間が取れなければ4回戦に長い間留まる事になる。  更に言えば、吉見さんが6回戦に上がれたのは、練習時間が多く取れたから。つまり時間に余裕が出来たから。  父親が亡くなったから時間が取れたから。身体を動かして何も考えたくなかったという理由もあるが、やっぱり練習時間を多く取らなきゃ、好きなボクシングで上には行けない。  何かを犠牲にしなければ何かを成し遂げられない。吉見さんの事情はちょっと違うけども。  俺の事情もちょっと違うけども、概ねそう思うのだ。 「隆、お前は俺と違って才能あるんだからさ、此の儘プロになってチャンピオンを目指せよ?」  吉見さんがやつれたように笑う。  好きなボクシングも、代償が大きいとそうなる。  さっきも言ったが、6回戦に上がれなかったのは、練習不足が原因だ。決して吉見さんが弱いからじゃない。  僅かな時間を見つけては、吉見さんは練習をしていた。勿論、早朝のロードワークだって欠かした事は無いだろう。  しかし、長い事4回戦に留まっていたのだ。才能が無いと諦めている。  勿論、どんな世界でも、一廉(ひとかど)の者になれる奴は根本的に何かが違うんだろうが、疲れて諦めるに至る理由が大半だろう。  俺もそうなりつつあるかもしれない。何かを成し遂げる事が怖くて、先延ばしにして諦める。  そんな考えを、頭を振って追い払う。 「何言ってんすか。俺はただのケンカ屋ですよ。チャンピオンなんて無理ですよ」  俺はボクシングに限っては好きだからって理由だけじゃ無い。糞共をぶち砕く武器、それが大半を占めている。  ヒロが紹介してくれたのが空手だったら空手を武器にするだろうし、相撲だったら相撲を武器にしていた。ただそれだけの事だ。  吉見さんに夢を託されるような奴じゃないし、その資格も無い。  吉見さんとの会話を終えて俺も汗を流す。  いつもと同じ練習風景。そこに俺も同化する。  ボクシングをやり始めた頃はオーバーワークをよく叱られたものだが、今は放置されている。これは俺が正しい『練習』の仕方を覚えた為、わざわざ注意されることが無くなったと言う事だ。  今、川岸さんや国枝君に叱られている事と全く逆だ。  決着を付ける為に先延ばしにしているのはいいが、自分から何のアクションも起こしていない。要するに、やる気が無いように見えるんだろう。  そこは俺も重々承知しているから反論もできない。なあなあで先延ばしにしている。言い訳を一切抜きにして。  しかし、時間は待ってくれない訳で。その時は確実に近付いている訳で。  ここらで俺も何らかのアクションを起こさなければと、いよいよ尻に火が点き始めたように思う。しかし、何をどうしたらいいのかさっぱり見当も付かない。  なので、この体育祭。  何かの切っ掛けをつかむ為に、多少動いてみようと思う。  次の日、体育祭の出場種目の希望を取る日。  6限を潰したLHRで出場種目を決める。つか、一年の時は殆どが朝のLHRだった。この様に細かい違いは、繰り返し中無数にあるが、あんま覚えていなかったりする。  ともあれ、出たい種目に挙手して、定員オーバーならばじゃんけんで決める。去年と全く同じ方式だ。 「えー。じゃあ男子100メートルから」  体育祭実行委員の三沢君が司会をし、希望種目の決を取る。  ヒロと他二人が挙手した。枠は三枠なので、他に挙手が居なければ決まる。 「……はい、じゃあ大沢、三木谷、梶原の三名」  微かにガッツポーズを作ってみせるヒロ。どんだけ掛けてんだ体育祭に。 「次ー。400メートル」  国枝君他二名が挙手。此処も決まる。  つつがなく進行して行く出場種目。俺は長距離狙いだったが、何故か定員オーバーだった為身を引いた。マラソン同好会が挙手するのは解るとして、長距離に人が集まるなんて珍しい。  後はお楽しみ系の競技。玉転がしだったり借り物競争だったり、そして二人三脚だったりだ。 「二人三脚ー」  ばばばっと挙手する三人の女子。楠木さん、春日さん、槙原さんだった。  司会の三沢君は苦笑い。 「女子だけ三名っつうのもな。男女混合で一組だからさ」  ばばばっ、と、俺に視線が注がれる。勿論楠木さん、春日さん、槙原さんの三人だ。 「緒方、相変わらず愛されているなぁ?」  三沢君にからかわれた。この感じが心地よい。過去では誰も俺を怖がって、話もしてくれなかったからな。 「んで緒方、どうするよ?一応推選って事で受理しとくか?」 「うん。それでいいよ」  あっさりと了承した。  ヒロと国枝君が驚いて顔を見合わせたのが一瞬見えた。かなり意外だったんだろう。 「んじゃ女子はじゃんけんな。前に出て」  がたっ、と机から立ち上がる音が三つ。三人とも無言で前に出て行く。つか、めっさ目つきが怖い。 「最初はグー」  三沢君の合図でグーを出す三人。張り詰めた空気?が場を緊張させた。 「じゃんけん!!ぽん!!」  楠木さん、グー。春日さん、パー。槙原さん、チョキ。三沢君が再び口を開く。 「あいこでしょ!!」  楠木さん、グー。春日さん、グー。槙原さん……チョキ!!  槙原さんは「ちっ」と舌打ちしてチョキを降ろし、無言で席に戻って行く。物凄い表情で。めっさ怖い!! 「まだ…借り物競争がある…まだ…」とブツブツ呟いているのがまた怖い!! 「楠木と春日ちゃん、もう一回ね」  二人共こくんと頷く。物凄い殺気を放って。 「あいこでーしょ!!」  楠木さん、三回連続のグー!!そして春日さんは…チョキ!! 「おっしゃあああああああああ!!!」  楠木さんが絶叫した。クラス全員目が点状態。  春日さんは唇をかんで、無言で席に戻る。 「じ、じゃあ二人三脚は緒方と楠木で決定……」  余りの楠木さんの迫力に、引き気味で宣言する三沢君。  楠木さんはだだだ!!と俺の席に一直線でやって来て―― 「頑張ろうね隆君!!」  そう、物凄く嬉しそうに笑った。  俺はニカッと笑って返した。 「おう!一着狙いだぜ楠木さん!」  クラス全員目が点になって俺を見る。当の楠木さんですら、そうなっていた。 「え?隆君なんか変わった?」  変わったと言えば変わったのかもしれない。俺も逃げずに立ち向かわなければならない。  遅いと言われそうだが、そこは勘弁して貰いたい。  以前の俺だったら、やはり引き気味で頷いていたが、今日からは敢えて誘いに乗る。そして一番好きな人を探し当てる!! 「そうか?変わったかな?」  とぼける俺。 「う、うん?いや?どうだろ…?」 「それにしてもグーで押し通すとは、すげえな」 「え?いや、乙女の一念岩をも通す作戦でさ」  よく解らん作戦名だが、結果が伴ったんだ。正解だったんだろう。  その後もつつがなく進行して行く。 「次は…借り物競争ー」  ぴっ、と挙手したのは槙原さん。 「槙原一人か?じゃあ決まりだな」  ふふんと含みのある笑みを俺に向ける。汗出ちゃったよ。また縦笛か?  そして春日さんはスプーンリレーと。  因みに俺はリレーにも選ばれてしまった。ヒロが押しやがったのだ。絶対に勝つ!!とか言いながら。なんて勝手な奴なんだろう。 「はい。じゃあ今日から練習していいみたいだけど、運動部の邪魔にならない程度でお願いします」  はーい。とみんな元気よく返事した。小学校かここは。 「隆君!!今日早速練習しよ!!」  予想通りに楠木さんが練習に誘ってきた。いつもなら逃げようものだが、今日からの俺は違う。 「ぜってー勝つ!!な?」 「う、うん…?」  逆に戸惑われる程、俺の調子はおかしかった。  昼休み。俺は自分の席で弁当を広げようとしていた。 「隆、一緒に食おうぜ」  と、ヒロがいつものように席を合体させてくる。 「緒方君、僕もいいかい?」  と、国枝君も席を合体させてくる。 「ムサイ野郎ばっかの食卓になっちまったな…花が無い」  なので、隣の席でちっさい弁当を広げようとしていた楠木さんに「一緒に食おう」と誘う。 「!?」  ヒロも国枝君も楠木さんも驚いて俺を見た。 「何かおかしな事言ったかな…」 「う、ううん。うん!一緒に食べよう!!」  慌てながらガチャガチャと席を合体させる楠木さん。  春日さんはパンを買いに購買に行っていない。槙原さんは学食なので、これまたいない。  楠木さん一人でも華やかになったが、やっぱり少し寂しい感じだ。  あと、知っている女子は里中さんと黒木さんだ。しかし二人とも他の友達と既に机を合わせている。  仕方が無い、花一輪で我慢しようか。  んじゃいただきますと弁当を食べる俺達。 「おいヒロ、お前のそれ鯖の塩焼きか?」 「国枝の酢豚旨そうだな…」 「緒方君のアスパラの肉巻きも美味しそうだね」  三人顔を突き付けて頷く。  俺のアスパラの肉巻きは国枝君の弁当箱に、国枝君の酢豚はヒロの弁当箱に、ヒロの鯖の塩焼きは俺の弁当箱にと、それぞれ入れられる。 「仲良いんだね~」  楠木さんが羨ましそうに呟く。 「んじゃアスパラの肉巻き、もう一つ入っているから、卵焼きとトレードしない?」  箸でアスパラの肉巻きを持ち上げて楠木さんの弁当箱に入れる。やはり驚いた顔をされた。ヒロと国枝君にもだ。 「なんだよ?言っておくが、楠木さんの卵焼きは絶品なんだぞ?」 「いや、その事じゃねえんだが…まあいいか…」  何か言いたそうだが、何を言っていいのか解らない様子のヒロ。楠木さんもまた然りだった。 「そう言えば、緒方君は前にそんな事言っていたよね。実際キャンプのご飯もおいしかったし。楠木さんはお弁当は自分で作っているのかな?」 「えっと、卵焼きだけは必ず自分で作っているけど、他は昨晩の残り物だったり、お母さんが作ってくれた朝ご飯の残りだったり…あ、でも今日はマカロニサラダ作って来たよ」  見てみるとマカロニサラダがちゃんと入っていた。女子らしく少なめだが。 「それもうまそうだな…楠木さん料理上手いからな」 「あ、じゃあどうぞ?」 「僕が話を振ったのに、緒方君だけ?」 「もちろん国枝君もどうぞ。こんな事なら、もっと多く詰めてくれば良かったかな」  和やかに昼飯を食べる俺達。ヒロもなんやかんやでマカロニサラダを食っていたし。  昼飯終えて、俺達は其の儘だべった。  と、そこに里中さんが入って来る。 「おやま、珍しい組み合わせ。この組み合わせじゃ、後二人は確実に居る筈なのに」  ガタガタと椅子を引っ張って会話に加わってくる。 「春日さんは図書室でパン。槙原さんは学食だからな」 「ほほう。じゃあ私も誘ってもよくない?」 「既に他の女子と弁当広げていただろ…」  そうだったそうだった。と机の上に100円玉を転がした里中さん。全員「?」ってな顏をした。 「じゃんけんで負けた人がパシリね。私は午後ティー」 「おい里中、お前いきなりなんて良い提案するんだよ」  そう言ってヒロも100円玉を転がす。 「ああ、いいじゃんいいじゃん。私お茶ね」 「ここで乗らなきゃ空気読めない奴だって言われそうだね。僕は微糖のコーヒーだ」  やっぱり付き合わなきゃいけないのか。俺もこういう乗り大好きだけど。  さて、じゃんけんの結果だが…  仏頂面で自販機に向かっている奴の負け。つまりは俺だ。  それにしても5本だぞ。5本は多いだろ、絶対。  しかしルールはルール。俺はそのルールに従うのみだ。さて、里中さんは午後ティー、楠木さんはお茶で国枝君は微糖コーヒーだったな。ヒロはなんだっけ?聞くの忘れたわ。いいやおしるこで。俺はコーヒーにしよう。  つつがなく目当ての品をゲットして教室に戻る。 「お、隆、早かったな」  ヒロがニヤニヤして勝者の余裕ってヤツを演出しやがった。ふん。言ってない事を後悔しやがれ。  俺はそれぞれの品をそれぞれに渡す。そして最初にプルトップを開けて、一気に半分近くまで煽った。 「なんだあ?パシリで喉渇いていたのか?っておい!!!」  途中まで笑っていたヒロがいきなり叫ぶ。なんだよ。うるせー奴だな。 「おしるこじゃねえか!!よくあったなコレ!!じゃねぇよ!!お前のと代えろ!!」 「あ、わりいな。もう半分飲んじゃった」  けろりとして返す俺。場は爆笑の渦に包まれる。 「つかよー、お前が何の要望も出さないもんだからよー。なんでもいいのかと思ってさー」 「何でもいいけど、おしるこは駄目だろ!」 「なんで?」 「これは食べものだからだ!!」 「いや、飲めよ。あんこ汁だぞ」  里中さんと楠木さんは、腹を抱えて足をばたつかせている。国枝君は必死に堪えてはいるが、全身が痙攣していた。  春日さんてホントにすげーな。おしるこ普通に飲んでいたんだぞ。ヒロなんか全身で拒否しているってのに。 「ははははは!!まあそれはそうとさ、緒方君、よく二人三脚に出る気になったよね?前だったら物凄い慌てて拒否しても、周りに流されて渋々やっていたよね、絶対」  涙を指で拭って、恐らく本当に聞きたかった事を聞き出しに来る里中さん。 「うん。長距離譲ったからさ。何でもいいかな、って」 「ふうん?楠木さんの御指名だからってのは無いの?」 「勿論あるさ、そりゃあ」  やはり全員目が点。一体何悪い物食ったんだ?的な目を向けたのはヒロだが。 「ふ、ふうん…じゃあ春日ちゃんや槙原さんが御指名したらどうしたのさ?」 「そりゃ勿論受けるだろ」  ああ、何だ、と合点がいった表情になる。 「それじゃ、私とか黒木さんとかが指名しても、受けていたって事か」 「いや、それは受けない。他の人誘ってもらうけど」  目が点を飛び越えて目を剥く。しかも全員。まあそうだろうな。『線引きを明確にした』訳だからな。  放課後、早速暇な連中で体育祭の練習だと外に出る。俺は暇じゃないが、一応リレーに選ばれた訳で、仕方ないから付き合う形だ。 「お前なんか変わったよなあ…」  ストレッチしながらヒロが話し掛けてくる。 「朋美の件が落ち着いたからな。これからは自分の為に動ける余裕が出来ただけだ」  これは本音半分。ケツに火が点いている状態だから頑張るってのが半分。要するに自業自得っつー事だ。 「そうなると、いよいよ誰か決めるって事か?」 「まあな。言っちゃなんだが、俺も色々彼女達の好意に甘えすぎているから、ケジメ付ける為にもな」  彼女達には感謝しきれない部分が沢山あるが、彼女達も打算一切なしで動いている訳じゃ無い。他ならぬ本人達から聞いた事だから間違いない。 「やほー。隆君、二人三脚に向けての特訓は?」  言いながらもちゃんと体操着に着替えている所がいやらしいな。 「おう。絶対勝つぜ楠木さん!!」 「おう!!」  本当に嬉しそうな楠木さん。そんな顔を見ていると、俺も嬉しくなる。 「おい隆、最初はリレーの特訓だぞ?」 「解っているよ。んで、選手は?」  リレーは俺、ヒロ、美木谷君、梶原君の四人。んで、今ここに来ているのは、俺とヒロのみ。 「なんでだあああ!?」  ヒロが絶叫するも、仕方ない事だろうに。美木谷君はバレー部、梶原君はサッカー部と、それぞれ部活やっているんだから。 「あいつら…暇だったら来るっつってたのに…!!」 「だから暇じゃねーんだろ。部活やっている人と俺達を一緒にすんなよアホ」  諦めて個人練習しろ。俺は楠木さんと仲良く二人三脚の練習するから。  フンフンフ~ンと鼻歌を歌って、俺の左足を自分の右足と紐で繋げる楠木さん。 「よし!!じゃあちょっと走ってみよっか?」 「おう」  肩に手を回す俺。楠木さんも倣うが… 「……身体キツイ…」  俺と楠木さんの身長差で無理した体勢となってしまい、動きにくい。楠木さんに至っては右肩が吊りそうになっているし。どんだけ身体固いんだ? 「肩は駄目だな」 「うん。どうしようか?」  俺は腰に腕を回す。 「ひゃっ!?」 「あ、わりい。くすぐったかったか?」 「う、ううん。いきなりだから吃驚して…」  いやいや、いつもは楠木さんから引っ付いて来るでしょーが。俺のは競技だからって理由があるんだぞ、ちゃんと。 「じゃあ楠木さんも俺の腰に腕を回してくれ」 「う、うん」  いつのもスキンシップより、かなり遠慮がちに腕を回して来る。 「これでどうだ? 「うん。いいかも」  肩の時よりもかなり楽になったのは、俺だけじゃ無かったようだ。 「じゃあ左足…楠木さんは右足から出すか」 「う、うん」 「じゃあ行くぞ。せーのっ!!」  一歩踏み出し、特に何もなかったので、そのまま軽く歩いてみる。掛け声も忘れずに。 「いち、に、いち、に」 「いち、に、いち、に」  おお。結構歩けているな俺達。思った以上に息が合っている。 「んじゃ今度は軽く走ってみるか?」 「う、うん」  せーの、で足を踏み出し、其の儘掛け声を掛けながら、軽く走ってみた。 「いち、に、いち、に」 「いち、に、いち、に」  おお!!結構走れているな俺達!!  楠木さんの限界ペースまで上げてみるか? 「俺が合わせるから、楠木さんスピード上げてみて?」 「解った!いち!に!いち!に!!」  結構速いか?この位は問題ないけど。  ならば…… 「もっとペース上げて」 「ええ~っ!?いち!に!いち!に!!」  頑張っているが、この辺りが限界か。二人三脚で意外と走れるにしても、このくらいが妥当かもな。

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