うらぶれ神殿の司祭剣士 ――転生したら辺境の神殿を復興させます――

15 各個撃破

 俺は力任せに木の板を蹴り開けた。  部屋にいたオークどもがどよめき、武器を取って立ち上がる。ニボンザ師の言う通りかなりの数がいる。ざっとみて十五というところか。 「放て、炎熱火球:三点射(スリーラウンドバースト)」  オークが密集しているところを狙って、ユリアが魔法をぶち込んだ。一匹が壁に叩きつけられて動かなくなり、もう一匹が足に火球を受けて蹲る。  激昂したオークたちが突進してきた。 「はああああああっ」  ユリアが絶叫した。オークの足元に泥沼が現れた。神殿が盗賊に襲われたときにユリアが編み出した混合魔法だ。二匹ばかりが足を取られ、腿の辺りまで土に埋まった。急激に下半身が固定されたため、勢いで顔面を地面に打ちつけて呻いている。  青い小瓶を取り出したユリアがそれを一気に呷る。さらに続けて杖を構えると詠唱を開始した。 「眩き障壁、金城鉄壁の護り以ちて寄せ手を防がん。硬至力(こうしりょく)結界」  オークの大多数(・・・)を虹色に輝く結界が包み込む。外に出ているのは五匹。そのうち二匹は足を取られて藻掻いている。 「いくぞ!」  部屋に入る前の打ち合わせで俺たちは魔纏斬剣を除けば最大の火力を持つユリアの魔法攻撃を封じる決断をした。その代わりに敵を分断することに集中してもらおうと考えたのだ。  俺とダリオが突進し、カーリナが迂回しつつ敵の背後をとる。  一匹の足の下をくぐるようにしてダリオが剣を振り抜きつつスライディングを決める。先の戦いで習得した秘技『ナッツクラッカー』が炸裂し一撃で戦闘力を奪う。男の子としては見るからに痛い技だ。  足を取られた二匹を放置はできない。なにしろ土を掘り返すのは連中の十八番(オハコ)だ。カーリナが背後から延髄を薙ぎ払う。  残り二匹。  俺は手近な一匹にデュランダルを向ける。キッと相手の肩口を見据えて剣を振りかぶる。反射的にオークは剣を振り上げて防御しようとした。踏み込んだ右足を踏ん張り、動きを止めつつ軸足にして剣の軌道を変えた。オークの脇腹はガラ空きだ。デュランダルを右から左へと力任せに振り抜いた。  昔剣道で習った逆胴だ。深々と腹を裂かれたオークは倒れて動かなくなった。  残りの一匹はダリオとカーリナが挟撃で倒していた。 「ユリア、次三匹」 「了解」  ユリアが結界を操作して三匹のオークを解き放つ。  カーリナの手から手裏剣が飛ぶ。先頭の一匹が目を抑えて喚いた。早速使いこなしているようだ。駆け寄ったダリオが『ナッツクラッカー』をかまそうとするが、脇にいたオークに妨害されて決められない。急激に向きを変えつつ駆け抜けて妨害してきたオークのアキレス腱を断ち切った。  残りの一匹はまっしぐらに俺に向かってきた。大上段に振りかぶった剣を俺の脳天めがけて斬り下ろしてくる。その剣撃をやや斜めに振りかぶりながらデュランダルの鎬で摺り上げる。角度をつけた摺り上げに流されてオークの剣が空を切る。俺は振り上げた剣をそのまま相手の首に叩き込んだ。耳の下から喉元まで斬り下げられたオークは盛大に血を噴き上げてこと切れた。  目つぶしを食らって混乱したオークにカーリナが襲いかかっているがなかなか致命傷を与えられない。そこへダリオが援護に走るが、間に割って入ったアキレス腱を斬ったオークに抱きとめられた。そのままベアハッグの状態で締め上げられる。カーリナは自分の相手で手いっぱいだ。俺のところからは距離がある。 「グ、グギャ」  ダリオが苦痛に満ちた呻きをあげた。このままでは背骨を折られてしまう。 「クソッ、喰らえ」  俺はデュランダルを持っていないほうの手を振った。そう、ユリアほどの練度はないが俺も風魔法を使えるのだ。俺の八つ〇き光輪がオークの首を刎ねた。  同時にカーリナのバックアタックが残りのオークの延髄に突き刺さった。  カーリナとダリオに駆け寄ると即座に範囲回復魔法を発動する。ダリオは回復しきらなかったようなので追加の単体回復魔法もかけておく。心許なくなったMPを回復薬で補充しておこう。  とにかく、これで半分だ。 「ユリア、次三匹」  ユリアの額には脂汗が浮かんでいる。細かい調整をしながらの結界魔法の展張は負担が大きいのだろう。時間はかけられない。ダリオはかなり技量が上がっているとはいえ、体格差は如何ともしがたい。カーリナも一対一では分が悪い。本来は後衛職なのだ。  俺が何とかするしかない。  次の三匹に向かって真っ向から斬り込んだ。 「うおおおおおおっ」  自然に雄叫びが口から迸る。魔纏斬剣七十五パーセント。唐竹割にオークを真っ二つにする。そこへ脇から横殴りに棍棒の一撃がきた。なんとかデュランダルで受けるが衝撃で弾き飛ばされた。なんつー馬鹿力だ、畜生。第二撃を回避したところでダリオが剣をオークの軸足の膝裏に叩き込む。これで力の籠った打撃は放てまい。 「カーリナはダリオと連携」 「でも、ラウリ兄……」 「いいから」  キッと歯を食いしばったカーリナがダリオの相手に手裏剣を投じる。  俺は残りの一匹に向かい合う。どうも雰囲気が違う。どうやらオークチーフのようだ。しかも両手に剣を構えている。二刀流とは驚きだ。  間合いを詰めて一撃を繰り出す。しかし片方の剣で受けられた。その直後にもう一方の剣が振り下ろされる。慌てて間合いを切るが腕にかすり傷を受けてしまった。こいつは油断ならない。迂闊に手が出せないぞ。  そんな俺の迷いに乗じるようにオークチーフが攻勢に出る。左手の剣を前に突き出し牽制しつつ、上段に構えた右手の剣を振り下ろす機会を狙っている。上段の剣に備えて剣先を上げて防御すると手前の剣で斬りつけてくる。  防戦一方だ。その中でも一撃、二撃とかすり傷が増えていく。  どうする、このままじゃあじり貧だ。ダリオとカーリナの戦況を確認する隙もない。  落ち着け、相手のペースに巻き込まれたら終わりだ。冷静に自信をもって相対するんだ。デュランダルを中段に構え、細く長く息を吐きつつ相手を見極める。前に突き出している剣はやや小ぶりだ。おそらく相手に致命打を与えてくるのは上段の右手に持った大剣のほうだろう。その一撃を繰り出すためにもう一方の剣で俺の動きを制しているんだ。なにか対応策は――  俺の頭にイチかバチかの策が浮かんだ。  俺は中段に構えつつ防御に徹する。オークチーフは焦れたように手前の剣を繰り出しながらじりじりと間合いを詰めてくる。それに合わせて、俺も少しずつ後退していく。  チャンスは一度、しかも相手に気取らせないためには退きつつも気迫だけは前面に押し出し相手にプレッシャーを与え続けなければならない。  やがてほとんど壁際近くまで追い詰められた。もう後はない。それでも俺は防御に徹する。焦れたようにオークチーフが手前の剣で鋭い一撃を放ってきた。  俺はそれを大きく受け流した。敵の左手の剣は泳いだが、俺の左半身にも大きな隙ができた。そこへすかさずオークチーフの右手の剣が振り下ろされる。  ガツンッ  オークチーフの目が驚愕に見開かれた。俺を斬り伏せるはずの剣が障害物に当たって止まったのだ。洞窟の壁は垂直ではない。天井向かってドーム状になっている。大上段に振りかぶった剣は俺の体に達する前に壁に阻まれたのだ。千載一遇のチャンス。  俺は全力を込めてオークの喉元にデュランダルを突き込んだ。  ダリオとカーリナももう一匹のオークを倒したところだった。 「ラウリ! ゴメンもうもたないわ。結界が消える。残り四匹のうち二匹は最初の魔法で気絶させたのと火傷を負わせたヤツだから……お願いなんとか……」  ユリアががっくりと膝をついた。同時に結界が瞬いて消えた。MP回復薬は残っていても疲れきった体力は回復しない。もうユリアに頼るのは無理だろう。 「よく頑張った、後は任せろ」  俺は即座に治癒魔法を使ってMP回復薬を飲んだ。  結界が消えるなり飛び込んできたのは幸い一匹だけだった。 「カーリナ、ダリオ集中攻撃だ」  このチャンスを活かさない手はない。カーリナの手から手裏剣が飛び、ダリオが剣を閃かせて足元を襲う。結界に閉じ込められ、今までさんざんストレスをため込んでいたらしいオークには何の策もなかった。デュランダルの一閃で息の根を止めてやった。  洞窟の奥には気絶したオークが転がり、片足を引き摺ったオークが身構えている。火傷を負ったオークは俺たちの周囲に転がる仲間たちの惨状を見て明らかに怯えていた。そして震える剣を構えたまま一歩退いた。  ズドン  鈍い音が響き、火傷を負ったオークが巨大な戦槌に叩き伏せられてひしゃげた。  暗がりから現れた最後の一匹は今まで見たオークやオークチーフとは明らかに異なる気配を漂わせていた。

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